【TS チャラ男と地味子の入れ替わり】この服、キミに似合うと思ってさ

ここに掲載しているのは電子書籍版の冒頭サンプルです。 完成版はKindle/Kindle Unlimitedで配信します。

放課後のチャイムが鳴り響き、ざわめいていた教室が徐々に静寂を取り戻していく。

真中陽太は、窓の外をぼんやりと眺めていた。もうすぐ夏が来る。

ジメジメとした空気は嫌いじゃないけど、この停滞した空気は少し苦手だ。

毎日同じメンバーと、同じ会話。

楽しくないわけじゃない。

ただ、少しだけ、退屈だった。

「陽太、部活行かねーの?」

隣の席の翔太が声をかけてくる。

陽太はテニス部に所属しているが、今日はなんとなく気分が乗らなかった。

「んー、今日はいいかな。ちょっと、やりたいことがあって」

「へえ、めずらしいな。じゃあな」

ひらひらと手を振り、翔太が教室を出ていく。

一人になった陽太は、カバンを肩にかけ、あてもなく校内をぶらつく。

ふと、開けっぱなしの図書室の扉が目に入った。

「そういや、図書委員の仕事って、大変なんだっけ?」

そんなことを思いながら中を覗くと、誰もいない静かな空間に、一人の女の子が本を整理していた。

小野寺綾。陽太と同じクラスだが、ほとんど話したことはない。

いつも机に伏せているか、本を読んでいるか。

クラスの隅でひっそりと息をしているような、そんな存在だった。

地味、という言葉が一番しっくりくる。

でも、陽太の目に、彼女は妙に魅力的に映った。

長い黒髪を一つにまとめ、シンプルな制服をきちんと着こなしている。

派手な子が多いクラスの中で、その落ち着いた雰囲気は逆に新鮮だった。

「……なんか、可愛いんだよな」

そう口に出してしまい、陽太は慌てて口元を抑える。

だが、もう遅い。

綾がこちらに気づき、顔を上げた。

大きな丸い目が、少し怯えたように陽太を見つめる。

「あ、ごめん!びっくりさせたか?」

陽太はわざと明るく笑いかける。

しかし、綾は何も言わず、ただじっと見つめているだけだ。

その警戒心に満ちた瞳に、陽太は少しだけ胸がチクリと痛んだ。

「お前さ、いつも一人でいるよな。寂しくないの?」

言葉を選ばず、素直な疑問を口にする。

綾は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに俯いてしまった。

「別に……一人でいるのが、好きなだけだから」

蚊の鳴くような声だった。

陽太は、その声に妙な親近感を覚えた。

自分も、周りに合わせてはいるものの、心のどこかで一人になりたいと思う瞬間がある。

「そっか。俺もさ、たまには一人がいいなって思うとき、あるんだ」

陽太はそう言って、綾の隣の書架に寄りかかった。

彼女が整理しているのは、ファンタジー小説のコーナーだ。

背表紙を眺めていると、彼女の手が震えているのが分かった。

緊張しているのだろう。

「あの……何か、ご用ですか?」

綾が勇気を出して尋ねる。

