「小林さん、ちょっと。顔色悪いけど大丈夫?」
女優・佐伯奈緒美が心配そうに声をかけてきたのは、舞台稽古の合間だった。
奈緒美は主演として慌ただしく動き回っており、その優雅な身のこなしに、小林翔平はただただ見惚れるばかりだった。
翔平は今回の舞台で端役として採用された新人俳優。
奈緒美とはほとんど接点がないが、彼女のカリスマ性に惹かれていた。
「だ、大丈夫です!」
無理に微笑んでみせるものの、実際のところは緊張と疲労で頭がぼんやりしていた。
華やかな舞台の世界に足を踏み入れたものの、連日の厳しい稽古に押し潰されそうだったのだ。
その瞬間、不意に視界がぼやけ、世界がぐるりと回った。
目を開けると、目の前には鏡があった。
だが、そこに映るのは自分ではなく――これは佐伯奈緒美だ。
「えっ……」翔平は驚いて声を上げた。
いや、上げたつもりだったが、聞こえたのは高く澄んだ女性の声。
鏡に映る奈緒美の口元が動いている。
混乱する中、背後から声が聞こえた。「おい、小林!何ぼーっとしてんだ!」
振り返ると、そこには奈緒美のマネージャーが険しい顔で立っていた。
だが、翔平はすぐに気づいた。その声を発しているのは――自分自身の体だ。
奈緒美の視点に移った翔平は、次の瞬間には舞台衣装部に引きずられていった。
「奈緒美さん、次の衣装合わせです!」
翔平は十二単衣を試着させられ、重厚な衣装に包まれて身動きが取れなくなる。
「こんなの……どうやって動くんだ……」心の中で叫ぶが、周囲のスタッフは容赦なく準備を進める。
奈緒美として動き回るのがどれだけ大変か、翔平は次第に実感していく。
特に、十二単衣を着せられて立ち上がる瞬間、体の重みがのしかかり、足元がふらついた。
「奈緒美さん、大丈夫ですか?」スタッフが心配そうに声をかけてくるが、翔平は必死に笑顔を作る。
「ええ、平気です……」だがその声も、どこか弱々しかった。
一方で、奈緒美は翔平の体でその場に残されていた。
自分の体を取り戻すために、翔平の意識を探そうとするが、どうすることもできず、ただ戸惑うばかり。
「これが男の体……ずいぶん軽いわね」彼女は不思議そうに手を握ったり開いたりしてみる。
「でも、この体では奈緒美としての仕事ができない……どうしたらいいのかしら」
舞台のリハーサルが始まった。翔平は奈緒美の体で貴族の役をこなさなければならない。
スタッフの指示で舞台中央に立つが、十二単衣の重さに耐えられず、膝が震える。
「しっかりしてください!」監督の怒鳴り声が響く。
翔平は必死に立ち直ろうとするが、衣装の重さと慣れない動作により、思うように体が動かない。
「くそっ、こんな重い衣装でどうやって……!」
心の中で叫ぶが、当然ながら誰も助けてくれない。
リハーサルが終わると、翔平はようやく楽屋に戻された。
「こんなの無理だ……」椅子に座り込むと、ようやく一息つけたが、重さで肩も痛む。
その時、鏡に映る奈緒美の顔が微笑んだ――いや、鏡越しに奈緒美本人が語りかけてきた。
「小林さん、これで私の苦労が少しわかったかしら?」
「奈緒美さん!?一体どうなってるんですか!」翔平は鏡の中の自分(奈緒美)に話しかけた。
「どうやら私たち、体が入れ替わっちゃったみたいね。だけど、これもいい経験よ。俳優として、相手の立場に立つことは大事だもの」奈緒美の落ち着いた声が響く。
その後、二人は入れ替わった状態でそれぞれの役割を果たすことになった。
翔平は奈緒美の体で舞台に立つ辛さを、奈緒美は翔平の体で周囲の雑用に追われる日々を経験する。
互いの立場を理解し合うことで、次第に信頼が芽生えた。
そして、ある日突然、二人は元の体に戻った。
「戻ったんですね……」翔平は自分の手を見つめながら、ほっと息をついた。
「ええ、だけど、この経験を忘れないでね」奈緒美が微笑む。
「あなた、案外いい俳優になれるかもしれないわよ?」
翔平はその言葉に救われる思いだった。
こういう特殊な衣装で撮った写真は、どう使おうか迷うところです。
過去へのタイムスリップ、時代劇、くらいしか思いつかない。
なんか面白いネタがあれば募集したいです。
あと、十二単衣は本当に動けない。
そして着るだけで時間がかかりすぎる。
脱ぐのは一瞬なんですけどね。。。
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