部屋の隅に置かれた段ボール。
通販で届いた荷物だが、開封するまでに数日がかかった。
「大丈夫だよ、誰も知らないんだから」
そう自分に言い聞かせながら、段ボールを慎重に開けた。
中には繊細なレースが施された女性物の下着と、ワンピース、そして帽子とウィッグが入っている。
すべて慎重に選んだ品々だ。
しかし、手に取るたびに、心の中で一つの問いが繰り返される。
「本当にこれでいいのだろうか?」
彼は小さく深呼吸をしながら、脱衣所に向かった。
鏡の前で、自分の姿をまじまじと見つめる。
黒いウィッグをかぶり、薄くメイクを施した顔が映っている。
リップを軽く塗り、頬には淡いチークがのっている。
「似合ってる……かな?」
呟きながら、鏡越しの自分に笑顔を作ってみた。
けれども、どこか不自然に見えて、すぐにため息をつく。
続いて、通販で購入した白いワンピースを身にまとった。
軽やかな生地が肌に触れるたび、いつもの自分とは全く異なる感覚が広がる。
最後に帽子を深くかぶると、少しだけ自信が湧いてきた気がした。
「これなら、なんとか外に出られるかも……」
だが、玄関のドアの前に立つと、その足は一歩も動かなくなる。
外の世界が、あまりにも遠く感じる。
「ええい、思い切って!」
自分に喝を入れるように、ドアを勢いよく開けた。
昼下がりの光が眩しい。帽子のつばを少し下げ、顔を隠すようにして外に出た。
駅に向かう道中、すれ違う人たちの視線が気になって仕方がない。
「見られている」「変だと思われている」そんな考えが頭を巡る。
しかし、ふと気づく。
「あれ、誰も気にしてない?」
彼は驚き、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
駅に着くと、改札を通り、少し離れた街へ向かう電車に乗り込む。
車内はほどよく混雑しており、彼は座席の端に腰を下ろした。
窓の外に流れる風景を見つめながら、胸の鼓動が少しずつ落ち着いていくのを感じる。
到着したのは、小さな商店街が広がる街だった。
見慣れない風景に、自然と足が進む。
「この辺りなら、知り合いもいないし……自由に歩ける気がする」
小さな雑貨屋に立ち寄り、店内を眺める。
カラフルな小物や可愛いアクセサリーが並んでいる。
その中の一つ、淡いピンク色のヘアピンが目に留まった。
「……これ、似合うかな?」
手に取ると、そばにいた店員の女性が声をかけてきた。
「可愛いですよ、それ。お似合いになりそうです」
突然の言葉に一瞬驚いたが、店員の笑顔を見て、少しだけ安心する。
「あ、ありがとうございます……」
声を震わせながらも、彼はヘアピンを買うことにした。
その小さな買い物が、自信を与えてくれるような気がした。
商店街を歩いていると、ふとカフェの看板が目に入った。
「ちょっと休憩しようかな……」
カフェの扉を開けると、穏やかな音楽と温かな香りが彼を迎えた。
窓際の席に座り、メニューを眺める。
「何にしようかな……」
そう考えていると、隣の席に座っていた女性が話しかけてきた。
「お一人ですか? 今日、天気が良くていいですね」
突然の会話に少し戸惑ったが、彼は笑顔を作りながら答えた。
「はい、そうですね……ちょっと遠くから来たんです」
その後も会話が続き、自然と緊張が解けていく。
女性との何気ない会話は、彼にとって新鮮で心地よいものだった。
帰りの電車に乗る頃には、彼の表情には少しだけ笑みが浮かんでいた。
「自分の姿、少しは受け入れられたかも……」
そう思いながら、彼はまた次の冒険を計画する決意を固めるのだった。
女装に限らずですが、新しいことをしたいなら
ちょっと離れたところに行くと良いかも?
知り合いと会わないところだったら多少羽目外してもね?
それが野外なのか、ネット上なのか?
どちらにしろ新しい居場所っていうのは居心地良いです。
こんな状態をいつまでも維持したい。。。
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