ドジな侍でも、ステージの真ん中に立てる【女装】

女装と男女の入れ替わりは自己責任で♪

この記事は約4分で読めます。

鏡の中には、ピンクの袴に緑の羽織をまとった女の子がいた。

大きな瞳、肩まで伸びたウィッグ、口角を上げた控えめな笑顔。

……そして、その正体は…俺だ。

「……うん、今日も違和感すごいな」

つぶやきながら、春樹は帯を締め直した。

大学二年、二十歳。バイト歴三ヶ月。

職場は女装コンセプトカフェ『花衣亭(はないてい)』。

金欠の末に流れ着いた場所だった。

時給はそこそこ、衣装は派手、そして恥ずかしさはMAX。

「はーるちゃん、鏡の前で固まってる時間、三日連続で優勝ね」

控室のカーテンを開けて入ってきたのは、美羽。男装担当の先輩スタッフだ。

黒のスーツに短髪のウィッグ、腰にはおもちゃの刀。立ち姿がやたらサマになる。

「優勝とかいらないっす。てか、なんで侍風テーマの日にまで女装なんすか俺」

「店長の趣味よ。今日のテーマは“華の剣士の日”。お客さんの前で優雅に刀を抜くんだって」

「はぁ!? 抜刀!? 俺、剣道部でもなかったし、抜き方とか知らねぇんですけど!?」

「大丈夫大丈夫。抜けない方が可愛いから」

「褒めてるようで褒めてねぇ!」

そこへ、舞台袖のカーテンが勢いよく開いた。

「はぁーい諸君! 今日も花衣亭に春の風を吹かせるわよぉ!」

現れたのは店長——もとい、ママ。

性別も年齢も不明。

派手なアイシャドウと長い羽織を揺らしながら登場する姿は、もはや舞台役者そのものだ。

「今日は特別イベント『華剣の儀』! 女の子らしい所作で、お客様の心を斬るの! 文字通りね!」

「……文字通りって、刀振っちゃダメですよね?」

「もちろんダメよぉ! 振らずに、抜くのっ! 抜刀の美学よ!」

ママの言葉に、春樹は無意識に自分の腰の模造刀へ視線をやる。

……抜刀の美学、ね。

そんなものが存在するなら、きっと俺には一番縁遠いジャンルだ。

「春ちゃん、主役はあんたよ」

美羽の声が聞こえた瞬間、春樹の脳内警報が鳴った。

「えっ、俺!? いやいやいや、なんで!?」

「だって今日、新顔の日なんだもん。初々しい方がウケるのよ」

ママは満面の笑みを浮かべて親指を立てる。

「初々しい失敗ほど尊いの。さあ、恥ずかしさを捨てて、華麗に抜くのよ!」

いや、そんなノリで抜刀を任せるな。

春樹は心の中で全力でツッコみながら、仕方なく準備を整えた。

開店時間。

『花衣亭』の扉が開き、いつもの常連客たちが入ってくる。

着物や袴姿のスタッフが優雅に「おかえりなさいませ」と頭を下げるたび、和風のBGMが流れる。

客層は男女半々。

写真を撮る女子高生、静かに眺める年配の男性、カップルまで。

この異世界っぽい非日常空間が、妙に人気らしい。

「春ちゃん、ステージ行こっか」

美羽に背中を押され、春樹は舞台の中央へ。

照明が当たり、全員の視線が集まる。手汗が止まらない。

「……お、お待たせいたしました。本日、華剣の儀を務めます、春でございます」

言いながらお辞儀。声が少し裏返った。

パチパチと拍手。

よし、ここまではなんとか乗り切った。

あとは、刀を抜くだけ。

春樹は深呼吸をして、鞘に手をかけた。

ゆっくりと引く。

……抜けない。

もう少し力を入れる。

……びくともしない。

(あれ? おかしいな。引っかかってんのか?)

焦り始めた瞬間、鞘を持つ手が滑ってカタリと音を立てる。

客席がざわつく。

「え、演出?」「かわいい……」「頑張れー!」

(頑張れーじゃねぇ!こっちは命がけだよ!)

必死に力を入れるが、鞘は春樹の抵抗をあざ笑うかのようにピクリとも動かない。

「お、お見苦しいところを……」と無理に笑ってみせるが、顔が引きつっているのが自分でも分かる。

客席の最前列、女子高生コンビがスマホを構えている。

「あの必死な顔……尊い……」

(やめろ、撮るな、それバズるやつだ!)

その瞬間、美羽が舞台袖から身を乗り出し、口パクで「笑え!」と合図を送ってきた。

春樹は涙目で無理やり笑顔を作る。

「に、にこっ……」

会場が湧いた。

「かわいい〜!」「抜けないのも演出だね!」

(演出じゃねぇよ!)

結局、刀は最後まで抜けず、春樹はお辞儀をして退場した。

足元がふらつきながら、控室へ戻る。

美羽とママが拍手で出迎える。

「春ちゃん、最高だったわ! 抜けないお侍なんて、ギャップ萌えよ!」

「いえ、俺はただの不器用な男です……」

「不器用でもいいの。ステージの真ん中に立ってたじゃない。ちゃんと、みんな見てたわ」

その言葉に、春樹は少しだけ息をついた。

鏡を見ると、ウィッグの下の額にはうっすら汗。

春の笑顔はどこかぎこちないけれど、少しだけ誇らしげに見えた。

花柄の緑の着物と袴姿で刀を構えるドジっ子キャラの挿絵

YouTubeでも抜刀の達人の動画とか上がってますが

いつ抜いてるのかまるで見えない。。。

試したい人は模造刀買ってチャレンジしてください。

インフルは症状が落ち着きました。

週2ペースが守れなくなるかとちょっと焦った。

いいねとかコメントくれた方、放置してしまってすみません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました