
バレンタインデーの朝。
クラスの人気者の翔太(しょうた)は、例年通り大量のチョコを受け取る準備をしていた。
教室に入れば、机の上には色とりどりの包装紙に包まれたチョコが積まれているはずだ。
しかし——。
「……え?」
目が覚めた瞬間、見慣れない天井が広がっていた。
違和感を感じながら起き上がると、布団ではなくフリルのついた可愛らしいベッドカバーが視界に入る。
隣の棚には、ぬいぐるみや少女漫画が並んでいた。
「え、なにこれ……?」
さらに、自分の声がおかしい。高くて柔らかい、女の子の声だった。
「嘘だろ……?」
慌てて立ち上がると、目の前の鏡に映っていたのは翔太の親友であり、地味めな女子・真央(まお)だった。
肩まで伸びた黒髪、控えめな表情、そして翔太の制服ではなくセーラー服を着た姿。
「……お、俺、真央になってる!?」
一方、同じ頃。翔太の家では、真央(中身は翔太)が目を覚まし、同じく大混乱に陥っていた。
結局、お互い混乱したまま、それぞれの身体のまま学校へ向かうことになった。
しかし、クラスメイトたちの前では話せない。
真央(翔太の身体)は、突然チョコを大量に渡される立場になり、戸惑いながらも無理に笑顔を作る。
翔太(真央の身体)は、女子グループに囲まれ、「チョコ渡した?」と聞かれるたびに適当にごまかした。
なんとか一日をやり過ごし、放課後。
二人は学校裏の公園で落ち合った。
「……ようやく話せるな。」
翔太(真央の身体)がため息をつくと、真央(翔太の身体)も肩を落とす。
「信じられないよ……これ、どうなってるの?」
「わかんねえ。でも、とにかく元に戻らないとヤバい。お前の身体で風呂入るとか、なんかいろいろ気まずいし……。」
「そ、そんなこと言わないでよ!」
真央は顔を赤らめた。
翔太が自分の身体にいるという事実が、何よりも恥ずかしかった。
一方の翔太も、自分がセーラー服を着たままでいることに違和感しかない。
「私……こんなにチョコをもらったの初めて……。」
真央(翔太の身体)は、カバンの中の大量のチョコを見つめながら、どこか寂しそうに笑った。
「……なあ、ちょっと落ち着いて話せるとこ行こうぜ。」
結局、元に戻る方法が見つからないまま、それぞれの家に帰ることになった。
翔太(真央の身体)は、真央の母親に「ただいま」と言うのが、やけにこそばゆかった。
一方、真央(翔太の身体)は、翔太の母親と接しながら、普段の翔太の生活を実感する。
「なあ、真央……いや、お前、今日どんな風に過ごした?」
夜、スマホでメッセージを送り合いながら、二人は今日の出来事を振り返る。
翔太(真央の身体):「お前の家、女の子らしいな。お母さん、すげえ優しかった。」
真央(翔太の身体):「翔太くんの家、お兄ちゃんがいるんだね。ちょっと怖かったけど、優しかった。」
翔太:「お前、兄貴にバレなかった?」
真央:「多分……大丈夫……。」
それぞれ、相手の生活を経験しながら、互いを少しずつ理解していった。
翌朝。相変わらず二人は入れ替わったままだった。
「どうする? まだ戻れないよ……。」
「昨日のチョコ、まだ食べてないな……。」
ふと、翔太(真央の身体)が思い出した。
昨日、受け取ったチョコとは別に、真央が渡すはずのものがあったのだ。
「せっかくだから、一緒に食べようぜ。」
真央(翔太の身体)と一緒に、一つのチョコを半分ずつ分け合った。
——すると、突然目の前が暗転し——
——気がつくと、二人は元の身体に戻っていた。
「お……俺の声!? 俺の手だ!!」
「わ、私も……戻った……!!」
驚きと喜びが入り混じり、二人は顔を見合わせる。
「なんだよ、チョコ食べたら戻るって……おかしいだろ!」
「でも……良かった……本当に……。」
安堵のあまり、真央は涙を浮かべた。
それを見た翔太は、ふと気づく。
——真央は、ただの地味なクラスメイトじゃなく、かけがえのない存在だったのかもしれない。
「……来年も、またチョコくれるか?」
「えっ?」
「いや、その……今度は、普通に……お前の身体のままで、さ。」
真央は一瞬驚いたあと、頬を赤らめながら小さく頷いた。
「……うん。もちろん。」
バレンタインデーの奇跡は、二人の関係を少しだけ特別なものに変えたのだった。

バレンタインデーでチョコをネタにするのは安直ですかね?
もらう立場のつもりが渡す立場に。。。
感謝を述べる日なのでそういうのもありかも?
個人的にはバレンタインから数日後の
安売りを始めた美味しいチョコを買い漁りたい。
バレンタインが終わり、翔太と真央が付き合い始めてから数日後。
放課後の帰り道、真央は一人で商店街を歩いていた。
ふと、ガラスに映る自分の姿を見る。
あの日までの自分と何も変わらないはずなのに、気のせいか表情が柔らかくなった気がした。
それも当然だ。
——だって、ずっと片想いだった翔太と、ついに恋人になれたのだから。
「ふふっ……。」
思わず笑みがこぼれる。
***
彼女は翔太のことが好きだった。
けれど、翔太は人気者で、毎年大量のチョコをもらうような人。
地味な自分が告白したところで、ただの義理チョコの一つとして流されてしまうのは目に見えていた。
だから
「ちょっとした細工」をしたのだ。
それは、古くから伝わる”想いを届けるおまじない”。
好きな人に食べてもらえば、両想いになれるという言い伝えのある特別なチョコを、彼の元に届ける。
ただし、普通に渡しても意味がない。だから、彼女は少し手を加えた。
彼が確実にそのチョコを口にするように。
そして、確実に彼が自分を意識するように。
「……まさか、入れ替わるなんてね。」
想定外の展開だった。でも、結果的には大成功。
入れ替わりがなければ、翔太はきっと自分に興味を持つことはなかった。
一緒に過ごす時間が増えたからこそ、彼は自分のことを知り、そして、恋人として意識するようになったのだから。
「うん……うまくいってよかった。」
思い出すのは、昨日の翔太の笑顔。
「お前と一緒でよかった」——そう言ってくれたとき、彼の瞳はとても優しかった。
……まるで、本当に運命だったみたいに。
「来年のバレンタインは、普通に渡せるかな。」
彼の隣で、堂々とチョコを渡す未来を想像する。
きっと、今度は照れながら「ありがとう」って言ってくれるはず。
そして、その後には「……へへっ。」
顔を赤らめながら、一人でくすぐったそうに微笑む。
すべては計画通り。
ちょっとだけ予想外だったけれど、それはそれで最高の結末だった。



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