男性が女装を8年間続けて変わった「女性らしさ」の見方

女装を始める前、私は女性の服を着てメイクをすれば、それだけで女性らしく見えるようになると考えていました。

しかし、実際にメイクをして女性服を着てみると、服や顔だけではなく、仕草、表情、服のサイズ感など、さまざまな要素が見た目の印象に関係していると気づきました。

この記事では、私が約8年間女装サロンへ通い、店の衣装を借りる段階から自分で私服を選ぶようになるまでに、「女性らしさ」への見方がどう変わったのかを紹介します。

なお、ここでいう「女性らしさ」は、すべての女性に共通する性質という意味ではありません。あくまで、私が女装をする中で、外見や振る舞いについて感じた個人的な印象です。

女装を始める前に考えていた「女性らしい姿」

女装を始める前に思い浮かべていたのは、スカートをはき、ロングヘアにして、ナチュラルなメイクをした姿でした。

特定の芸能人やキャラクターを参考にしていたわけではありません。最初から明確な理想像があったというより、「自分が実際に女装したら、どこまで変われるのだろう」と試してみたい気持ちのほうが強かったと思います。

服を着ること自体はできても、自分でメイクをするのは難しそうでした。そのため、最初は女装サロンを利用し、スタッフにメイクをお願いしました。

当時は、メイクさえ整えば女性らしく見えるようになると思っており、身体の使い方やバッグなどの小物までは、ほとんど意識していませんでした。

実際に女装して初めて気づいたこと

実際に女性服を着てみると、服を替えただけでは体形や仕草までは変わりませんでした。

一方、メイク、特に目元の変化は予想以上でした。アイシャドウやつけまつげなどで目の周りが変わると、顔全体の印象も大きく変わります。初めて完成した姿を鏡で見たときは、「思っていた以上に、メイクやウィッグで印象をごまかせるものなんだな」と感じました。

意外に難しかったのは、脚を閉じて座ったり立ったりすることです。それまで無意識にしていた身体の使い方が、女性服を着ると目立つようになりました。

ただし、撮影で決められたポーズを一時的に取るだけなら、スタッフの指示に従うことで形にはできました。難しいのは、その姿勢や仕草を自然に見せることでした。

最初は分かりやすいコスプレ衣装を選んだ

最初に選んだのは、メイド服やセーラー服でした。どちらも、一目で女性の衣装だと分かりやすかったからです。

選んでいるときは、「本当に自分がこれを着て大丈夫なのだろうか」と戸惑いました。実際に着てみるとかなり恥ずかしく、当時の写真を見ると、表情も身体も固まっています。

当時の私は30歳手前でした。ミニスカートのエプロンドレスや制服風の衣装を着られたのは、普段着ではなくコスプレだったからこそだと思います。最初は非日常的な衣装を着ること自体が楽しく、それが女装を始める入口になりました。

コスプレから普通の女性服へ移っていった

何度か通ううちに、店の衣装を毎回借りると費用がかさむことや、自分専用の服も欲しいと考えるようになりました。また、サロンの中だけでなく、女装した状態で外へ出てみたいという気持ちも生まれました。

初めて自分で購入した女性服は、白と青のワンピースです。大きいサイズを探しやすかったため、通販の夢展望を利用しました。

ただ、通販では写真から想像した丈と、実際に着たときの丈が違うことがあります。最初に購入した服も、スカートが思っていたより短く感じました。

いろいろ試した結果、私の場合は派手な色よりも、地味で落ち着いた色のほうが着ていて安心できました。身体を締めつけない、ゆったりした服やロングスカートも好むようになりました。

最初の写真ではコスプレ衣装を着て直立したまま固まっていましたが、慣れた頃の写真では、カーディガン、ロングスカート、バッグ、パンプスなどを自分で組み合わせています。表情やポーズにも余裕が生まれ、コスプレから普段着へ移っていったことが写真にも表れていると思います。

