男性が実際に女装すると、メイクや服装だけでなく、荷物、歩き方、食事、トイレまで普段とは違う問題が出てきます。
私は女装サロンや友人の協力で何度も女装し、女性服を着て外出してきました。
この記事では、その経験から気づいた男女の違い、初心者が用意したいもの、女装経験がTS小説へ与えた影響をまとめます。
あくまで私自身と、私の周囲で見聞きした範囲(8年ほど女装サロンに通い、数十人との交流)の体験談です。
すべてが正しいとは限りません。
「自分はこう思う」といった別の意見も歓迎しますので、ぜひ教えてください。
1.女装する男性は、みんな女性になりたいのか?
女装する男性が、みんな女性になりたいとは限らない
女装する男性を見ると、「本当は女性になりたいのではないか」と考える人もいるかもしれません。
しかし、少なくとも私がこれまで知り合った人たちを見る限り、女装する男性が全員、女性として生きたいと望んでいるわけではありません。
中には女性ホルモンを使用したり、身体を変えるための手術を受けたりする人もいます。
ただし、私の周囲では、そのように医療的な移行を望む人はかなり少数でした。
多かったのは、もっと身近な理由で女装を始めた人たちです。
好きなキャラクターと同じ格好をしてみたい。
特定のデザインの服を着てみたい。
罰ゲームなんかで一度だけ女性の服を着たら、思いのほか楽しかった。
他の女装している人を見ていて、自分もやってみたくなった。
深い理由はないけれど、なんとなく一度試してみたかった。
そうした好奇心や遊びの延長から始めた人が、私の周囲ではほとんどでした。
女装中の声は? 地声で話す人も多い
女性の姿になったとき、声まで女性らしく変えるのかというと、これも人によります。
発声や話し方を練習し、女性らしい声を出せる人もいます。
しかし、そこまで本格的にボイストレーニングをしている人は、私の周囲では少数でした。
きれいにメイクをして、ウィッグと女性服で外見を整えていても、会話が始まれば普段の地声で普通に話す。
むしろ、そのような人のほうが多かったと思います。
外見は女性らしく整えていても、声や話し方まで常に女性へ近づけたいとは限りません。
どこまで変えたいか、何を楽しみたいかは、人によって違います。
女装と性自認・性的指向は別のもの
女装とLGBTを直接結びつけて考える人もいますが、服装、性自認、性的指向は、それぞれ別のものです。
女装することだけで、その人がトランスジェンダーであるとは判断できません。
私の周囲でも、女性として生活することを望んでいる人や、医療的な移行を考えている人は少数でした。
性的指向についても同じです。
私が男性として知り合った女装者の中には、結婚している人や、女性の恋人がいる人も多数いました。
独身の人もいましたが、同性愛者や両性愛者だから女装している、という話を本人から聞くことはほとんどありませんでした。
もちろん、私が聞いていないだけの可能性もありますし、すべての人が自分の性自認や性的指向を友人へ話すわけでもありません。
そのため、「絶対にいない」と言い切ることはできません。
ただ、友人として付き合う範囲では、それを確認する必要も、関係上の障害になることもありませんでした。
どのような服を着るかと、誰を好きになるかは別の話だからです。
女装は日常の延長にある遊びでもある
女装は、経験のない人から見れば、かなり特殊な趣味に感じられるかもしれません。