「いや、用ってほどでもないんだけどさ。なんか、お前ってさ、意外と面白いヤツなんじゃないかって思って」

「……どうして、そう思うんですか?」

「んー、なんだろうな。言葉でうまく説明できないんだけどさ。なんていうか、周りの奴らと違う雰囲気、持ってるじゃん? それがさ、なんか惹かれるっていうか……」

陽太の言葉に、綾は顔を赤らめる。

初めて、自分に向けられた好意的な言葉だった。

しかも、陽太はクラスでも中心的な存在。

そんな彼が、自分のような地味な存在に興味を持つなんて、信じられなかった。

「私、ぜんぜん面白くないです。見ての通り、地味で……」

「地味って、自分で言うなよ。もったいないって」

陽太はそう言って、綾の黒髪に手を伸ばし、束ねたゴムにそっと触れた。

綾はビクリと肩を震わせた。

「あの……!」

「いいじゃん、たまには。もっと自分をさ、出していいんだぜ? もったいないって」

陽太のその言葉は、綾の心に小さな波紋を広げた。

ずっと自分の中に閉じ込めていた感情が、少しだけ外に顔を出そうとするような、そんな感覚。

陽太の優しい声と、自然体の笑顔に、綾の心の壁は少しずつ溶けていった。

「……あなたは、いつも明るくて、いいですね」

綾がぽつりと呟く。

「ま、俺はただの陽気なバカだよ。でも、お前もさ、きっともっと面白い部分、いっぱいあるんだって。俺、知りたいな、それ」

陽太は、まるで宝物を見つけたかのように、キラキラした目で綾を見つめた。

そのまっすぐな瞳に、綾はもう警戒するのをやめた。

自分を偽る必要がない、そんな気がしたから。

静かな図書室に、二人の笑い声が響き渡った。

「いい? 綾ちゃん。人生は一度きりなんだぜ? もっと楽しんだ方がいいって!」

あれから数日後、陽太は図書室で再び綾に話しかけていた。

相変わらず本を読んでいる綾を前に、陽太は熱弁をふるう。

「ファッションとかさ、メイクとかさ。そういうの、全然興味ないの?」

「……ない、わけじゃ、ないんですけど」

綾は戸惑ったように答える。

別にファッションが嫌いなわけではない。

ただ、どうせ自分には似合わない、目立つのは怖い、という気持ちが勝ってしまうのだ。

「じゃあさ、今度、俺に付き合ってよ。服、見に行こうぜ!」

陽太の唐突な提案に、綾は目を丸くした。

「え? 私と、ですか?」

「そうだよ。この前言ったろ? 綾ちゃん、もっと自分を出すべきだって。俺がさ、最高に似合う服、見つけてやるから!」

陽太は自信満々に胸を張る。

綾は、そんな陽太の勢いに圧倒され、断る言葉を見つけられなかった。

「……でも、私、そういうの、よくわからなくて」

「いいんだよ、わかんなくても! 俺がいるじゃん! 全部、俺に任せろ!」

結局、綾は陽太の熱意に押され、週末、一緒に街へ出る約束をしてしまった。

帰り道、自分のカバンを握りしめながら、綾は不安と期待の入り混じった複雑な心境でため息をついた。

(一体、どんな服を勧められるんだろう……)