最初のドキドキする非日常から、少しずつ日常の服装へ変わっていきました。

普通の女性服を自然に着るために考えたこと

服の組み合わせを細かく研究したわけではありませんが、サイズについては意識するようになりました。身体の大きさを目立たせにくくするため、少し大きめで、ゆったり着られる服を選ぶことが多くなりました。

トップスは肩幅に合わせて選び、胸元には必要に応じて詰め物を入れました。スカートは、ロング丈の快適さを知ってから、マキシ丈かロング丈を選ぶことが増えました。

靴は、ただでさえ身長が高くなるため、ヒールがあまり高くないものを選びました。バッグはスマートフォンと財布が入る程度の大きさ、アクセサリーは男性の姿でも使えるようなものを選んでいました。

季節感については、流行を細かく追うというより、暑すぎず寒すぎないことを優先していました。

最初は「女性らしく見えるか」を強く考えていましたが、続けるうちに、自分が着ていて落ち着けるかどうかも大切になりました。

「似合う服」と「女性らしく見える服」は同じではなかった

私が好きになったのは、ロングスカートとパーカーのような、ゆったりした服装です。周囲からも、そのような服のほうが自然に見えると言われました。

一方、女性らしく見えるかどうかは、服だけで決まるわけではありませんでした。私の場合、服の種類よりも、ウィッグやヘアアレンジによる印象の変化が大きかったと思います。

ロリータ系の服も可愛いとは思います。しかし、きれいに着るには合う体形がかなり限られるうえ、衣装の価格も高く、私には簡単に手を出せるものではありませんでした。

長く続けるうちに、服を選ぶときは見た目だけでなく、価格や使用頻度も考えるようになりました。最終的には、無理なく買えて繰り返し着られるかという、コストパフォーマンスも重要になりました。

姿勢や表情で写真の印象は大きく変わった

初期の写真を見ると、立ち方は直立不動で、手や脚の位置、顔の向きも、すべてスタッフに言われるがままでした。表情だけでなく、全身から緊張が伝わってきます。

何度も撮影するうちに、ポーズにはかなり対応できるようになりました。スタッフやほかの利用者から姿勢や歩き方を教わり、撮影時には笑顔を意識するようになりました。

私の場合、口角を少し上げるようにすると、写真の印象が柔らかくなりました。ただし、笑顔を意識しすぎると口元だけが笑い、目が笑っていない不自然な表情になることもあります。

撮影用のポーズは取れるようになっても、おしとやかに見せることは今でも得意ではありません。形をまねることと、それが自然な振る舞いとして身につくことは別なのだと思います。

女性の服装を見る視点も変わった

女装を始める前、女性を見るときに意識していたのは、主に顔や体形でした。服の組み合わせや小物など、ファッション全体を細かく見ることはあまりありませんでした。

自分で女性服を着るようになってからは、女性がどのように服を組み合わせているのか、体形に対してどの程度のサイズを選んでいるのかを見るようになりました。

バッグを見るときも、デザインだけでなく、「この大きさなら、どれくらい荷物が入るのだろう」と考えます。服についても、前の季節のものをいつ頃まで着られるのか、髪型についても、食事の邪魔にならず、顔を小さく見せられるかという視点が加わりました。

歩き方については、一本の線の上を進むように足を運ぶと、写真や後ろ姿の印象が変わると教わりました。ただし、これはすべての女性がそのように歩くという意味ではなく、私が女性らしい見え方を試す中で意識した方法の一つです。

特に参考になったのは、女装した人と女性が同じ場所に並んでいるときです。服そのものだけでなく、サイズ感や着こなし、自然な立ち方の違いが見えやすくなります。

実際の女性の普段着は、私が最初に選んだコスプレ衣装よりもずっと落ち着いていました。ロングスカートとヒールの低いサンダルなど、見た目だけでなく、動きやすさを考えた服装も多いことに気づきました。

