女装サロンで知り合った人とは、女装の話ばかりしていたわけではありません。服やメイクについて教えてもらうこともあれば、漫画やゲームの話で盛り上がることもありました。親しくなると、サロンの外へ飲みに行ったり、女装をしない姿で遊んだりするようにもなりました。
私がサロンに通っていたのは、2012年から2020年までです。2017年末からは生活の変化で通う頻度が下がり、2020年にサロンが閉店したことで、そこへ通う日々は終わりました。
振り返ると、サロンで得たものは服やメイク、写真だけではありません。会社やそれまでの生活とは別の人間関係ができたことも、長く通ってよかったと思う理由の一つです。
ここでは、私が通っていた一つの女装サロンでの経験を書きます。利用者同士が交流できるかどうかや、その雰囲気はサロンによって異なります。
友人を作るつもりで行ったわけではなかった
最初の目的は、衣装を借りてメイクをしてもらい、自分がどこまで変われるのか試すことでした。友人を作ることまでは考えていませんでした。
むしろ、ほかの利用者と顔を合わせることには不安がありました。女装した姿を見られるのは恥ずかしいですし、本気で取り組んでいる人から見たら、自分はみすぼらしく見えて、引かれてしまうのではないかとも思っていました。
私が通っていたサロンには、メイクを終えた後にくつろげる共用スペースがありました。そこで過ごしていると、ほかの利用者と話す機会がありました。
初回はたまたま利用者が少なく、ほかの方から普通に話しかけてもらいました。同じように女装を楽しみに来ている人と実際に話してみると、想像していたほど身構える必要はありませんでした。
服やメイクの話から、いつのまにかゲームの話へ
最初の会話は、着ている服やメイク、ウィッグなどについてでした。どこで服を買っているのか、どのような衣装が好きなのか。共通の話題が目の前にあるので、何を話せばよいのか分からず困ることはあまりありませんでした。
当時の私は、自分にどのような服やメイクが合うのか、まだよく分かっていませんでした。そのため、最初の頃は聞き手に回り、経験のある人に教えてもらうことが多かったです。分からないことは、分からないと答えても大丈夫でした。
ただ、会話のすべてが女装に関するものだったわけではありません。漫画、ゲーム、音楽、映画、スポーツなど、話題はいろいろありました。私が会った人の中には、コミケでのコスプレをきっかけに女装を始めた人や、昔から漫画やゲームに親しんできた人もいました。
覚えているのは、3DSで『モンスターハンター』を遊んでいたときのことです。そこから話が広がり、3DSで遊べるレトロゲームの紹介が始まりました。気がつけば、それぞれの年代で親しんできた好きなゲームを紹介する時間になっていました。
女装をして集まっているのに、話している内容は昔のゲームのこと。その場ではそれも自然で、ほかの趣味の集まりと大きく変わらなかったと思います。
普段の生活では接点のない人とも話せた
私が会った利用者の仕事や立場はさまざまでした。学生やアルバイトの人、現場で働く人、事務職などの会社員、会社で役職を持つ人もいました。
普段の生活では接点を持たないような人とも、サロンでは同じ趣味を持つ利用者として話せました。年齢や職業が違っていても、服やゲームの話から会話が続いていきました。
もちろん、最初からお互いの素性を詳しく知っていたわけではありません。店内では女装するときの名前だけでも交流できました。何度も顔を合わせて親しくなると、大まかにどの地域から来ているのか、どのような仕事をしているのかといった話もするようになりました。
本名や勤務先、住所まで明かさなくても付き合えます。自分が話してもよい範囲で話し、相手が話したくないことも無理に聞かない。そのくらいの距離感で交流できる場所でした。
閉店後も話し足りず、外へ飲みに行くようになった
何度か話すうちに、閉店時間になっても話し足りず、そのまま「もう一軒行こう」と誘われることがありました。特別なイベントというより、飲み会の二軒目へ行くような感覚です。
メイクを落として男性の姿に戻り、何人かで別の店へ飲みに行きました。仕事を終えたサロンのスタッフが、後から合流することもありました。
サロンでは女装した姿ばかり見ていたので、初めて男性の姿を見ると、すぐには誰だか分からない人もいました。顔の特徴に面影はあっても、メイクとウィッグがなくなるだけで第一印象はかなり変わります。
それでも、話し始めれば、いつもサロンで接していた相手でした。見た目の印象が変わっても、会話はそのまま続いていきました。
女装をしない日にも会う友人になった
親しくなると、サロンへ行く日とは別に会う人も出てきました。女装をせず、男性の姿で遊ぶこともありました。
一緒に遊ぶ相手は男性だけではありませんでした。サロンのスタッフや利用者の友人として知り合った女性もいて、最初はみんなで遊び、後には個別でも会うようになりました。
相手は、私が女装することを知っています。そのため、女装について隠したり、一から説明したりする必要はありませんでした。
知り合ったきっかけは女装でも、会うたびに女装をする必要はありません。共通の趣味から始まった付き合いが、サロンの外でも会う友人関係になっていきました。
会社とは別の人間関係がある気楽さ
私にとって、この付き合いのよさは、会社とは切り離されていたことにもありました。
趣味のつながりでも礼儀は必要です。ただ、そこには上司と部下という関係も、査定や業務上の利害もありませんでした。相手が会社でどのような役職についていても、サロンでは同じ趣味を楽しむ仲間として話せました。
会社の付き合いでは、仕事上の立場を意識する場面があります。サロンで知り合った人とは、そうしたことを気にせず、比較的ざっくばらんに話せました。
服やメイクを楽しむために通い始めた場所が、仕事以外の居場所にもなっていたのだと思います。
一方で、同じ趣味だからといって、全員と気が合うわけではありません。考え方を押しつけてくる人や、一緒にいて不快に感じる人もいます。そういう相手とは、挨拶をする程度にとどめてもよく、無理に親しくなる必要はありませんでした。
私は主に一つのサロンへ通っていましたが、複数の店を利用したり、外出先で別の交友関係を作ったりしている人もいました。誰とでも仲よくしようとするより、気の合う人と付き合う。その点も、ほかの趣味の人間関係と同じだと思います。
サロンが閉店しても、つながりは残った
2017年末からは、結婚による生活の変化でサロンへ通う頻度が下がりました。それでも、定期的に食べ歩きに誘ってもらい、忙しくなる前はそちらにも度々参加していました。
サロンへあまり行けなくなっても、一緒に出かける機会は続いていました。女装をする時間を共有するだけでなく、食事を楽しむ付き合いにもなっていたのです。
2020年にサロンが閉店してからも、関係が残っている人はいます。今でも遊びに誘われることがありますが、家庭の都合もあり、以前ほど頻繁には参加できません。それでも、会う機会が減ったからといって、つながりそのものがなくなったわけではありません。
私にとって女装サロンは、共通の趣味を持つ人が集まるサークルに近い場所でした。服やメイクの話から会話が始まり、ゲームの話で盛り上がり、気が合えば店の外でも会うようになる。そんなふうに、少しずつ人間関係ができていきました。
自分がどこまで変われるのか試してみたくて訪れた場所で、会社とも、それまでの生活とも違う友人ができました。サロンへ行かなければ知り合わなかった人たちと、今もつながっている。それも、女装を続けてきた中で得られた大切な経験です。


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