そして迎えた週末。

陽太に指定されたのは、若者向けの賑やかなショッピングモールだった。

綾は、普段着ている地味なシャツとスカートで陽太の前に現れる。

「あ、綾ちゃん!遅いよ〜!って、わー、やっぱその服か〜!」

陽太は綾の全身を見て、少し残念そうな顔をした。

「だ、ダメですか……?」

「いや、別にダメじゃないけどさ! もっと冒険しよーぜ!」

そう言って、陽太は綾の手を掴み、そのままファッションショップへと連れて行く。そこは、綾が普段絶対に入らないような、カラフルで明るい服が並ぶ店だった。

「ほら、これとか絶対似合うって!」

陽太が手に取ったのは、肩出しのオフショルダートップスだった。

綾は目を丸くする。

「えっ……こ、こんな露出が多い服、私には……」

「いいからいいから! 試着室で着てみよ!」

陽太は次々と、ミニスカートや鮮やかな花柄のワンピースを綾に押し付ける。

綾は戸惑いながらも、言われるがままに試着室へと入った。

ドアを閉め、鏡の前に立つ。

オフショルダートップスを恐る恐る身につけてみる。

鏡に映る自分は、まるで別人のようだった。

肩が露わになり、鎖骨のラインが強調される。

普段、隠している部分を、こんなに大胆に晒すなんて。

心臓がドクドクと音を立てる。

恥ずかしさと、ほんの少しのドキドキが混じり合った、不思議な感覚だった。

「綾ちゃん、どう? 似合うだろ?」

試着室の外から、陽太の明るい声が聞こえてくる。

「いや、ちょっと……これは……」

「いいから、見せてみろって!」

陽太は強引にドアを開けようとする。

綾は慌ててドアを押さえる。

「だ、ダメです! もう少し、落ち着いた服にしませんか? この前、本屋さんで見た、水色のブラウスとか……」

「いやいや! もったいないって! せっかく可愛いんだから、もっと見せびらかさないと!」

陽太は、綾が持っていた服を放り投げ、再び派手な服を試着室の中に投げ入れた。

「これは、どうだ? 絶対似合うって!」

それは、ビビッドなピンク色のワンピースだった。

綾は、その色に眩暈を覚えた。

自分のイメージとはあまりにもかけ離れている。

「陽太くん……もう、やめて」

綾の声は震えていた。だが、陽太には届かない。

「お願い! 一回だけでいいから、着てみてよ!」

陽太は、綾に新しい自分を見つけてほしい一心だった。

でも、その気持ちが、綾を追い詰めていることには気づいていなかった。

試着室の小さな空間の中で、綾は一人、自分の心を押しつぶされそうになっていた。

「陽太くん、もうやめて! 私は、こんなに明るくなれない!」

試着室のドア越しに、綾の声が震える。

陽太は、その声に初めて、彼女の本当の感情が込められていることに気づいた。

しかし、彼の熱意は止まらない。

「大丈夫だって! やってみなきゃわかんないだろ? 俺が保証するから!」

陽太は、ドアをノックする手をさらに強めた。

「やめて! お願い……!」

とうとう我慢の限界に達した綾は、試着室のドアを勢いよく開けた。

着ていたのは、陽太が最後に持ってきた、ピンク色のワンピースだった。

サイズは合っているものの、普段の彼女とはあまりにもかけ離れた姿に、陽太は言葉を失う。

そして、その表情は、今にも泣き出しそうだった。

「……こんなの、私じゃない。陽太くんは、私のこと、わかってないよ!」

そう言って、綾は試着室のカーテンを引く。

その勢いで、カーテンレールがぐらりと揺れた。

陽太は慌てて彼女の腕を掴んだ。

「ごめん! ごめんって、綾ちゃん! 俺、ただ……」

「離して!」

綾は陽太の手を振り払おうとする。

その拍子に、二人の体がもみ合うような形になった。

足元にあったマネキンの足に、綾のサンダルが引っかかる。

「わっ!」

バランスを崩した二人は、大きな音を立てて床に倒れ込んだ。

その衝撃で、天井から吊るされていた照明がグラグラと揺れ、真上にあったマネキンが大きな音を立てて倒れてくる。

「危ない!」

陽太はとっさに綾をかばうように抱きしめた。

その瞬間、割れた照明の破片から、まばゆい光が溢れ出す。

それは、ただの光ではなかった。

まるで生きているかのように、二人を包み込み、そして飲み込んでいく。

「な、なんだこれ……!」

陽太の意識が遠のいていく。

綾も、恐怖と混乱の中で、陽太の体にしがみついた。