けれども、実際にその中へ入ってみると、必ずしも大げさな決意を伴うものではありませんでした。
普段とは違う服を着てみたい。いつもと違う自分を見てみたい。
好きな衣装で写真を撮りたい。
友人と一緒に、少し変わった時間を楽しみたい。
多くの人にとって女装は、人生そのものを変える決断ではなく、日常の少し先にある遊びなのではないかと、私は思っています。
これは統計的な調査の結果ではなく、あくまで私が実際に女装を経験し、その中で知り合った人たちを見て感じたことです。
女装する理由も、目指す姿も、その人がどこまで変わりたいかも一人ずつ違います。
だからこそ、女装しているという一点だけで、その人の性自認や性的指向、生き方まで決めつけることはできないのだと思います。
2.女装メイクで初めて気づいたこと
ここで紹介するのは、あくまで私が実際に女装して感じたことです。
顔立ちや髭の濃さ、肌質によって必要なメイクは変わるため、すべての男性に当てはまるとは限りません。
女装メイクでは髭と眉の補正が重要
私の場合、女装メイクで最初に気になったのは髭を隠すことでした。
髭を丁寧に剃っても、肌には多少の青みが残ります。
普段はあまり気にならなくても、女性らしいメイクをすると、かえって髭の青さが目立ってしまいました。
脱毛する方法もありますが、費用や時間がかかり、肌への負担も考えなければなりません。
女装を始めたばかりの段階で、いきなり脱毛へ進むのは負担が大きいと思います。
そこで重要になったのがコンシーラーです。
髭の青みをコンシーラーで補正するだけでも、顔の印象はかなり変わります。
ただし、コンシーラーを塗った部分と周囲の肌に境目ができるため、それだけでは自然に見えません。
上からファンデーションを重ね、顔全体になじませる必要がありました。
もう一つ、想像していた以上に影響が大きかったのが眉です。
女性の場合は、元の眉の形によっては、眉を隠すような処理をしなくても十分にメイクできると思います。
しかし私の場合、男性らしい太さや形の眉をそのまま残すと、ほかの部分をきれいに化粧しても、顔全体にごつい印象が残りました。
そのため、眉にもコンシーラーを使い、元の眉をできるだけ目立たなくしてから描き直しました。
私にとって髭と眉の補正は、女性らしく見せるためにほぼ必須といえる工程でした。
つけまつげとアイシャドウで目元の印象が変わる
目元も、仕上がりを大きく左右します。
つけまつげとアイシャドウを使うだけで、メイク前とメイク後の印象はかなり変わりました。
目元をしっかり作ると、顔全体が女性らしく見えやすくなります。
反対に、目元をほとんど変えないままだと、髭や眉を隠しても男性らしさが強く残りました。
女装メイクは、ただ色を足せばよいわけではありません。
私の場合は、まず髭や眉などの男性らしく見える部分を抑え、そのうえで目元を強調する必要がありました。
そこまでで、鏡に映る自分の姿は大きく変わっていると思います。
女装中の食事で口紅が落ちる
実際にメイクをした状態で過ごしてみると、見た目以外の不便さにも気づきます。
口紅を塗ったまま飲み物を飲むと、コップや食器に色が付きます。
口紅も落ちますし、付着した食器を洗う手間も増えます。
そのため、可能であれば飲み物はストローで飲んだほうが扱いやすいと感じました。
女装メイク中の汗はどう拭く?
また、メイク中は普段のように顔を気軽に触れません。
汗をかいてもタオルでごしごし拭くことができず、無意識に目元や口元を触るだけでも化粧が崩れる可能性があります。
自分でメイクを直せるなら、その場で修正できます。
しかし、女装サロンや知人などにメイクをお願いした場合、自分では同じ状態に戻せないことがあります。
崩れてしまったら、そのまま過ごすしかありません。
自分で直す場合も、コンシーラーやファンデーション、口紅などを入れた化粧ポーチを持ち歩く必要があります。
女性が化粧ポーチを持ち歩く理由を、私は実際にメイクをしてから理解しました。
化粧は完成させて終わりではなく、外出中も崩さないように気を配り、必要に応じて直し続けるものだったのです。
なお、ここまでメイクについて書いてきましたが、私自身はきちんとメイクができるわけではありません。
あくまで、女装サロンや友人にメイクしてもらった経験をもとにした感想です。
そのため、詳しいメイク方法を解説することはできません。具体的な技術については、専門の人に確認してもらえればと思います。
3.女性服を着て驚いた男女の違い
女性服にバッグが必要な理由
女性服を実際に着てみると、見た目だけでは分からなかった男性服との違いがいくつもありました。
最初に困ったのは、ポケットの少なさです。
男性用のズボンであれば、スマートフォンや財布、鍵などをポケットに入れて出かけられます。
しかし、女性服にはポケットが付いていなかったり、付いていても小さくて実用にならなかったりするものが少なくありません。
スカートを穿いたときには、スマートフォンも財布も入れる場所がなくなりました。
とはいえ、近所へ少し出かけるだけなのに、大きなバッグを持ち歩くのも邪魔です。
そこで初めて、女性がよく持っている小さなバッグの意味が分かりました。
以前は服装に合わせるための飾りという印象もありましたが、実際にはスマートフォン、財布、鍵、化粧品などを入れるための必需品でした。
特に女装中は化粧直しの道具も必要になるため、普段より持ち物が増えます。
小さなバッグは、見た目と実用性を両立するための道具だったのです。
女性服のサイズは男性服から単純換算できない
服のサイズ選びにも苦労しました。
私は普段、男性用ではLサイズを着ることが多いため、女性用ならLLか3Lくらいを選べばよいと思っていました。
実際、LLは厳しかったですが、3Lくらいのサイズを選ぶと着られることは多かったのです。
ただそれだけでは判断できませんでした。
肩幅に合わせると胸元が余り、胸元に合わせるとウエストがきつくなることがあります。
同じLLや3Lでも、メーカーや服の形によって大きさがかなり違い、予想以上に小さくて入らないこともありました。
ジャージや伸縮性を前提にした服は別として、私が選んだ女性服には、思っていたほど生地が伸びないものも多くありました。
男性用の服と同じ感覚で無理に腕や肩を通そうとすると、縫い目やファスナーを傷めかねません。
そのため、表記されているサイズだけでなく、肩幅、胸囲、ウエストなどの実寸を確認することが重要でした。
可能なら、購入する前に試着したほうが安心です。
通販では難しいことも分かっていますが……。
あと、○号というサイズがどのくらいなのかは、いまだによく分かっていません……。
ロングスカートは予想以上に快適だった
一方で、実際に穿いてみて予想以上に快適だったのがロングスカートです。
スカートは落ち着かず、歩きにくいものだと思っていました。
しかし、ロングスカートはズボンのように脚を締めつけず、生地も脚の形に沿ってまとわりつかないため、思っていたより開放感がありました。
あまり大股で歩くのは見た目として好ましくないかもしれませんが、裾に十分な広がりがあるロングスカートなら、多少歩幅を広げても動きを妨げません。
そのため、初めて穿いたときにも、歩き方に極端な違和感はありませんでした。
暖かさについても意外な発見がありました。
冬はスカートでは寒そうに見えますが、丈の長いスカートは内部に空気の層ができるため、それが断熱材のような役割を果たします。
生地や裏地の種類にもよりますが、想像していたより暖かく感じました。
