「ねえ悠人くん、今日くらい付き合ってくれたっていいじゃない」
金曜日の十九時。オフィスに漂う倦怠感を切り裂くように、美咲さんの艶やかな声が響いた。
二十代の若手社員である僕、悠人にとって、美咲さんは頼れる指導役であり、同時に最も断りにくい「天敵」でもある。
四十代特有の、熟した果実のような包容力と、それを武器にしている自覚のある強引さ。
「旦那も単身赴任でしょ? 広い家に一人で帰っても、料理するの面倒なのよ」
そう言って笑う彼女の肌は、オフィスライトの下でも白く、しっとりとした質感を保っている。
結局、僕は彼女に連れ出される形で、駅近くの居酒屋の暖簾をくぐることになった。
「……はぁ、やっぱり男手が欲しいわね。あの一軒家、一人で維持するのは結構堪えるのよ」
三杯目の生ビールを飲み干し、美咲さんは溜息をついた。
彼女には子供がおらず、旦那さんは地方へ単身赴任中。
時折帰ってくるとはいうが、日々の生活は彼女一人の肩にかかっている。
仕事は完璧にこなす人だが、酒が入ると途端に「一人の女」としての脆さが顔を出す。
「悠人くんはいいわよね。まだ若くて、体も軽そうで。私なんて、最近は階段を上がるだけで腰にくるし、肩こりも酷くて……」
彼女が自嘲気味に笑いながら、首筋をさする。
その拍子に、白いブラウスの襟元から覗く鎖骨と、豊かな胸の曲線が視界に入った。
僕は慌てて目を逸らし、冷えたウーロン茶を喉に流し込む。
「僕で良ければ、いつでも手伝いに行きますよ。電球の交換とか、家具の移動くらいなら」
僕が社交辞令のつもりでそう言うと、美咲さんは濡れたような瞳で僕を見つめた。
「本当? 嬉しい……悠人くんって、本当に優しいのね」
その直後だった。
急に酔いが回ったのか、美咲さんはテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
呼んでも揺すっても、幸せそうな寝息を立てるばかりだ。
タクシーを拾い、彼女の自宅へ向かう。
閑静な住宅街に建つ一軒家は、彼女が言う通り一人で住むには広すぎた。
鍵を預かり、彼女を抱きかかえるようにして寝室へ運ぶ。
美咲さんの体は、僕の予想よりもずっと重く、そして柔らかかった。
腕の中に伝わる、ずっしりとした肉の重みと、汗と混じり合った濃厚な香水の匂い。
ベッドに横たわらせ、靴を脱がせたところで、彼女が薄目を開けた。
「……悠人くん? 送ってくれたのね、ありがとう……」
「いえ、当然ですよ。じゃあ、僕はこれで」
帰ろうとした僕の腕を、彼女の白く、肉感的な指が強く掴んだ。
「待って。……せっかく来てくれたんだもの、飲み直しましょう? 冷蔵庫にいいワインがあるの」
断る間もなく、彼女は起き上がり、キッチンへと向かった。
さっきまでの泥酔が嘘のような足取りだ。
僕は導かれるまま、リビングのソファに腰を下ろした。
「本当に、男の手があれば助かるのにって、毎日思ってるのよ」
ワイングラスを傾けながら、美咲さんは僕の隣にぴったりと座り直した。
彼女の太ももが、僕のジーンズ越しに熱を伝えてくる。
「本当に、僕で良ければ、力になりますから。体の一部を貸すくらいの気持ちで」
僕がそう答えた瞬間、美咲さんの表情が妖しく歪んだ。
「……あら、今『体を貸す』って言ったわね?」
「え、ええ、まあ……」
「嬉しい。じゃあ、遠慮なく借りるわね。今夜だけ」
美咲さんが僕の首筋に手を回し、強く抱きしめてきた。
抗えないほどの抱擁。
彼女の豊かな胸に顔を埋められた瞬間、視界が白く明滅した。
美咲さんの匂い。重み。熱。
それらが濁流のように僕の脳に流れ込み、僕の意識は、底なしの深い闇へと沈んでいった。
次に目を覚ましたとき、僕は奇妙な違和感に襲われていた。
まず、胸が重い。仰向けに寝ているはずなのに、胸の上に何か「ずっしりとした塊」が二つ、左右に垂れ下がっているような感覚。
そして、下半身が妙にスースーする。
「……う、ん……?」
声を漏らした瞬間、僕はさらに困惑した。
喉から出たのは、自分の声だ。
首から上は、間違いなく僕、悠人のままだ。
しかし、体を起こそうとした瞬間、全身を襲ったのは、かつて経験したことのない「肉の重圧」だった。
「……なんだこれ、重い……っ!」
僕は這うようにして、リビングにある姿見の前までたどり着いた。
鏡に映っていたのは、狂気じみた光景だった。
鏡の中には、見慣れた二十代の男である「悠人」の顔がある。
しかし、その首の境界線から下は、僕の知っている僕の体ではなかった。
真っ白で、柔らかな曲線を描く広い肩。
しわの寄った白いブラウスのボタンが今にも弾け飛びそうなほど、大きく、ずっしりと膨らんだ二つの乳房。
そして、その豊かな胸を支える生地が、僕の荒い呼吸に合わせて激しく上下している。
「嘘だろ……。顔は、顔は僕なのに……体が、美咲さんの……っ!」
自分の顔の下から、自分のものではない女の、それも熟した大人の女性の匂いが立ち上る。
グレーのタイトスカートに包まれた腰回りは、僕のスラックスよりもはるかに横幅があり、椅子に腰を下ろした時の「肉の広がり」が、座面を通して生々しく脳に伝わってくる。
「ふふ、起きた? 悠人くん。……いいえ、今の姿なら『悠人さん』って呼ぶべきかしら?」
背後から、キッチンに立っていた「男」が近づいてきた。
鏡の中に映り込んだその姿に、僕は息を呑んだ。
美咲さんの華やかな顔。
しかし、その首から下は、僕が昨日まで持っていた、二十代の引き締まった男の体だった。
彼女はTシャツを着ているが、胸元はスカスカで、平坦な胸板が生地越しに透けて見える。
「美咲さん……どうして……っ。これ、僕の体じゃないですか!」
「あら、自分から『体を貸す』って言ったじゃない。約束は守らなきゃ。男の体って、本当に不思議ね。何もしてないのにこんなに軽くて、力が溢れてくる……」
美咲さんは僕の逞しい腕をまじまじと眺めながら、不敵に微笑んだ。
僕の顔をした美咲の体が、美咲さんの顔をした僕の体を見上げている。
この歪な境界線。
鏡の中の僕は、自分の顔をしながら、スカートの下には本来あるべき「モノ」がなく、代わりに「平坦で、どこか湿り気を帯びた違和感」だけが居座っていることに、恐怖と、そして抗いがたい倒錯感を抱き始めていた。

今回は首から下だけ交換されるという話です。
顔がそのままなら誤魔化せそうな気もしますが
男女じゃ骨格から違っていて、色々と勝手も違いますね。
服さえなんとかすれば誤魔化せる?
いえいえ、多分違和感全開でしょうね♪
普通に入れ替わった方が、演技で何とかできそうです。
こんな倒錯感は、漫画や小説じゃないと多分無理。
なので文章にしてみました。
これを読んだ方はちょっと自身に置き換えて妄想してみてくださいw
次回:1/27 21:00~更新予定
最近こんなページも作ったので、見ていってください。
今回の話をすんなり受け入れられる人向けの内容です♪



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