二人の体が、まるで水に溶けていくように、一つに混ざり合っていくような、そんな奇妙な感覚。

やがて光が収束し、世界は再び、静寂を取り戻した。

「……うぅ……痛い……」

先に意識を取り戻したのは、綾だった。

しかし、声を出して、彼女は自分の声ではないことに気づいた。

低くて、少し掠れた、聞き慣れない声。

「……え?」

そして、自分の視界が、いつもより高くなっていることに気づく。

視線を下にやると、そこにあるのは、見慣れた、しかし今は自分のものとは思えない、男の体。

「……陽太、くん?」

隣には、泣きそうな顔をした自分の体があった。

陽太の顔だ。

「え、綾ちゃん……? お前、どうして……」

いや、違う。

そこにいるのは、陽太の心を持った、綾の体だ。

「……嘘。嘘だよね……?」

綾(中身は陽太)は、自分の手を見つめる。

きめ細かくて、少し華奢な、女の子の手だ。

「ちょ、ちょっと待って……これ、俺の手じゃねぇじゃん! お、俺の体はどこだ!?」

陽太(中身は綾)は、自分の胸を触る。

ぺたんこで、いつもとは違う柔らかさ。

「うそ……うそだ……」

二人は、顔を見合わせて絶叫した。

ショッピングモールの喧騒が遠い世界のことのように感じられた。

自分たちの体は、今、ここにない。

鏡のように、お互いの魂が入れ替わってしまったのだ。

「な、なんで!? なんでこんなことに……!?」

パニックに陥る陽太(中身は綾)を前に、綾(中身は陽太)は、むしろ興奮していた。

「……え? ちょっと待って、これ最高じゃん!」

綾の体になった陽太は、鏡の前に立ち、自分の姿をまじまじと見つめる。

「うわ、すげー! マジで女の子になってる! え、これって、もしかして……」

陽太は、恐る恐る胸に手をやる。

その柔らかさに、思わず声を上げてしまった。

「うわぁ……マジかよ。これ、綾ちゃんの体か……」

恥ずかしがるどころか、むしろ好奇心で目を輝かせる陽太に、綾(中身は陽太)は、さらに混乱する。

「や、陽太くん! 何してるの!? と、とりあえず、早く元に戻らないと……!」

「いいじゃん、別に! せっかくだし、このまま楽しもうぜ!」

陽太は、陽気に笑いながら、試着室から出て行った。

残されたのは、男の体になった綾。

「ちょっと、陽太くん! 待ってよ!」

陽太の大きな体で、綾は慌てて後を追う。

陽太は、さっきまで綾が着るのを拒んでいた、カラフルな服のコーナーにいた。

「綾ちゃん、隠れ美人じゃん。普段、もったいないことしてたんだなぁ。俺が、この体、最高に可愛くしてやるから!」

そう言って、陽太は次々と派手な服を手に取る。

フリルたっぷりのワンピース、ミニスカート、レースのブラウス。

綾(中身は陽太)は、信じられない気持ちでそれを見ていた。

「いや、ちょっと待って! その服は……!」

「いいから! 着てみよ!」

陽太は、自分の体(つまり綾の体)に、フリルたっぷりの白いワンピースを押し付ける。そして、鏡の前でポーズを決める。

「うわー、すげー似合う! やっぱ、隠れ美人じゃん! 最高!」

陽太は、心から楽しんでいるようだった。

その姿に、綾は呆れて言葉も出ない。

仕方なく、男の体になった自分は、試着室の隅に追いやられていた、シンプルなTシャツとジーンズを手に取る。

「……これ、着てみよう」

恐る恐る、陽太の服に着替える。

少し大きめのTシャツと、ゆったりとしたジーンズ。

鏡に映る自分は、男らしい体つきで、少しだけ不格好に見えた。

でも、なんだか不思議と落ち着く。

派手な装いを強要されていたときのような、息苦しさがない。

「……不思議」

綾は、陽太の体になった自分を、じっと見つめた。

この体なら、派手な服を着なくてもいい。

誰の目も気にせず、ただ、自分らしくいられる。

そんな気がした。

「よーし! せっかくだから、このまま一日、お互いの生活、体験してみようぜ!」

陽太の提案に、綾はため息をついた。

「そんな……だめだよ。学校とか、どうするの?」

「大丈夫だって! 俺、綾ちゃんのクラス、完璧に演じきるから! 綾ちゃんも、俺のフリして、学校行けばいいじゃん!」

陽太は、満面の笑みでそう言った。

あまりにも無茶な提案だったが、綾は陽太の勢いに押され、結局その提案を受け入れてしまった。

(本当に、このまま戻れなかったら、どうしよう……)

