身体が戻っても、終わらない物語――『入れ替わり百景』第4巻のご紹介

鏡に映る顔が違う。声も違う。昨日まで意識せずにできていた歩き方や座り方さえ、うまくいかない。

そんなときでも、学校や仕事の時間はやってきます。周りの人は、こちらの戸惑いなど知らずに、見た目どおりの名前で呼びかけてくる――。

今回は、男女の身体交換と、その先に続く日常を描いた『入れ替わり百景』第4巻をご紹介します。

本巻に収録したのは、第十九話から第二十四話までの6作品。写真館、学校、資産家の家、会社の研修、公園、そして匿名の謎解きゲーム。それぞれの場所で、登場人物たちは思いがけず他人の身体と生活を引き受けることになります。

他人の身体には、その人の「昨日まで」がついてくる

入れ替わりの物語には、見慣れた世界が突然違って見える面白さがあります。

髪が頬に触れる感覚。服の内側の圧迫。靴によって変わる歩幅。手の大きさが変わるだけで、使い慣れた道具が扱いにくくなることもあります。

第4巻では、そうした身体感覚の変化に加えて、その姿で人と関わるときの戸惑いを描いています。

知らない仕事を「いつものように」と頼まれる。
自分が発揮した技能を、別の人の才能として褒められる。
家族から、覚えのない約束の続きを求められる。

自分の記憶は残っていても、周囲が知っているのは目の前の顔と名前です。その食い違いが、日常の小さな場面から少しずつ広がっていきます。

第4巻に収録した6つの物語

第十九話「椅子が黙っているあいだ」

古い写真館で、家具修復を手がける悠人と、衣装店で働く美咲の身体が入れ替わります。

白いドレスに包まれた悠人を待っていたのは、慣れない身体だけでなく、美咲が抱えてきた仕事や家族の用事でした。「相手の事情を分かってほしい」という願いが、二人の暮らしを思わぬ方向へ動かしていきます。

第二十話「入れ替わった朝の、そのあと」

始まりは、一日だけのはずだった姉と弟の交換。

互いの制服を着て学校へ通ううちに、二人は相手の場所で、自分の得意なことを発揮していきます。けれど、そこで生まれた評価や新しい約束を、元の持ち主は引き継げるのでしょうか。

身近な相手だからこそ見落としていた、生活の境界を描いた一編です。

第二十一話「名義人」

裕福な美咲に暮らしを支えられていた青年・悠人は、彼女の身体で資産家として過ごすことになります。

口座も、家も、周囲からの信用も、目の前にある。それでも、自分一人では決められないことがある。暮らしを支える側と支えられる側の関係が、交換をきっかけに変わっていきます。

第二十二話「草原の魂」

会社の環境保全研修で行われた儀式が、技術部の男性と総務部の女性を入れ替えてしまいます。

仕事の知識は自分についてきても、その仕事をした人の名前は別のものになる。職場での役割や扱いの変化を通して、「自分の働きは誰のものなのか」という問いが浮かび上がります。

第二十三話「呪われた物語、ベンチで失くした僕」

公園で出会った女性が手にしていた、一冊の奇妙な本。

その出会いを境に、陸上に打ち込む青年の身体と日常に、異変が入り込み始めます。慣れ親しんだ自分の輪郭が少しずつ揺らいでいく、不穏な気配の濃い物語です。

第二十四話「空っぽの器と鉛のドレス」

匿名の謎解きサイトから届いた指示に従った高校生・悠人は、突然、大人の女性の身体でゲームに参加することになります。

慣れないヒールと衣服。思うように動かない身体。迫る制限時間。その状況で他人の生活の断片に触れた悠人は、何を見抜き、何を見落とすのでしょうか。

「慣れた」と「望んだ」のあいだ

この巻で大切にしたかったのは、登場人物たちが新しい身体に慣れていく過程です。

初めは時間のかかった身支度が、少しずつ早くなる。歩く前に考えていたことを、いつの間にか考えなくなる。仕事の手順を覚え、周りとの会話も続くようになる。

それは、その日を生きるために必要な変化です。けれど、うまく暮らせるようになったからといって、帰りたい気持ちまで消えたとは限りません。

周りには「もう大丈夫」に見えている人が、何を言えずにいるのか。入れ替わりという出来事を通して、その見えにくい部分にも目を向けました。

交換の瞬間から、その先の日々へ

『入れ替わり百景』第4巻には、すっきりと割り切れない感情や、すぐには解決できない問題が残ります。

その一方で、相手の返事を待つことや、本当の名前で呼びかけることなど、小さな関わりにも目を向けています。すべてを元どおりにできなくても、その場で選べることはある。そんな登場人物たちの姿を、挿絵とともに読んでいただければと思います。

男女の入れ替わり、年齢や立場の違う人生、身体の変化に伴う細かな心理描写がお好きな方へ。

6つの交換と、そのあとに続く日々を、ぜひ見届けてください。

『入れ替わり百景』第4巻 発売日は10/23 今週の金曜日
著:古都 礼奈

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