男性が見知らぬ主婦と入れ替わり、家政婦扱いされていく

女装と男女の入れ替わりは自己責任で♪

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名前のないインフラ

妙に低い位置にある視界と、胸部を圧迫するブラジャーのワイヤーの不快感で目が覚めた。

洗面台の鏡に映っていたのは、目元に深い染みとたるみを持った、見知らぬ中年の女である。

喉を震わせて声を絞り出そうとしたが、出たのは掠れた高い肉声だけで、自分の名前すら舌が思い出せなかった。


身体が重い。その一言に尽きた。

寝返りを打とうとした瞬間に、胸元に溜まった妙な質量が左右に流れ、皮膚を引っ張る鈍い痛みが走った。

起き上がろうとベッドに手をつくと、自分のものとは思えない細い手首が自重を支えきれず、ぐにゃりと内側に折れそうになる。

体重そのものが増えたわけではないはずなのに、重心がすべて下半身、それも骨盤の奥深くに沈み込んでいるような奇妙な感覚があった。

新谷――かつてそう呼ばれていたはずの男は、這いずるようにして開けたことのないクローゼットへ向かい、姿見の前に立った。

そこにいたのは、やはり見知らぬ中年の女だった。

白髪が数本混じったパサつく髪、重力に逆らえずに下がり始めた口角、そして何よりも、生活の疲弊がそのまま張り付いたような浅黒い肌。

美しさとは無縁の、ただ年齢を重ねたことだけを示す肉体が、新谷の視覚を容赦なく殴りつける。

「なんだ、これは」

口を開くと、先ほどと同じ、掠れた平坦な女の声が鼓膜を揺らした。

その声の響きがあまりにも自分の内面の認識と乖離しているため、吐き出した空気がそのまま他人のもののように感じられる。

試しに胸の膨らみに触れてみた。

弾力というよりは、脂肪の塊がただそこにぶら下がっているという実感が手のひらに伝わる。

それは性的な興奮を呼び起こすための記号ではなく、肩こりを誘発し、呼吸をわずかに浅くさせるための、ただの物理的な障害物だった。

歩くたびに太ももの内側が擦れ、ストッキングの静電気が皮膚に張り付く。

自分が誰で、ここがどこなのか、記憶の輪郭がひどくぼやけていた。

ただ、自分が「新谷」という名の男であり、つい昨日までは、もっと視界が高く、身体が乾いていて、軽かったことだけは確かだった。

それ以外の、職歴や、ここに至るまでの経緯といったディテールは、まるで水に濡れたインクのように滲んで読み取れない。

部屋を見渡すと、そこはひどく現実的な生活臭に満ちていた。

使い込まれた電気ケトル、脱ぎ捨てられた靴下、カレンダーに殴り書きされた「ゴミの日」の文字。

どこをどう見ても、おとぎ話の魔法や、都合の良いSF的な装置が介在する余地のない、閉塞した現代の四畳半だった。

そのとき、視界の端で何かが揺れた。

洗面台の、少し曇った鏡の奥。

そこには、部屋の風景とは明らかに異なる、青いドット柄のワンピースを着た少女が立っていた。

少女の顔はモザイクをかけたようにぼやけていたが、その存在だけが、この薄暗い部屋の中で奇妙に浮き上がって見えた。

『私はあなたの記憶よ』

少女の声が、耳元ではなく、頭の芯に直接響いた。

それは新谷の記憶にあるどの声よりも幼く、そして不自然なほど甘やかだった。

『忘れたいと思っていることを、私は覚えているの。ここにいれば、本当のあなたを思い出せる。この鏡の向こうへ来れば、あなたはもっと自由になれるわ』

新谷は鏡に手を伸ばした。

ひんやりとしたガラスの感触が指先に伝わる。

少女の差し出す手は、まるでこの息苦しい肉体と日常から自分を連れ出してくれる救いのように見えた。

だが、その誘いに応じようとした瞬間、背後のドアが乱暴に開く音が響き、少女の姿は霧のように霧散した。

「おい、恵美子。飯まだかよ。今日早いって言っただろ」

低く、ひどく不機嫌な男の声が、新谷の背中に叩きつけられた。

振り返ると、そこにはスーツの上着を雑に脱ぎ散らかした、見知らぬ中年男が立っていた。