不安と、ほんの少しのワクワク。

二人の、奇妙な一日が、こうして始まったのだった。

ショッピングモールの試着室前で、割れた照明の光に包まれ、体が入れ替わる陽太と綾のイラスト。

可愛い女の子の姿になれたら

色々と可愛い服とか着てみたいです。

自分の身体じゃどうがんばっても限界がありますからねぇ。

その限界もかなり低いところにあるので。。。

通販で良さげな服を見つけて、自分で着たら、、、

なんてのは女性だけでなく男性にもあるあるですorz

その後の生活

陽太(中身は綾)は、綾として学校生活を送ることになった。

登校すると、いつもはほとんど話しかけられない陽太に、クラスの男子が次々と声をかけてくる。

「お、小野寺、髪型変えた?」

「なんか今日、雰囲気違うな。可愛いじゃん!」

陽太は、少し困ったような、しかし嬉しそうな顔で、にこやかに「ありがとう」と答える。

今まで、陽太は周りの視線を一身に集める存在だった。

それが、女子の体になってみて、初めて、男子からの視線が、特別な意味を持つことを知る。

最初は得意満面で、その視線を楽しんでいた。

「へへ、綾ちゃん、人気者じゃん。俺のおかげだぜ?」

昼休み、綾のスマホに陽太からのメッセージが届く。

男子になった綾(中身は陽太)からだ。

「陽太くん、大丈夫? 私、もう無理かも……」

綾は、陽太のメッセージを読んで、少しだけ笑ってしまった。

「大丈夫だよ! 楽しめって! 今日のお昼、何食べたい?」

「もう、なんでもいいよ。早く帰りたい……」

陽太は、綾のメッセージを無視して、女子の友人たちと話す。

彼女たちは、いつも陽太が話している男子のグループとは違う話題で盛り上がっていた。

メイクの話、好きなアイドルの話。

陽太は、知らなかった世界に触れて、最初は新鮮さを感じていた。

しかし、時間が経つにつれて、その視線は重荷になっていく。

特に、クラスの男子が、少し遠いところから綾(陽太)をじっと見つめていることに気づいたとき、陽太はゾッとした。

(なんか、こういうの、ちょっと……)

自分は、ただ可愛い服を着て、注目されたかっただけだ。

でも、その視線は、ただの「可愛い」だけではなく、もっと下世話な欲望を含んでいるような気がした。

一方、綾(中身は陽太)は、陽太として一日を過ごしていた。

最初は、陽太の明るい性格を演じることに戸惑った。

友人の翔太に、「おーっす! 陽太、今日元気ねーな」と言われ、どう返していいかわからず、「うん……ちょっと、寝不足で」と答えるのが精一杯だった。

しかし、陽太の体は、綾の体を動かすよりもずっと、自由に動く。

走れば速いし、ボールも遠くまで投げられる。

今まで、体育の授業でいつも隅っこにいた自分が、今日はクラスの中心で楽しそうにバスケットボールをしている。

「陽太、ナイスパス!」

翔太の声に、綾は驚いた。

自分は、こんなに自由に体を動かせるんだ。

そして、周りの人たちと、こんなに自然に、話せるんだ。

(……この体、すごい)

放課後、綾は陽太の友人たちと、いつものゲームセンターに足を運んだ。

陽太の得意なゲームは、綾には初めてだったが、翔太が優しく教えてくれた。

「陽太、お前、今日なんか、おとなしいけど、逆に話しかけやすいかも」

翔太の言葉に、綾はドキッとした。

「……そうなの?」

「ああ。いつもの陽太は、明るくていいけど、なんか、俺らとは違う世界にいる感じがしてたからさ。今日の陽太は、俺らと同じ世界にいる感じがする」

翔太の言葉に、綾の心に温かいものが広がった。

明るさは、別に無理して演じなくてもいいんだ。

ただ、誰かと話したい、という気持ちを素直に出せば、きっと相手は受け入れてくれる。

(陽太くんは、いつも、こんな風に、みんなと話してたんだな……)

