「おかえりなさいませ、ご主人様!」
その日はなんとなく、疲れていた。
大学の課題とバイトに追われて、逃げるように入ったメイドカフェ。
少し照れくささもあったけれど、ホッと一息つけるこの空間は悪くない。
「ご注文、どうなさいますか?」
目の前に立つメイドは、ふわふわの金髪に猫耳カチューシャ。
大きな瞳と、少し儚げな表情が印象的だった。
名札には「ミア」と書かれている。
「じゃあ……オムライスとコーヒーで。」
「かしこまりました!愛情をたっぷり込めてお作りしますね♪」
彼女の笑顔に、なんだか心が軽くなる気がした。
しかし、帰り際――。
「ねえ、ちょっと面白いことしてみない?」
ミアは僕の手を引き、店の奥にあるスタッフルームに連れて行った。
「面白いこと?」
「うん、身体を入れ替えてみない?」
「は?」
冗談だろうと思った。けれどミアは真剣な顔で言う。
「大丈夫。ちょっとだけ、だよ?嫌だったらすぐ元に戻すから。……ね、お願い。」
彼女の瞳に浮かぶ必死さに、断れなかった。
「……え?」
目を開けると、目の前に鏡があった。
そして、そこに映っているのは、さっきのメイド――ミア。
「これ、夢じゃないよな……。」
小さな手、白い肌、柔らかい髪。
そして、スカートの裾がひらひら揺れている。まさに“女の子”だ。
「うわ、声まで……!」
「ふふ、すごいでしょ?」
鏡の隣には僕――いや、僕の身体に入ったミアが立っていた。
どこか楽しそうに笑う。
「どう?新しい自分、気に入った?」
「気に入るわけないだろ!」
そう言いつつも、心の奥底で湧いてくる好奇心を否定できなかった。
「まあ、せっかくだし……お店に出てみる?」
「は?」
「だって、私の身体なんだから。今日だけ、メイドとして働いてみなよ。」
最初は戸惑った。
だが、周りのメイド仲間やお客さんは、違和感を抱かない。
「ミアちゃん、今日も可愛いね!」
「ありがとう、ご主人様♪」
言葉がスムーズに出てくるのが不思議だった。
まるで身体だけでなく、記憶や仕草までも彼女のものになっているかのように。
「お疲れ様~。ミアちゃん、今日めっちゃ頑張ってたね!」
休憩中、他のメイドたちに囲まれて、自然に笑い合う。
こんな経験、男の自分には絶対にできない。
楽しい。
でも――。
「なあ、そろそろ戻らないか?」
「……うん。ちょっと待っててね。」
ミアはそう言い残して、僕の身体を連れ、スタッフルームへ消えた。
「……ミア?」
待っても待っても、ミアは戻ってこない。
「あいつ、何してるんだよ……。」
不安が胸を締め付ける。やがて、店のオーナーが来た。
「ミア、ちょっと話があるんだ。」
「え、なんですか?」
「君の“借金”、返済期限が過ぎてるんだよ。もう待てないんだ。」
借金?どういうことだ?何もわからずにうなずくと、オーナーは驚くべき言葉を続けた。
「君、逃げようとしても無駄だぞ。身体が変わっても責任は変わらないからな。」
心臓が止まりそうになった。
「ちょ、ちょっと待ってください!それって……。」
そうだ。ミアは僕の身体を持ち逃げしたんだ!
必死に街を探し回った。
でも、僕の身体――ミアの姿はどこにも見当たらない。
「ふざけんな……返せよ……俺の身体……!」
気が付けば、途方に暮れ、夜の公園でうずくまっていた。
慣れないスカートとヒールが冷たい。
(なんでこんなことに……。)
でも、逃げるわけにはいかない。
ミアの借金は、どうやら裏の業者から借りたものらしい。
額はとんでもないものだった。
(俺が、代わりに返さなきゃいけないのか……?)
怒りと絶望が混ざり合う。
それでも、この身体で生きていかなければならない現実に、背筋が寒くなった。
数日後、ようやくミアを見つけた。
繁華街の端、古びたビルの中で。
「お前……!」
僕の身体を持ったミアは、申し訳なさそうに笑った。
「ごめんね。でも、どうしようもなかったんだ……。」
「ふざけんな!なんでこんなこと――」
「私ね、もう逃げられないんだよ。借金も、過去も。」
ミアの目には涙が浮かんでいた。
「だから、代わりに生きて。私の代わりに、自由に生きて。」
「は?意味わかんねえよ!」
「――私の人生、あなたにあげる。」
彼女は僕の身体で笑い、そして闇の中へ消えていった。
その後、僕はミアの人生を背負うことになった。
借金の取り立て、メイドカフェでの生活――どれも逃げ出したくなる現実だ。
それでも、あの時の彼女の涙を思い出すと、どうしても許せなかった。
(彼女が逃げた分まで、俺が生きてやる。)
鏡の中の“ミア”は、少しだけ逞しく見える。
「ご主人様、おかえりなさいませ♪」
今日も僕は笑顔で、カフェの扉を開けた。
――彼女の人生を、受け継ぐために。
借金返済のために身体を手放す。。。
医学とかが発展したら起こり得る未来かもしれませんね。
私もローン抱えて生きている身なので。
いっそ手放せるなら楽にはなれますが。。。
少しでも返済が進むように、電子書籍買ってください♪
もしくは宣伝してください♪
メイド服や清風を着た男性の写真がそこそこ載ってます!
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