営業職の男性が丁寧な暮らしをする女性と入れ替わる

女装と男女の入れ替わりは自己責任で♪

この記事は約8分で読めます。

顔のあたりだけが妙に火照り、首筋にじんわりと不快な汗が滲み出ているというのに、指先と足先はまるで氷に漬けたように冷たかった。

起き上がろうと床に手をついた瞬間、胸元で垂れ下がっただらしのない肉の重みが左右へ逃げ、胸郭を絞めつけるブラジャーのワイヤーが肋骨に食い込んで肘が滑る。

下腹部の生ぬるい空白感と、見覚えのない和室の匂いが、単なる体調不良ではなく「不可逆的な他人の肉体への定着」を冷酷に突きつけていた。

畳の目を指先で擦りながら、呼吸を整えようとした。

しかし、吸い込んだ空気が胸の浅いところで引っかかり、喉の奥に湿った熱が留まる。

普段なら鼻から深く吸って肺を広げる感覚があったはずだ。

それが、肋骨の周りを固い布地で押しつぶされているせいで、浅く、細く吐き出すことしかできない。

体を起こすと、頭の奥で鈍い痛みが拍動した。

上半身の内側だけが熱湯を注がれたように熱く、皮膚の表面には薄い汗の膜が張っている。

それなのに、畳に触れている足の甲や指先は刺すように冷たい。

自律神経が完全に失調しているような不調が、全身を重く支配していた。

目を閉じ、自分が昨夜どこで何をしていたかを思い出そうとした。

都心の小さなIT企業で、締め切りに追われながら書類を整理していた。

終電で高円寺のアパートに帰り、缶ビールを飲み干してそのままベッドに倒れ込んだはずだ。

名前は、悠人。三十四歳。独身。

肩幅が広く、爪を短く切り揃えた男の手を持っていたはずだった。

ゆっくりと目を開ける。

視界に入ったのは、細く繊細な指先だった。

爪には薄いピンクのポリッシュが塗られ、爪周りの皮ふは少し乾燥して毛羽立っている。

手首は驚くほど細く、力を入れても骨の出っ張りが浮き出るだけで、武骨な筋肉の隆起がない。

「……なにか」声を出しようとした瞬間、喉の低い位置ではなく、鼻に抜けるような高い位置から擦れた音が漏れた。

自分の声ではない。

息の混じった、抑揚の乏しい女性の声だ。

悠人は洗面所へ向かい、古い和室の隅にある姿見に向かった。

鏡の中に立っていたのは、見知らぬ女だった。

黒髪を後ろで雑に束ね、頬の皮ふには薄いシミと、30代後半特有のたるみが影を落としている。

首筋から鎖骨にかけては華奢だが、その下にある乳房は重力に従って垂れ下がり、安物のブラジャーのカップからはみ出しかけていた。

Tシャツの裾からは、適度に肉のついたお腹と、太ももの柔らかい質感が覗いている。

美少女でもなければ、若々しくもない。

日々の生活と加齢の疲労をそのまま引き受けた、ごくありふれた成人女性の肉体だった。

悠人は自分の顔に触れた。

指先が冷たいため、火照った頬に触れるとひやりとして気持ちが悪い。

皮脂の匂いと、微かに甘い基礎化粧品の匂いが混ざり合った独特の体臭が鼻をつく。

股間に手を伸ばすと、そこには何もなかった。

かつてあったはずの肉の突起はなく、代わりに平坦で生ぬるい、関節の擦れる不快な感触だけが存在していた。

「冗談じゃない……」声が震える。

胸が上下するたびに、ブラジャーのホックが背中に食い込み、アンダーバストのゴムが皮膚を圧迫する。

脱ぎ捨てようとTシャツの裾を引っ張り上げたが、見知らぬ女の裸体を直視する恐怖に襲われ、すぐに手を止めた。

その時、玄関の引き戸が激しく叩かれた。

「ねぇ! 開けて! 中にいるんでしょ!!」

ドンドンと、薄い木戸が壊れんばかりの勢いで揺れる。

聞こえてきたのは、聞き覚えのある声だった。

低く、少し濁った、自分自身の声だ。

悠人は喉を詰まらせながら玄関へ向かった。

畳を踏みしめる足裏の感覚が異様に柔らかく、かかとに体重がかかりすぎてバランスを崩しそうになる。

女性の骨盤の広さのせいか、歩くたびに太ももの内側が擦れた。土間に降り、鍵を外して戸を引く。

外の眩しい光の中に立っていたのは、自分だった。スーツの上着を脱ぎ捨て、ワイシャツの胸元を大きくはだけさせた「悠人」が、肩を大きく上下させながら立っていた。

「あなた……あなた、誰! 私の体に何したの!」

悠人の姿をした男――いや、中にいる人間が、凄まじい様相で詰め寄ってきた。

その口調、動作の細かな癖、視線の揺れ方。

それらはすべて、悠人自身のものではなかった。

「……美咲、さんか?」

悠人(美咲の体)が低い声を出そうと努めながら尋ねると、悠人の姿をした人物は、頭を抱えて土間に崩れ落ちた。

「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ! なんなのこの体、重くてゴツゴツしてて気持ち悪い! 肩幅が広くてドアにぶつかるし、声が低くて吐き気がする! 私の体を返してよ!」

男の体をした「美咲」は、悠人の声で甲高い悲鳴を上げようとしたが、声帯が追いつかず、ガラガラとした不快な濁音となって響いた。

大きな男の手で自分の頭をかきむしる動作は、傍から見ればただの怪しい狂人にしか見えない。

「落ち着け……大声を出すな。近所に聞こえる」

「落ち着けるわけないでしょ! 朝起きたら、股になんか変なものがぶら下がってて、胸が平らで、力が入らなくて……! 私、今日竹林の管理組合の集まりがあったのに、こんな姿で外に出られるわけないじゃない!」