夜、二人はそれぞれの家で、交換日記のようにメッセージを送り合った。

「もうやだ、なんか、女子って大変すぎ。服もメイクも、なんか、みんなの視線が、もう……」

「でも、陽太くんの体は、なんか、すごく自由だよ。誰にも、何も気にせず、話せるんだって、わかった」

二人のメッセージは、まるで鏡合わせのようだった。

一方は、自分の知らない世界に触れて、疲労感を覚えていた。

もう一方は、自分の知らない世界に触れて、希望を見出していた。

「このまま戻れなかったら、どうしよう……」

陽太(中身は綾)の不安そうなメッセージに、綾(中身は陽太)は何も返せなかった。陽太の体になったことで、少しだけ前向きになれた自分。

でも、このままじゃダメだ。

陽太は、元の体に戻りたいと思っている。

「……早く、戻れる方法、探さないと」

綾は、そう心の中で呟いた。

数日後、二人は再び、あのショッピングモールに足を運んでいた。

あの日のことが忘れられず、もしかしたら、もう一度、同じ場所に行けば、元の体に戻れるかもしれない。

そんな淡い期待を抱いて。

「陽太くん、本当に、ここなの?」

綾(中身は陽太)は、不安そうに陽太(中身は綾)に尋ねる。

「うん。だって、あの日、俺たち、あのマネキンの前で倒れて、光に包まれただろ?」

二人は、あのとき、マネキンが倒れた場所に向かった。

そこには、新しいマネキンが立っている。

あのときと同じ、華やかな服を着て。

「……この服、俺が着てみてほしいって言ったやつだ」

陽太(中身は綾)が、マネキンが着ている服を指さす。

それは、フリルたっぷりの白いワンピースだった。

「もしかして、あの服を着て、あの場所で……?」

綾(中身は陽太)は、恐る恐るマネキンに近づく。

陽太(中身は綾)も、その後に続く。

二人が、マネキンの前に並び、触れた瞬間。

「……わっ!」

再び、まばゆい光が二人を包み込んだ。

前回と同じ、水に溶けるような不思議な感覚。

やがて光が収束し、静寂が戻ってくる。

「……陽太、くん?」

自分の声だ。高くて、少しだけか細い、聞き慣れた声。

そして、目の前には、見慣れた陽太の顔があった。

「あ、綾ちゃん……! 戻ったのか!?」

陽太は、自分の体になった綾を見て、満面の笑みを浮かべた。

「うん……戻った」

綾は、自分の手を見つめる。

小さくて、華奢な、自分の手。

そして、自分の胸に手を当てる。

「あぁ……よかった。やっぱり、自分の体が一番落ち着くね」

陽太は、綾の体だったときの感覚がまだ残っているのか、少しだけ恥ずかしそうに言った。

「陽太くん……あの、ごめんね」

綾は、顔を赤らめて陽太に謝る。

「え、なんで謝るんだよ?」

「だって、あのとき、陽太くんの体で、変なことしちゃったかも、って……」

陽太は、綾の頭をポンポンと撫でた。

「いいんだよ。お前も大変だっただろ? 俺もさ、綾ちゃんの体着たとき、なんか、ワクワクしたよ。ごめん、ちょっと強引だったな」

陽太は、あの日のことを思い出し、少しだけ反省したように言った。

「……でも、私も、あなたの服を着て、落ち着いたよ。今まで、自分が地味だとか、可愛くないとか、そう思ってたけど、別に、それが悪いことじゃないって、わかった」

綾の言葉に、陽太は目を丸くした。

「そっか。よかった。なら、よかった」

二人は、あの日のこと、入れ替わっていた数日間のこと、そしてお互いの気持ちを、少しずつ話し始めた。

それは今まで知らなかった、相手の心の中を覗いているような、そんな時間だった。

「じゃあさ、入れ替わりの原因って、あのマネキンと、服を着て触れること、なのかな?」

二人は、あの日の出来事を検証し、一つの仮説を立てた。

それは、「特定の状況+接触」が入れ替わりの条件だということ。

「じゃあさ、また試してみる?」

陽太は、冗談めかして綾に尋ねた。

綾は、一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに笑顔になった。

「うん。いいよ。今度は、もっと楽しんでみたい」

あの数日間で、二人はお互いのことを深く知った。

陽太は、地味だと思っていた綾が、実はとても繊細で、優しい心を持っていることを知った。