その影響もあり、私自身も丈の長いスカートと、ゆったりした服を選ぶようになりました。

「女性に見えること」へのこだわりも薄くなった

始めたばかりの頃は、男性だと気づかれることが怖く、外出すれば何か言われるのではないかと心配していました。写真を撮るときも、どう見せたいかを考える余裕はほとんどありませんでした。

現在は、遠目から女性のように見えれば十分だと考えています。近くで話せば地声で男性だと分かるため、完全に女性だと思われ続けることを目標にはしていません。

私が女装するとき、ある意味では自分なりの理想の女性像を目指しています。そのため、男性の姿でいるときに起こりがちな、互いに雑な言葉や態度でやり取りする頻度が減りました。私自身の振る舞いも多少柔らかくなり、相手の接し方も穏やかになるように感じました。

これは単に女性へ間違えられたから優しくされた、という意味ではありません。自分の服装や振る舞いが変わることで、その場のやり取りの雰囲気も変わったのだと思います。

今では、他人から完璧に女性と認識されることより、自分が好きな服を着て楽しめることを優先しています。私にとって女装は、普段とは違う服を着るだけでなく、自分の世界を広げるきっかけになりました。

女装が特別な行為ではなくなった時期

最初は店へ入るだけで長い時間迷いましたが、2回目以降は比較的すぐに入れるようになりました。女性服も、始めてから1か月ほどで自分で購入するようになりました。

ほかの利用者と普通に話せるようになったのは、3か月ほど経った頃です。半年ほど経つと写真でも自然な表情を作れるようになり、女装に対する特別な興奮や羞恥心も薄れていきました。

1年ほど経った頃には、サロンへ持って行く荷物を減らすため、女性用の下着を自宅から身につけて向かうこともありました。さらに慣れると、女装した状態で一人で外を移動できるようになりました。

慣れたことを特に実感したのは、帰宅後に入浴しようとしたときです。服と一緒に女性用の下着を脱ぎ、その存在をまったく意識していなかったことに気づきました。

以前なら身につけている間ずっと気にしていたものが、その頃には普段の下着と同じような感覚になっていました。「特別なことでも、続ければ生活になじむものなのだな」と感じた出来事です。

新鮮さや羞恥心は薄れましたが、女装サロンでほかの利用者と話すことが楽しくなり、それも通い続ける理由になりました。

8年間続けて分かった、私にとっての女性らしさ

女装を始める前、私にとって女性らしさとは、女性服とメイクによって作る外見でした。

しかし、約8年間続けた現在は、仕草や表情、姿勢を含め、その姿で本人が自然に過ごせることが大きいと考えています。

服装は見た目を変え、メイクも私の場合は髭や眉などの男性的な特徴を和らげるうえで大きな役割を持ちます。しかし、それだけで全身の印象が決まるわけではありません。姿勢が悪ければ服がきれいに見えないこともあり、身体や普段の仕草は、見え方の土台になります。

女性服を着ても、身体そのものが女性へ変わるわけではありません。それでも、服装や周囲の視線によって、姿勢や動作、物の見方は少しずつ変わりました。

私にとって女装は、異性の服装や振る舞いの一部を、自分の身体を通して知る経験だったのだと思います。自分が無理なく過ごせる服装や振る舞いを見つけたときが、結果として最も自然に女性へ近づいて見えるようにも感じています。

この経験がTS小説の描写へつながった

女装は、実際に女性の身体になることとは違います。女性特有の生理現象や、身体が違うことで生じる感覚については、想像や調査で補うしかありません。

それでも、服と身体が合わない違和感、鏡に映る現在の姿と頭の中にある自分とのずれ、未知だった服装や動作が少しずつ日常になる感覚は、自分自身で経験できました。

この経験によって、私のTS小説では、身体が変わった瞬間の驚きだけでなく、その状態が少しずつ日常になっていく過程を重視するようになりました。

最初は強く意識していた服装や動作を、いつの間にか考えずに扱えるようになる。未知だったものが既知のものへ変わっていく。その変化には、私自身が女装へ慣れていった経験が反映されています。

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