男の目は新谷を「人間」として見ているのではなく、ただそこにあるべき家具の不具合を咎めるような、冷淡な光を宿していた。

新谷の意思とは無関係に、恵美子と呼ばれるこの身体は、男の言葉に反応して小さく肩を竦めた。

その動作の自然さに、新谷は内側から冷や汗が吹き出るのを感じた。

適応という名の狂気が、すでにこの皮膚の裏側で、音もなく始まりつつあった。


「おい、聞いてんのかよ」

男――恵美子の夫であるらしいその人物は、苛立ちを隠そうともせず、脱ぎ捨てたスラックスをソファの背もたれに放り投げた。

新谷は、男の放つ無遠慮な声の波動が、恵美子の鼓膜を震わせるのを不快感とともに受け止めていた。

胃のあたりがキュッと収縮する。

それは新谷自身の感情ではなく、この肉体が長年かけて培ってきた、この男に対する条件反射的な恐怖であり、萎縮だった。

「……今、やるから」

絞り出した声は、自分のものとは思えないほど掠れていて、なおかつ従順な響きを帯びていた。

新谷は内側で激しい嫌悪を覚えたが、喉の筋肉も声帯も、すでに「恵美子」という役割の型に嵌め込まれており、そこから外れた怒鳴り声をあげることすら許されない。

台所に立つと、視界に入るものすべてが新谷に無言の労働を要求してきた。

シンクに積み上がった、昨晩のものと思われる油汚れの固まった皿。

冷蔵庫の扉に貼られた、地元のスーパーの特売チラシと、中学生の息子が学校から持ち帰ったプリント。

プリントの端には「給食費引き落とし日」の赤い丸がつけられている。

「飯、何だよ。早くしろよ、腹減ってんだから」

リビングからテレビの音とともに夫の声が追ってくる。

新谷は冷蔵庫を開け、中にあるものを確認した。

ひき肉のパック、萎びかけたキャベツ、使いかけのチューブ生姜。

手が勝手に動き、包丁を握る。

新谷自身は自炊などほとんどしたことがないはずなのに、恵美子の右手は慣れた手つきでキャベツを刻み、フライパンを火にかけた。

激しい自己の乖離がそこにあった。

頭の中では、「なぜ自分がこんな見知らぬ男のために飯を作らなければならないのか」「早くここから逃げ出さなければ」という冷徹な思考が渦巻いている。

しかし、首から下の肉体は、完全に「主婦」としてのシステムに組み込まれた歯車のように、正確に、淡々とケア労働をこなしていく。

包丁を握る指先を見て驚いた。

爪の生え際は乾燥でひび割れ、水仕事のせいで全体的に皮膚が硬く、荒れている。

かつて自分が持っていたはずの、キーボードを叩くための滑らかな指先とは似ても似つかない、生活に摩耗しきった手だった。

「ただいまー」

玄関のドアが開き、大きな足音とともに、汗と埃の匂いをまとった少年が泥のように転がり込んできた。恵美子の息子だ。

少年はキッチンに立つ新谷の姿を一瞥することもなく、リビングへ直行し、カバンを床に投げ出した。

「母さん、腹減った。今日部活でめっちゃ走らされたから、肉がいい」

「ちょっと待ってな、今作ってるから」

またしても、新谷の意志とは無関係に、恵美子の口から母親らしい言葉が滑り出た。

その瞬間、新谷は脳の奥が痺れるような感覚を覚えた。

自分の輪郭が、この家族という共同体が求める「母親・妻」という都合の良い機能によって、外側から削り取られ、塗りつぶされていく。

ここには新谷という個人の尊厳を認める人間は誰もいない。

彼らにとって鏡の前にいる女は、飯を作り、洗濯をし、家計を管理するための、名前のないインフラに過ぎなかった。

キャベツと肉を炒める油の匂いが、狭いキッチンに充満する。

胸の重みがエプロンの紐を引っ張り、肩にズシリとした痛みを加えていく。

下腹部には、鈍い生理的な不快感がずっと居座っていた。

重く、湿り気を帯びた、終わりのない日常の重力が、新谷の精神をじわじわと圧殺していく。

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