美咲(悠人の体)は、男のゴツゴツした指先で自分の顔を覆い、しゃくりあげた。

涙は出ず、代わりに荒い吐息だけが土間に漏れる。

悠人は、自分の元の体が目の前で取り乱している光景を、冷めた目で見つめていた。

自分の身体が他人に占有され、しかもその中身が混乱し切っている。

だが、それ以上に自分自身の身体――美咲の肉体から発せられる熱と冷えの不快感が、思考を鈍らせていた。

「とにかく、中に入れ。立ち話をする状況じゃない」

悠人は美咲(悠人の体)の腕を掴もうとした。

しかし、触れた瞬間、互いに息をのんだ。

美咲(悠人の体)の肌は、固く、体温が高く、ざらついていた。

悠人(美咲の体)の肌は、柔らかく、湿り気を帯び、指先が凍えるように冷たかった。

かつて男であった悠人の手が、現在の自分(女)の手首を握る。

その骨組みの太さの違い、皮下脂肪の厚みの違いが、生々しい触覚となって脳に伝わってきた。

性的な興奮などは皆無だった。

ただ、異物同士が噛み合わないギアのように擦れ合う、生理的な気持ち悪さだけがあった。

上がり框に腰掛けたふたりは、しばらく無言で互いを見つめ合った。

「……病院に行くか?」と悠人が呟いた。

「なんて言うのよ。『中身が入れ替わりました』って? 精神科にぶち込まれて終わりよ。警察だって対応してくれるわけないでしょ」

美咲(悠人の体)は、男の太い足をがに股に開いて座り込んでいた。

自分の元々の体の癖が出ているのだろうが、男のスーツを着た男がその姿勢をとると、どこか投げやりで粗野に見える。

「あんた、名前は?」

「悠人。都内のIT会社で営業事務をやってる」

「私は美咲。……ここで、一人で暮らしてる。この家は祖父の代からの持ち家で、周りの竹林の管理も私がやってるの」

美咲は、自分の男になった手をつなぎ合わせ、固く握りしめた。

関節の節々が浮き出た無骨な手が、ミシリと音を立てる。

「元に戻る方法、何か心当たりはないのか? 事故にあったとか、変な宗教の物に触ったとか」

「ないわよ! 昨日は普通に竹林の手入れをして、近所の里奈ちゃんと話して、晩ご飯を食べて寝ただけ! あんたこそ何かしたんじゃないの!?」

「俺だって普通に仕事して寝ただけだ」

沈黙が落ちた。

部屋の隅に置かれた古い柱時計が、カチ、カチと規則正しい音を刻んでいる。

悠人は、美咲の体の下腹部に意識を向けた。

どこか奥の方が引きつるような、どんよりとした重みがある。

冷えのせいか、生理周期のせいかはわからない。

だが、この肉体は確実に生きており、細胞が活動し、老廃物を溜め込み、疲労を訴えている。

「手……重ねてみるか?」美咲が言った。

フィクションによくある「触れ合えば戻る」という気休めを試そうというのだ。

