夕暮れ時、古い石畳の通りを歩いていた私は、一軒の喫茶店の前で足を止めた。
「メイドカフェ・ルージュ」というその店は、最近町で評判の場所だった。
入口のドアには「本日限定、新作ビール提供中」と書かれた看板が立てかけられていた。
「ちょっとだけ寄ってみるか」と自分に言い聞かせ、私はドアを押し開けた。
店内に一歩足を踏み入れると、メイド服に身を包んだ店員たちが笑顔で迎えてくれた。
私はカウンター席に座り、注文を待っていた。
すると、一人のメイドがやってきて、微笑みながらメニューを差し出した。
「いらっしゃいませ、ご主人様。今日は新作のビールがおすすめです。いかがですか？」
彼女の勧めに、私は興味をそそられた。「じゃあ、そのビールをお願いしようか。」
「かしこまりました、ご主人様。少々お待ちくださいませ。」
メイドは軽やかに歩き去り、しばらくしてからグラスに注がれた琥珀色のビールを運んできた。
そのビールは、芳醇な香りとクリーミーな泡が魅力的だった。
「こちらが新作のビールです。ごゆっくりどうぞ。」
彼女の笑顔に安心感を覚え、私は一口ビールを飲んだ。
その瞬間、爽やかな風味が口の中に広がり、心地よい酔いが全身を包み込んだ。
ビールを数口飲んだところで、急に視界がぼやけ、意識が遠のいていくのを感じた。
体が重くなり、まるで引きずり込まれるように椅子に沈み込んでいった。
「だ、大丈夫ですか？」
メイドの声が遠くに聞こえるが、返事をすることもできなかった。
意識が完全に途切れる寸前、彼女がにやりと微笑んだように見えた。
目が覚めたとき、私は見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。
頭がぼんやりしていて、起き上がるのに時間がかかった。
鏡の前に立ち、自分の顔を見て愕然とした。
そこに映っていたのは、自分ではなく、先ほどのメイドの姿だった。
「これ…どういうことだ…」
声も彼女のものになっていた。
パニックに陥りながらも、部屋を出て元の自分を探し始めた。
しかし、どこを探しても見つからない。代わりに、部屋の隅に置かれた手紙を見つけた。
「ご主人様へ
あなたの身体を頂きました。どうかお許しください。あなたの人生はこれから私のものです。
メイドより」
手紙を読んで、怒りと絶望が交錯した。
どうしてこんなことが起こったのか、理解できなかった。
何としても自分の身体を取り戻さなければならない。
外に出て、元の自分がどこにいるのか探し回ったが、町は見知らぬ場所に変わっていた。
人々も誰一人として知っている顔はなく、まるで別の世界に飛ばされたかのようだった。
途方に暮れながら歩いていると、ふと目に入ったのは古い書店だった。
何か手がかりがあるかもしれないと思い、店に入ってみた。
店内には、古びた本がずらりと並び、静かな空間が広がっていた。
「いらっしゃい、どうかしたのかね？」
店主の老人が話しかけてきた。事情を話すと、老人は眉をひそめ、真剣な表情で聞いてくれた。
「それは古い魔法だな。身体を交換する呪いだ。元に戻るには、そのメイドを見つけ出し、特定の儀式を行う必要がある。」
老人の話に、わずかな希望を見出した。
私はその儀式について詳しく教えてもらい、必要な道具を集めるために再び町を歩き回った。
数日後、ようやく全ての準備が整った。
儀式を行うためには、メイドとの再会が必要だった。
彼女を見つけ出すために、町中のカフェや店を片っ端から探した。
ある日、ようやく彼女を見つけた。
私の姿をした彼女は、別のカフェで働いていた。
慎重に近づき、彼女に声をかけた。
「やっと見つけた。君のせいでこんな目に遭った。」
彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷笑を浮かべた。
「見つかっちゃったのね。でも、もう遅いわ。あなたの身体は私のものよ。」
私は儀式を行うための準備を整え、彼女を捕まえて儀式の場所に連れて行った。
彼女は抵抗したが、何とか儀式を開始することができた。
呪文を唱え、必要なアイテムを配置していくと、光が辺りを包み込み始めた。
目を閉じて呪文を続けると、突然の衝撃と共に意識が遠のいた。
目が覚めると、私は見知らぬ通りに立っていた。
周囲を見渡すと、儀式を行った場所とは違う場所に移動していたことに気づいた。
心臓が激しく脈打ち、私は鏡のある場所を探して走った。
最寄りの店のトイレに駆け込んで鏡を見たとき、映っていたのはまだメイドの姿だった。
儀式は失敗したのか、それとも何かが間違っていたのか。私は絶望感に包まれ、その場に崩れ落ちた。
女性としての生活が始まったが、何もかもが慣れないことばかりだった。
まず、日常の服装からして困難だった。
メイド服以外の服を持っていなかったため、店に行って女性用の服を買う必要があった。
サイズやデザインに悩み、試着室で何度も鏡を見ながらため息をついた。
次に、仕事を見つけることも大変だった。
元の職場には戻れず、履歴書に書ける経歴もなかったため、バイトを探すことから始めなければならなかった。
女性としての社会経験が浅いため、仕事の面接でも戸惑いが多かった。
さらに、身体的な変化にも順応する必要があった。
日々のメイクやヘアケア、新たに始まった生理など、男性の時には経験しなかった事柄に毎日直面することになった。
ある日、カフェで働くことになった私は、同僚の女性たちと少しずつ打ち解けていった。
彼女たちの支えのおかげで、少しずつ新しい生活に適応していくことができた。
だが、心の奥底には常に自分の本来の姿を取り戻したいという思いがあった。
元に戻る方法を探し続けたが、手がかりは一向に見つからなかった。
オカルトの知識を持つ者たちに相談しても、解決策は見つからず、諦めの気持ちが日に日に増していった。
そして数年が過ぎた。
私は完全に新しい生活に適応し、今では一人前の女性として働きながら生活を送っていた。
時が経つにつれ、過去の出来事は徐々に記憶の彼方へと消えていった。
私の生活は、毎日のルーティンが中心となり、仕事、友人、趣味に没頭するようになった。
かつての自分を忘れるために、新しいスキルや知識を積極的に学び、自分自身を成長させることに努めた。
ある日のこと、私はカフェで働いていると、一人の男性が店に入ってきた。
彼はどこかで見たことがあるような気がしたが、すぐには思い出せなかった。
彼は私の前に座り、注文を終えるとじっと私を見つめていた。
「何かお困りですか？」私は声をかけた。
「いや、君をどこかで見たことがあるような気がしてね。でも、思い出せないんだ。」
その言葉に、私の心は一瞬ざわめいた。
もしかして、彼は元の私を知っているのだろうか。
しかし、今の私には過去を追い求める力も意欲もなかった。
「そうですか。もしかすると、偶然かもしれませんね。」
私は笑顔でそう答えた。
その後、彼はコーヒーを飲みながら、少し話をした。
彼との会話は心地よく、どこか懐かしさを感じたが、過去の自分に執着することはやめた。
それから数ヶ月が経ち、カフェのオーナーと共に、新メニューの開発やイベントの企画に忙しい毎日を送っていた。
仕事の合間には友人たちと出かけ、趣味の時間を楽しむことで、充実した日々を過ごしていた。
一度失った自分を取り戻すことはできなかったが、今の自分に満足し、過去の自分に対する未練も次第に薄れていった。
もう7月ですね。今年も半分が終わったのか。
雨もふりつつ、蒸し暑い時期なので、きっとビールが美味しい季節です♪
まあ、いつ飲んても美味しく飲んでますが。
各々お気に入りのビールはあると思いますが、たまには飲み比べでもしてみては？
もしくはメイドカフェにもアルコール置いてるとこはあるみたいです。
多分酔い潰れなければ、体は持っていかれないと思うので。。。
コメント