冷たい風が吹く夕暮れの街を歩いていた僕は、何かから逃げるように歩き続けていた。
警察からも、過去の罪からも逃げられないことは分かっていたが、走り続けることしかできなかった。
そんな時だった、声をかけられたのは。
「ねえ、少しお話ししない?」
立ち止まった僕の前には、薄い笑みを浮かべた女性が立っていた。
ふと気づくと、彼女は何故か僕のことを見透かすような目で見ていた。
「あなた、何かから逃げてるんでしょ?」
心臓が一瞬止まったかのような感覚に襲われた。
どうして彼女は僕のことを知っているのか。口を開こうとしたその時、彼女は続けた。
「私もね、同じようなものよ。でも、ちょっと面白い提案があるの。お互い、違う人生を試してみない?」
「違う人生…?」
彼女はさらに身を寄せ、耳元でささやいた。
「私たち、身体を交換してみない?少しの間、お互い違う人生を体験してみましょうよ。」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
身体を交換?そんなことが本当にできるわけがない。
しかし、彼女の真剣な表情に、僕は次第に引き込まれていった。
場所を移して、薄暗いカフェの片隅で向かい合う僕たち。
彼女は僕に、何かの儀式のように話を進めた。
「簡単よ。お互いの手を握って目を閉じるだけ。それだけで、あなたは私、私はあなたになれる。」
半信半疑だったが、逃げたい気持ちが勝った。
僕は彼女に手を差し出し、言われた通りに目を閉じた。
次の瞬間、頭がぐるぐると回り、目を開けた時には――目の前には、僕の身体が立っていた。
「すごい…本当に入れ替わってる…」
鏡を見れば、そこに映るのは彼女の顔。
僕は驚きと同時に、これで自由になれるという淡い希望を感じた。
「これでお互い、しばらく違う人生を楽しめるわね。じゃあ、またね!」
彼女はそう言い残し、僕の身体で街へと歩き出した。
数日間、彼女の身体で新しい生活を送る僕。
周囲の人間は僕を窃盗犯だと認識しているようで、警戒の目を向けられたが、そんなことは些細な問題だった。
何より、僕は殺人犯として追われる身ではなくなったのだ。
「この身体で過去を精算し、新しい人生を始めよう…」
そう考えた時だった。再び警察に呼び止められたのは。
「ちょっと、あなた。過去の罪について話があるんだけど。」
心臓が跳ね上がる。過去の罪?いや、これは彼女の過去だ。僕には関係ないはず。
そう思いながらも、次の言葉で僕は我に返った。
「窃盗の容疑で、あなたを逮捕します。」
僕は動揺したふりをしながら、警察に連行されることになった。
この後罪を償えば、晴れて自由の身になれる。
そう思いながら警察についていくことにした。
一方、僕の身体に入った彼女は、意気揚々と新しい人生を楽しんでいた。
彼女にとっては、窃盗の過去を捨てて新しい人生を手に入れる絶好のチャンスだった。
自分の罪が殺人だと知るまで、彼女は喜んでいた。
ある日、彼女――僕の身体で過ごす彼女は、突然警察に呼び出された。
そして、告げられた言葉に彼女は絶望する。
「あなた、過去に殺人を犯した容疑で逮捕されます。」
その瞬間、彼女の頭の中は真っ白になった。
彼女がやったのは窃盗だけで、殺人などした覚えはない。
そう思いながらも、僕の身体で生きる彼女は、まさにその殺人犯として取り調べを受けることになった。
「こんなの、嘘よ!私はやってない!本当の殺人犯は…!」
彼女の叫びも虚しく、僕の身体で彼女は逮捕され、裁判にかけられることになった。
彼女は僕の罪を知らずに、ただ新しい人生を求めただけだった。
しかし、その結果、彼女は殺人の罪を背負うことになり、死刑宣告を受ける。
彼女がどれだけ叫んでも、もう元に戻ることはできない。
僕の身体を奪い、彼女は永遠にその罪と向き合うことを余儀なくされた。
「こんなはずじゃなかった…私の人生は…」
彼女は涙を流しながら、その運命を呪うしかなかった。
僕は、彼女の身体で窃盗の罪を償い、数年後に自由の身となった。
僕の罪は彼女が代わりに背負い、僕は過去から完全に解放された。
「ありがとうな、君のおかげで新しい人生が手に入ったよ。」
僕は彼女の墓前で呟いた。
彼女が死刑執行を受けるまで、僕は一度も彼女の元に会いに行くことはなかった。
全てを終わらせたのだから、過去を振り返る必要はない。
僕は彼女の身体で、新しい人生を手に入れたのだ。
これから先、彼女の身体でどんな未来を歩むかは分からない。
しかし、自由と引き換えに手に入れたこの身体で、僕は彼女の運命を背負わずに生きていく。
「ありがとう。そして、さよなら。」
僕は彼女の身体で新しい一歩を踏み出し、自由な未来を求めて歩き出した。
自分の罪から逃げたい人っていると思いますが
自分よりとんでもないことをしてるとは思わないでしょうね。。。
一応、私はそんなに悪いことはせずに生きてるつもりです。
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