その一方で、裾が開いているため風も通ります。
夏場は熱がこもり続けるわけではなく、ロングスカートでも思ったより涼しく過ごせました。
もちろん、厚手の裏地が付いたものと薄手のスカートでは快適さがまったく違います。
丈だけでなく、生地や裏地、季節との組み合わせも重要でした。
正直なところ、一年を通してロングスカートでもよいと思うほど快適でした。
男性の普段着として着るには、まだ難しいところもありますが……。
ミニスカートでは下着とすね毛に注意
ミニスカートを穿く場合は、さらに下着の形や丈まで考える必要があります。
男性用のトランクスは裾が長いため、短いスカートでは動いたときに下から見えてしまいます。
これでは女装としての見た目が崩れるだけでなく、人前で過ごす服装としても適切ではありません。
ミニスカートを穿くなら、スカートから見えない形の下着やインナーを選ぶ必要があります。
私としては、女装するときは意地で男性用下着を合わせるより、素直に女性用として作られたものを身につけるほうが自然だと感じました。
私自身は、女性用下着も男性用下着も普通に身につけます。
男性が女性用の靴を選ぶ難しさ
靴についても、女性用を履くだけで全体の見え方が変わります。
私は身長が16Xセンチほどあり、男性としては微妙ですが女性として見れば元からやや高めです。
そこにヒールのある靴を履くと、身長は170センチを超えます。
周囲の女性と並んだときに明らかに背が高くなり、自分でも想像していた以上に目立ちました。
ヒールを履けば女性らしく見えるとは限りません。
身長が高くなるうえ、慣れていないと歩き方も不自然になります。
見た目だけでなく、自分が安全に歩ける高さを選ぶ必要がありました。
また、足のサイズも問題になります。
私が実店舗で探した範囲では、女性用は25センチまで、男性用は26センチからの商品が多く、25.5センチはどちらも選択肢が少なく感じました。
足の大きい男性が女性用の靴を探すと、合うサイズが見つからないことも少なくありません。
現在は女装用品の専門店や通販もあり、大きいサイズがまったく見つからないわけではありません。
25.5センチかつ甲高幅広の私は、どちらの靴も品ぞろえが少なくて困ります……。
ミニスカートのすね毛処理と隠し方
それにスカートを穿くと、脚の毛も気になります。
すね毛は厚手のタイツを穿けば、ある程度は目立たなくできます。
ただし、完全に見えなくなるわけではありません。
特にミニスカートでは脚に視線が集まりやすいため、きれいに見せたいなら剃ったほうが自然です。
それでも、すね毛を剃ることに抵抗がある人もいると思います。
その場合は、デニール数の高いタイツを選んだり、ニーハイソックスや丈の長いスカートで隠したりする方法もあります。
女性服は、単に男性服と形や色が違うだけではありませんでした。
ポケットがないからバッグが必要になり、服の形に合わせて下着を選び、スカート丈に合わせて脚の見せ方を考える。
ヒールを履けば、身長だけでなく立ち方や歩き方まで変わります。
一着の服を替えるだけでも、それに合わせて持ち物や下着、靴、動作まで変える必要がある。
それが、実際に女性服を着て初めて分かった大きな違いでした。
4.女装した状態で外出して困ったこと
女装して遠出するとトイレ選びに迷う
女装した状態で外へ出ると、家の中で鏡を見ているだけでは分からなかった問題がいくつも出てきます。
私が最も迷ったのは、トイレの利用です。
身体的には男性なので、基本的には男性用トイレに入るべきだと考えていました。
しかし、化粧をして女性服を着た状態では、男性用トイレにも入りづらくなります。
かといって、女性用トイレへ入るわけにもいきません。
私の場合は、周囲の状況を確認したうえで、空いている多目的トイレを利用したことがあります。
ただし、多目的トイレは設備を必要とする人のためのものでもあります。
利用できる設備や条件は施設によって異なるため、現地の表示に従い、必要としている人を優先する配慮が欠かせません。
女装して外出するなら、出発前に個室型や共用型のトイレがある施設を調べておくと安心です。
