佐藤圭介、40歳。営業職として働き続けて20年。
仕事終わり、彼はいつものようにため息をつきながら公園のベンチに座っていた。
「はぁ……もう嫌だ。会社と家を往復するだけの人生。若い頃に戻ってやり直せたらな……」
その呟きに、どこからか「ねえ、おじさん」と澄んだ声が響いた。
驚いて顔を上げると、そこには制服を着た女子高生が立っていた。
「な、なんだ、君? こんな夜遅くに」
「おじさん、人生やり直したいんでしょ?」
茶色がかった髪に整った制服姿。
落ち着き払った彼女の目は、まるで人の心を見透かすようだった。
「やり直すって……どういうことだ?」
「簡単だよ。私と人生を交換するの。私の体と立場を、おじさんにあげる。おじさんは、私として新しい人生を始めればいい」
「本当にそんなことが……?」
圭介は半信半疑ながらも、心の中では大きく揺れていた。
(40歳のままこんな疲れた人生を送るくらいなら、もう一度女子高生としてやり直したい……)
「どうする? 決めるのはおじさんだよ」
その言葉に抗えず、圭介はうなずいた。
「わかった。交換しよう」
「ふふっ、じゃあ決まりだね」
彼女は笑顔で手を差し出した。圭介がその手を握った瞬間――目の前が真っ白になった。
「ん……?」
目を開けると、見慣れない天井が広がっていた。
見回せば、シンプルな部屋に制服が壁に掛けられている。
「これが……俺の新しい生活か!」
勢いよく起き上がるが、すぐに全身に重さを感じた。
「ん? なんだ、これ……?」
手を見れば、細くはあるがシワが目立つ。
慌てて立ち上がると、ふらつきながら鏡の前に立った。
そこに映ったのは――熟年女性の顔をした女子高生だった。
「う、嘘だろ……!? 女子高生の体……じゃないじゃないか! これ、40歳のままじゃねえか!」
確かに制服を着ている。
髪もきれいにセットされている。
だが、顔にはシミやほうれい線が刻まれ、体つきも明らかに年齢を重ねていた。
「ふざけるな! 若返るんじゃなかったのかよ!」
叫んでも何も変わらない。新しい人生が、現実味を帯びてのしかかってきた。
そのまま学校に行くことになった圭介。
クラスメイトたちは自然に彼を「新しい転校生」として受け入れた。
「佐藤さん、おはよう!」
「お、おはよう……」
だが問題は授業と体育だった。
「次、1000メートル走な!」
体育教師の声に、圭介は絶望した。
「1000メートル!? 無理だ……!」
走り出して10メートルで膝が笑い、50メートルで息が切れる。
「はぁっ……はぁっ……だ、だめだ、死ぬ……!」
クラスメイトたちは笑いながら言う。
「佐藤さん、遅っそ~!」
「うるせえ……こっちは40歳なんだよ……!」と心の中で叫びながら、圭介は膝に手をついて喘いだ。
音楽の授業ではさらに屈辱が襲う。
リコーダーを吹けば肺活量が足りず、音は掠れるばかり。
「佐藤さん、音ちっちゃくない?」
「だまれっ……!」
放課後も最悪だった。
クラスの女子たちが「一緒にプリクラ撮ろうよ!」と誘ってくれたが、「私……ちょっと……」と逃げるしかない。
鏡を見るたび、40歳のまま女子高生の格好をしている自分が滑稽に見えて仕方がなかった。
ある日、放課後。
校門の向こうにスーツ姿の若い男性――圭介の元の身体が立っていた。
「お、お前……!」
近寄ると、元女子高生だった彼女は笑顔で言った。
「どう? 新しい人生は楽しい?」
「楽しいわけあるか! なんで年齢までそのままなんだ!」
「え? 言わなかったっけ? 体と立場は交換するけど、年齢はそのままだって」
彼女――いや、彼は楽しそうにスーツの袖を直す。
「おかげで仕事は順調だし、もうすぐ会社立ち上げるんだ。ありがとうね、40歳のキャリア」
「ふざけるな! こんなの詐欺だ!」
「でも、私の言ったことは本当でしょ? 人生は交換できるって。ただし、中身はそのまま――それが現実だよ」
そう言い残して、彼女――若い男性は颯爽と街に消えていった。
翌朝、圭介は再び重い足取りで学校へ向かう。
廊下で女子たちの笑い声が聞こえ、体育の授業では膝が痛み、息が切れる。
「……これが、俺の新しい人生……」
若い頃に戻れると思った夢は、40歳のまま新しい環境に放り込まれる地獄だった。
だが――それでも日々は続く。
授業を受け、ノートを書き、年齢に似合わぬ制服姿で歩き続ける。
(せめて、この中身でもう一度学び直してやる。……それくらいしか、できねえからな)
ため息をつきながら、圭介は今日も校舎の廊下を歩き続けるのだった――。
「若返りの夢は、現実のまま動き出したのだ。」
なかなか悲惨な状況ですが、どっちがいいんでしょうね?
若いままキャリアを手に入れても、中身が伴うかは分かりません。
ギフテットやサヴァン症候群な人たちにはかなり有利かも?
逆に若さが無くても、若い立場を手に入れられるなら
技能を持ったまま若手として働けますし
体力面以外は意外と活用できるかも?
まあ、こっちも人によりけりですけれども。
誰にも気づかれない状態で熟女になって制服で歩くという
羞恥プレイだけ体験して元に戻りたい。
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