「えっ、負けたら女装してパーティーに参加ってどういうことだよ!」
声が裏返りそうになるのを必死に抑えながら、俺は友人の健吾を睨みつけた。
「いやいや、ルール決めたのはお前もだろ? 勝ったらなんでも言うこと聞くって。」
健吾はどこか得意げに、けらけらと笑う。
確かに俺たちは、どちらがこの間のゲームを先にクリアできるか競った。
そして――あろうことか俺は負けてしまったのだ。
「だからって女装はおかしいだろ……。しかもクリスマスパーティーなんて人が多いところ。」
「ま、諦めな。男に二言はないんだろ?」
健吾の言葉に反論しようとしたが、ぐっと飲み込む。
約束を破るわけにはいかない。だが、それにしても、女装だなんて……。
「ちょっと、何これ! スカート短すぎない?」
クリスマス当日、俺は姉の部屋に座らされ、半ば強引に服を押し付けられていた。
姉の持ってきたのは、赤いワンピース。
柔らかな布地に小さなチェック模様が可愛らしい――だが、俺にはそれどころではない。
「似合うと思って選んだんだから、文句言わないの! それより、ちゃんと足閉じて! 女の子っぽく振る舞わなきゃバレるわよ。」
姉の容赦ない指摘に、俺はため息をつきつつ膝をぴったりとくっつけた。
「……絶対バレるだろ、こんなの。」
「意外と似合ってるわよ、直斗。ほら、鏡見て。」
恐る恐る顔を上げて鏡を覗き込んだ俺は――言葉を失った。
「……これ、本当に俺?」
黒のウィッグは自然に垂れ、前髪が整えられたおかげで顔の輪郭が小さく見える。
軽く入れた化粧で、普段の顔つきがやわらかくなり、違う自分がそこにいた。
「……うわ、俺……すげぇ……。」
姉は満足そうに頷いた。「でしょ? もう直斗じゃなくて、奈緒美って感じね。」
「名前まで勝手に決めるな!」
パーティー会場に足を踏み入れると、耳をつんざくようなクリスマスソングとともに、色とりどりのライトが目に飛び込んできた。
皆、楽しそうに談笑しているが、俺はひとり、落ち着かない気持ちで入口に立ち尽くしていた。
「おっ、直斗、じゃなくて奈緒美ちゃんじゃん!」
声をかけてきたのは健吾だ。
赤いチェック柄のワンピースを見て、満足そうに頷いている。
「……本当に来たのかよ、お前。」
「いや~、やっぱり男に二言はないな。てか、意外と似合ってるぞ?」
「お前な……。」
健吾の無邪気な笑顔に怒りが込み上げるが、これ以上騒ぎ立てるわけにもいかない。
俺はぎこちなく足を踏み出し、人の波に紛れ込んだ。
「大丈夫、大丈夫、みんな気づいてないって。」
健吾は飲み物を片手に言ったが、俺の心臓は未だにバクバクと音を立てている。
ふと目の前に大きなクリスマスツリーが現れた。
赤いリボンやガラスのオーナメントが光に照らされて輝いている。ツリーを見上げながら、俺はほっと息をついた。
「……こんな格好して、何やってんだろうな、俺。」呟いたその時、不意に後ろから声をかけられた。
「ねぇ、一緒に写真、撮らない?」
振り返ると、見知らぬ女子がにこやかに俺を見つめている。
俺は一瞬、息が止まった。
「えっ……?」
「すっごく可愛いワンピースだし、私も似た色の着てるからさ。クリスマスっぽくていいじゃん。」
俺はどうしていいか分からず、ちらりと健吾を見ると、健吾はニヤニヤ笑いながら親指を立てた。
「……あ、うん……いい、よ。」
ツリーの前で写真を撮る間、俺はできる限り女子らしく振る舞おうと必死だった。
「ありがとう! あ、名前なんて言うの?」
「えっと……、奈緒美。」
とっさに姉のつけた名前を口にする。女子は笑顔で頷いた。
「奈緒美ちゃんか~。なんか、落ち着いた雰囲気だね。」
「そ、そうかな。」
内心、冷や汗が止まらない。
だが、彼女の笑顔を見ると、何となく罪悪感が込み上げてきた。
――俺は男だ。騙しているみたいで申し訳ない。
「……ごめん。」
「え?」
思わず声に出してしまった俺を、彼女は不思議そうに見つめた。
「……なんでもない。」
夜も更け、パーティーは盛り上がりを見せていた。
俺はひとり、再びクリスマスツリーの前に立っていた。
周囲の喧騒が遠く感じる。
「似合ってるよ。」不意に健吾が隣に立って言った。
「……からかうなよ。」
「いや、マジで。お前、最初は嫌がってたけど、意外と楽しんでんじゃない?」
「そんなこと……。」否定しようとして、言葉に詰まる。
確かに、最初は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
でも、誰にもバレず、普通に過ごせたことが、どこか不思議な気持ちにさせていた。
――こんな自分も、ありなのかもしれない。
「まあ、いい思い出にはなったかな。」
ぼそりと呟くと、健吾は嬉しそうに笑った。
「ほら、メリークリスマス。女装の約束、よく守ったな。」
俺は小さく笑い、目の前のクリスマスツリーを見上げた。
「……メリークリスマス。」
赤いリボンとガラスのオーナメントが、まるで今日の俺を祝福してくれているように思えた。
――これが、俺にとって特別なクリスマスの夜になったことは、きっと誰も知らない。
もうすぐクリスマスですね♪
サンタさんにはみんな何をお願いするんですか?
私ののところのサンタさんは、家族の願いは叶えてくれるみたいで
プレゼントの準備がんばってるみたいです。
私のお願いだけは無視して請求書を渡してきます。
悪い子にしてたつもりは無いのにおかしいな?
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