実際に困ってから探すのではなく、利用できそうな場所を先に把握しておくことも、外出準備の一つだと感じました。
外出先で女装メイクを直せない問題
顔の汗を簡単に拭けないことにも困りました。
普段なら、汗をかいたときにタオルやおしぼりで顔を強く拭いてしまいます。
しかし、メイクをしていると同じことはできません。
顔をこすると、ファンデーションやコンシーラーが落ち、髭や眉を補正した部分まで崩れてしまいます。
飲食店でおしぼりを渡されても、普段のように顔を拭くことはできません。
汗を取るときは、ハンカチやティッシュを肌へ軽く当て、ぽんぽんと押さえるようにする必要がありました。
メイク中は、汗を拭く動作一つにも気を使います。
暑い季節に女装して外出する場合は、汗をかいてから対処するより、できるだけ涼しい場所を選ぶことも重要でした。
食事中はウィッグと口紅に注意
食事中には、ウィッグの髪が邪魔になります。
見た目を優先して髪を下ろしていると、前かがみになったときに髪が口元へ落ちてきます。
料理に髪が触れそうになったり、口へ入ったりするため、そのままでは落ち着いて食べられません。
食事をするときだけでも髪をまとめたくなります。
ヘアゴムやヘアピンを持っていると、髪を押さえたり一時的にまとめたりできるため、かなり助かりました。
口紅にも注意が必要です。
飲み物を飲むとコップに口紅が付き、食事をすれば食器にも色が移ります。
当然、自分の唇からは少しずつ口紅が落ちていきます。
食後には口元を確認し、必要であれば塗り直さなければなりません。
付着した口紅によって食器を洗う手間も増えます。
ストローを使える飲み物なら、口紅が直接コップへ触れるのをある程度避けられますが、完全に気にせず済むわけではありません。
ヒールでは歩幅と歩く速度が変わる
ヒールを履いた状態での移動も、想像以上に大変でした。
ヒールでは足元が不安定になり、自然と歩幅が小さくなります。
歩く速度も普段より遅くなり、長い距離を移動すると足への負担が大きくなりました。
男性と一緒に歩く場合、相手が普段の速さで先へ進んでしまうと、こちらは追いつくのが大変です。
相手に歩調を合わせてもらわなければ、無理に急いで転びそうになったり、足を痛めたりします。
女性服を着てヒールを履いたことで、「一緒に歩く人が速度を合わせる」という配慮の意味を、身体で理解できました。
女装して外出したときに絡まれた経験
外出中、酔った人に絡まれたこともあります。
私の場合、遠目には少し大柄な女性くらいに見えたようです。
特に酒が入っていて、勢いやノリで行動する人からは、興味本位で声をかけられることがありました。
相手はこちらを細かく確認しているわけではありません。
遠くから女性だと思われ、そのまま声をかけられたり、場合によっては異性として接近されたりすることもあります。
途中で男性だと気づかれれば、すぐに離れていく人もいます。
しかし、相手が引くに引けなくなったり、怖いもの見たさで会話を続けたり、面白い出来事として仲間内の話題にしようとしたりすることもありました。
必ずしも悪意のある絡み方だけではありませんでしたが、こちらが安全かどうかは別問題です。
女装中に限らず、酔っている相手とは適度に距離を取り、危険を感じたら人のいる場所へ移動したほうがよいと思います。
女装しても大半の通行人は気にしない
その一方で、外出前に想像していたほど、周囲の人から注目されることはありませんでした。
素面で普通に歩いている人の大半は、こちらを見ても特に何もしてきません。
すれ違う人の顔や服装を一瞬見ることはあっても、立ち止まって細かく観察する人はほとんどいませんでした。
考えてみれば、自分自身も街を歩いているとき、通行人一人ひとりの顔を詳しく見ているわけではありません。
周囲の人も同じです。
女装している本人は、「見破られているのではないか」「変に思われているのではないか」と意識し続けます。
しかし、実際には、自分が考えているほど他人はこちらを見ていませんでした。これは、女性として自然に見える、いわゆる「パス」ができていたという意味ではありません。
外出して最も大きく変わったのは、服装だけではありません。
トイレを先に確認し、汗の拭き方に気を配り、食事の前に髪をまとめ、歩く速度を落とす。