綾は、陽太の明るさが、ただの調子の良さではなく、周りを気遣う優しさから来ていることを知った。

そして、何よりも、二人はお互いの体に興味を持っていた。

それから、二人は定期的に交換するようになった。

テスト期間は、陽太が綾の体で、綾が陽太の体で、集中して勉強する。

体育祭では、綾が陽太の体で、リレーの選手として活躍し、陽太は綾の体で、応援席から声援を送る。

「どう? 綾ちゃん、俺の体、使いこなしてる?」

体育祭の休憩中、陽太が綾にメッセージを送る。

「うん! 陽太くんの体、足が速くて、すごく楽しい!」

そして、陽太は、文化祭で綾の体になり、アイドル風の服を着て、クラスの出し物に参加した。

クラスの男子も女子も、今まで見たことのない綾の姿に、歓声を上げる。

陽太は、照れくさそうにしながらも、楽しそうに歌って踊った。

一方、綾は陽太の体になり、放課後の読書会に参加した。

普段なら、絶対に足を踏み入れない場所だ。

そこには、普段から本を読んでいる、地味な子たちが集まっていた。

最初は、陽太の明るい性格を演じようとしたが、すぐに疲れてしまった。

「……あの、この本、すごく面白いね」

綾は、勇気を出して、隣に座っていた男子に話しかけてみた。

すると、その男子は、少し驚いた顔をしながらも、本について熱心に語ってくれた。

「うん……知らなかった。陽太くんの体で、こんなに落ち着いた時間が過ごせるなんて」

二人は、お互いの体を借りることで、今まで知らなかった世界に触れ、新しい自分の一面を発見していく。

そして、その体験は、二人の距離を、徐々に、しかし確実に、縮めていった。

季節は、いつの間にか冬になっていた。

吐く息が白く染まる、寒い日。

二人は、いつものように、あのショッピングモールにいた。

だが、今日は、入れ替わるためではない。

「……そろそろ、この秘密の交換も、卒業かな」

陽太は、ふと、そんなことを呟いた。

綾は、少し寂しそうに陽太の横顔を見つめる。

「……そうだね」

もう、特別なことをしなくても、お互いのことを理解できるようになった。

陽太は、綾の奥ゆかしい魅力を知った。

綾は、陽太の明るさの裏にある優しさを知った。

そして、二人は、入れ替わることによって、本当の自分を見つけることができた。

「ねぇ、陽太くん」

綾は、陽太の腕にそっと手を重ねた。

陽太は、驚いたように綾を見つめる。

「今日はさ、お互いに、素の自分を見せ合おうよ」

綾の言葉に、陽太は少し照れたように笑った。

「……うん。そうだな」

二人は、ショッピングモールの片隅にある、小さなベンチに腰を下ろした。

綾は、陽太の大きな手に、自分の小さな手を重ねる。

陽太は、その手に、そっと力を込めた。

「陽太くんの手って、大きいね」

「綾ちゃんの手は、小さい。俺が、綾ちゃんの体になったとき、自分の手の小ささに、ちょっとびっくりしたんだ」

二人は、他愛もない会話を続ける。

その手から伝わる温かさが、二人の心を温めていく。

陽太は、綾の頬に、そっと触れた。

「……綾ちゃんの肌、すごく柔らかいんだな」

「陽太くんの指先、少し冷たい。でも、温かい……」

二人の顔が、ゆっくりと近づいていく。

そして、唇が、そっと触れ合った。

それは、入れ替わりでキスをしたわけではない。

初めて、自分の体で、相手と触れ合った、キスだった。

「……っ」

二人の心臓が、ドクドクと、早鐘を打つ。

他人の体ではなく、自分の体で感じる温もりは、今までとは比べ物にならないほど、甘く、そして熱かった。

「これからも、たまには交換しようね」

陽太は、綾の髪を優しく撫でながら言った。

「うん。……でも、もう、交換しなくても、陽太くんの気持ち、わかるような気がする」

綾は、そう言って、陽太の胸に顔をうずめた。

「俺もだよ。もう、一人じゃないって、わかる」

二人は、そっと手をつなぎ、並んで歩き出す。

夜の街は、イルミネーションでキラキラと輝いている。

その光が、二人の未来を照らしているようだった。

もう、入れ替わる必要はない。

でも、あの日の奇跡が、二人の心を繋ぎ、特別な関係を築き上げたことは、一生忘れないだろう。

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