ふたりは向かい合い、手を伸ばした。

悠人(美咲の体)の小さな手が、美咲(悠人の体)の大きな手のひらに重なる。

じわりと、相手の体温が伝わってくる。

男の手のひらは分厚く、掌にたこがあり、熱を持っていた。

女の手のひらは小さく、皮膚が薄く、爪先が冷え切っていた。

一分。三分。五分。何も起きなかった。

光が弾けることも、意識が遠のくこともない。

ただ、冷たい手と熱い手が重なり合い、汗でべたついていく不快感だけが増していった。

「……ダメね」美咲(悠人の体)が手を引いた。

その顔には、深い絶望と、それ以上に「男の体」に対する強烈な拒絶反応が浮かんでいた。

「もう嫌……こんな重い体、耐えられない。肩が凝るし、股間が擦れて痛いし、立ち上がるだけで腰に響く……」

「それは俺の体だ。文句を言うな」

「あんただって、私の体を乱暴に扱わないでよ! 服の着方だってなってないし、胸の下に汗が溜まってるじゃない!」

美咲は立ち上がると、男の大きな足音を響かせて玄関へ向かった。

「どこへ行くんだ」

「アパートに帰るわよ……あんたの運転免許証、財布に入ってたでしょ。高円寺のアパートの鍵もある。……一旦、お互いの生活をなぞるしかないじゃない。どうせ戻れないなら」

「会社はどうする」

「……病欠って電話するわよ。あんたも、竹林の組合に電話して。里奈ちゃんが来たら、適当にごまかして」

美咲(悠人の体)は、靴を履くのにも苦労していた。

男の大きな革靴に足を押し込む動作がうまく噛み合わず、靴べらを落とした。

「……じゃあね」吐き捨てるように言って、美咲は出て行った。

パタンと低い音を立てて引き戸が閉まり、和室には再び静寂が戻った。悠人は一人、畳の上に座り込んだ。

窓の外からは、サラサラと乾燥した葉が擦れ合う音が聞こえる。

竹林の風だ。

立ち上がろうとすると、膝の関節がミシリと鳴った。

男だった頃には感じたことのない、骨盤の揺らぎと、太ももの付け根の重さ。

上半身は汗で蒸し届き、下半身は冷気で冷え切っている。

悠人は洗面所へ向かい、蛇口をひねった。

冷たい水が手に注がれる。

氷のような指先に冷水が当たると、感覚が麻痺していくようだった。

鏡の中の美咲は、不快そうに眉をひそめ、冷えた手で自分の熱い首筋を触っていた。

不可逆の狂気が、静かに、確実に始まっていた。

Amazon岳だけでなく、BOOTHでの販売もしようと思い、新たに作ってみました。

AmazonのKDPセレクトに登録すると、他のところでは売れませんので。

なので、他ではまだ公開してない完全新作です。

上の画像をクリックすると商品ページに飛ぶので

見るだけ見に行ってくれると嬉しいです♪

コメント

タイトルとURLをコピーしました