さらに、周囲からどのように見られているかを考えながら行動する。
女装して外を歩くことは、女性の服を着て出かけるだけではなく、普段なら意識しない細かな行動を一つずつ変えていく体験でした。
5.初心者は何を用意すればよいか
もし女装を始めるからといって、最初から服や化粧品をすべて買いそろえる必要はないと思います。
実際に試してみなければ、自分に似合う服や必要なサイズは分かりません。
女装を一度体験して満足するかもしれませんし、続けるとしても、最初に想像していたものとは違う服装を好きになる可能性があります。
そのため、最初に購入するものと、しばらく借りてもよいものを分けて考えるのがおすすめです。
女装初心者が最初に自分で用意したいもの
私が最初から自分専用として用意したほうがよいと思うのは、下着、ウィッグ、バッグの三つです。
自分専用の下着
下着は肌に直接触れるものなので、借りるのには向いていません。
衛生面を考えても、最初から自分専用のものを用意したほうが安心です。
ただし、最初から高価な下着を何組も買う必要はありません。
まずは身につけたい服から見えず、自分の身体に無理なく合うものを最低限そろえれば十分です。
特にミニスカートを穿く場合は、男性用のトランクスでは裾が見える可能性があります。
外から見えない形や丈を考えて選ぶ必要があります。
ウィッグ
ウィッグも、自分専用のものを持っていたほうが便利です。
髪型は顔全体の印象を大きく左右します。
毎回違うウィッグを借りるより、自分に似合う髪型を一つ決めておけば、女装したときの見た目を安定させやすくなります。
最初の一つとしては、輪郭をある程度隠せるセミロングくらいの長さが扱いやすいと思います。
男性は女性と比べて、顎や頬などの輪郭が大きく見えることがあります。
顔の横に髪がかかる長さのウィッグなら、輪郭や顔の大きさを目立ちにくくでき、全体を自然に見せやすくなります。
ショートヘアは扱いやすそうに見えますが、顔の輪郭がはっきり出ます。
髪型で隠せる部分が少ないため、顔立ちやメイクとの相性が問われ、初心者にはかえって難易度が高いと感じました。
反対に、長すぎるウィッグは絡まりやすく、ブラッシングや保管などの手入れが大変です。
食事中に髪が口元へ落ちたり、鞄や服に挟まったりすることも増えます。
輪郭を隠せる一方で、長すぎて扱いに困らない。
そのバランスを考えると、私の場合はセミロング程度が最初のウィッグとして使いやすいと思いました。
高価なものを最初から選ぶ必要はありませんが、頭の大きさに合うか、前髪を調整できるか、顔の横に自然に髪がかかるかは確認したほうがよいでしょう。
また、食事や移動の際に髪を一時的にまとめられるよう、ヘアゴムやヘアピンも一緒に持っておくと役立ちます。
もちろん好みがあれば、それを買うに越したことはありません。
バッグ
女性服には、スマートフォンや財布が入るほどのポケットがないことがあります。
そのため、小さくてもよいのでバッグを用意しておく必要があります。
スマートフォン、財布、鍵、ハンカチに加え、化粧直しをするなら化粧品も持ち歩きます。
服装の飾りとしてではなく、必要なものを運ぶための実用品として選ぶことが重要です。
最初は、さまざまな服装に合わせやすい色と形のものを一つ持っていれば十分だと思います。
靴・メイク用品・女性服は最初に借りてもよい
一方で、靴、化粧品、女性服は、最初から購入せずに借りて試す方法もあります。
サイズの合う靴
女性用の靴は、サイズが大きくなるほど選択肢が少なくなります。
特に25センチ以上になると、一般的な売り場では希望する形や色が見つからないことがあります。
表記上は足の長さが合っていても、横幅や甲の高さが合わず、実際に履くと痛くなる場合もあります。
さらにヒールのある靴は、普段の男性用靴とは歩き方も変わります。
そのため、最初は女装サロンなどでサイズの合う靴を借り、ヒールの高さや歩きやすさを試してから購入してもよいと思います。
見た目だけで選ばず、安全に歩けるかどうかを優先する必要があります。
ニッセンとかAmazon、楽天なんかでも買えますし、サイズ感が分かれば通販で探す方が楽かも?
最低限のメイク用品
化粧品も、女装を始める前にすべて買いそろえる必要はありません。
最初は何を買えばよいのか分からず、持っていたとしても自分で使いこなせるとは限りません。
コンシーラー、ファンデーション、アイシャドウ、つけまつげ、口紅など、一通りそろえるだけでも種類が多くなります。
まずは女装サロンや、協力してくれる人に化粧品を借りて、実際にメイクしてもらう方法があります。
そこで自分の顔がどのように変わるのかを見てから、自分でもメイクしたいと思った段階で、必要なものを少しずつ購入すれば十分です。
一度体験すれば、髭や眉を隠すために何が必要か、自分にはどの色が合うのかも判断しやすくなります。
ただし、衛生面から共用に向かない化粧品もあります。
借りられる範囲や使い方については、提供する人や店舗の指示に従う必要があります。
女性服
女性服も、通販だけで最初の一式をそろえるのは難しいと感じました。
男性用ではLサイズを着ていても、女性用のLやLLが必ず合うとは限りません。
肩幅、胸囲、ウエスト、腕の太さなどによって、入る部分と入らない部分が出てきます。
写真で見たときには似合いそうでも、実際に着ると形が合わなかったり、思っていたより動きにくかったりすることもあります。
最初は女装サロンなどで複数の服を借り、ワンピース、スカート、ブラウスなどを実際に試してみると、自分に合うサイズや好きな服装を判断しやすくなります。
試着したうえで「また着たい」と思ったものに近い服を、後から自分で探せばよいと思います。
女装用の服や小物を購入できる場所
自分で購入する段階になれば、ニッセン、Amazon、楽天などでも一式を探せます。
ニッセンは、大きいサイズの服や靴を比較的探しやすいのが利点です。
サイズ展開を見ながら、自分の実寸に近いものを選べます。
Amazonや楽天は商品の選択肢が多く、服、ウィッグ、靴、バッグ、化粧品までまとめて探せます。
その一方で、同じサイズ表記でも商品によって実寸が異なります。
購入前にはサイズ表を確認し、返品や交換が可能かどうかも調べたほうが安心です。
女装サロンには、購入する前に複数の服やウィッグ、靴、メイクを試せる利点があります。
自分だけで一式を選ぶのが難しい人にとっては、最初の体験場所として使いやすいと思います。
女装初心者は最初から完成形を目指さなくてよい
女装を始めるとき、最初から完璧な服装やメイクを完成させる必要はありません。
まずは衛生面や持ち歩きの都合から、自分専用の下着、ウィッグ、バッグを用意する。
サイズ選びや技術が必要な靴、女性服、化粧品は、借りられる場所で試してみる。
その体験を通して、自分に合うものや、本当に欲しいものを少しずつ見つけていけばよいと思います。
最初に大量の商品を買うより、一度試してから選んだほうが、失敗も出費も少なくなります。
自分がどのような姿になりたいのかも、実際に女装してみてからのほうが分かりやすくなるはずです。
6.この経験がTS小説につながった
女装で変わったのは見た目だけではなかった
女装を始める前の私は、女性の服を着てメイクをすれば、それだけで女性に近づけるように思っていました。
もちろん、見た目は変わります。
髭や眉を隠し、目元を作り、ウィッグを被る。
男性服を脱いでスカートやワンピースに着替え、ヒールを履く。鏡に映る姿は、普段の自分とは明らかに違います。
そして、それを素直に楽しいと思い、何度も女装サロンに通っていました。
しかし、実際にその姿で過ごしてみると、変わるのは外見だけではありませんでした。
服の形が違えば、立ち方や歩き方が変わります。
ヒールを履けば歩幅が小さくなり、スカートを穿けば裾の動きが気になります。
ポケットがなければバッグを持つようになり、メイクをしていれば顔の汗を乱暴に拭けません。
食事中はウィッグの髪を気にし、飲み物を飲めばコップに付いた口紅が目に入ります。
外出先では、利用するトイレについても考えなければなりません。
それまで意識していなかった違いが、日常のあらゆる場面から次々に現れました。
服装と周囲の視線が行動を変えた
そして不思議なことに、最初から女性らしい振る舞いを知っていたわけではないのに、服装や外見、周囲から向けられる視線が、少しずつ行動を変えていきました。
歩幅が大きければヒールでは歩きにくい。
無造作に座ればスカートの裾が気になる。
いつものように顔を拭けばメイクが崩れる。
普段と同じように荷物を持とうとしても、服にはポケットがない。
誰かに細かく教えられなくても、服や靴の構造が「その動きでは都合が悪い」と伝えてきます。
失敗するたびに動作を変え、周囲から不自然に見えないように振る舞ううちに、少しずつその姿に合った行動が身についていきました。
非日常だった女装が次第に日常へ変わった
最初のうちは、当然ながら照れがあります。
いつもと違う下着を身につけることにも、スカートを穿くことにも、化粧をした顔で外へ出ることにも強く意識が向きます。
私の場合は、それと同時に興奮もありました。
自分が普段とは違う姿になっている。
その非日常性そのものが、感情を大きく動かしていたのだと思います。
ところが、何度か繰り返していると、その感覚も少しずつ変わります。
特別だったことが自然になり、興奮していたことが平常になります。
最初は一つずつ意識していた動作も、やがて考えなくてもできるようになっていきます。
今では、男性の服の下にブラジャーやショーツを身につけていても、それだけで特別な感情が起きることはほとんどありません。
身につけていることを忘れている時間さえあります。
服装も下着も変わっていないのに、それを受け取る自分の意識が変わったのです。
女装経験がTS小説の身体描写につながった
この変化が、私のTS小説の土台になっています。
服装だけを変えても、身体そのものが女性に変わるわけではありません。
骨格も、声も、身体の構造も元のままです。
だからこそ私は、「もし服だけではなく、身体ごと女性になったらどうなるのか」「もし女性と身体が入れ替わり、それまで知らなかった生活を引き受けることになったらどうなるのか」と考えるようになりました。
女装を経験する前にも、男女の身体が入れ替わる物語を想像することはできました。
しかし、実際に女性の服を着て外出したことで、その想像は以前より具体的になりました。
身体が変われば、着られる服が変わる。
服が変われば、動き方が変わる。
周囲からの見られ方が変われば、自分の振る舞いも変わっていく。
そして、その状態で何日も、何か月も暮らしたとき、最初は他人のものだった身体や生活が、いつから日常になるのか。
私の小説で、胸の重さや服の窮屈さ、ポケットのなさ、ヒールで歩く不自由さ、鏡に映る姿への違和感を繰り返し描くのは、自分の経験がそこにあるからです。
同時に私が描きたいのは、変化した直後の驚きだけではありません。
最初は照れ、戸惑い、強く意識していたものが、次第に自然になっていく。
昨日まで不可能だと思っていた生活へ順応し、やがて意識しなくても新しい身体に合った動きができるようになる。
その過程に、私は強く興味を持っています。
非日常が日常へ変わるまでの時間を、小説という形に落とし込んでいきたいのです。
実体験と想像の境界にあるTS小説
もちろん、私が実際に経験したのは女装であって、女性の身体になったことではありません。
胸の重さ、生理、身体内部の感覚など、女性の身体に固有の事象については想像で書くしかありません。
それでも、服を替え、外へ出て、人から見られ、その姿に合わせて行動が変わっていった経験はあります。
実際に知っていることと、そこから先の想像。
その境界にあるものが、私の書いているTS小説なのだと思います。
ここまで読んでいただいた方へ、良ければ小説の方も読んでいってください♪
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