朝の冷たい風が頬を撫で、僕の心臓は高鳴り続けていた。
姉の制服に身を包み、鞄を手にした僕は、いつもの通学路を歩いていたが、今日はすべてが違った。
周囲の目がまるでナイフのように鋭く感じられる。
もしバレたらどうしよう――そんな恐怖が頭から離れない。
「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせるが、心の中の不安は増すばかりだ。
姉は今日はどうしても学校に行きたくないと言い張り、僕が替え玉になるように頼んできたのだ。
姉の頼みを断れない僕は、しぶしぶ了承してしまった。
「こんなこと、普通じゃありえないよな…」自分に言い聞かせるように呟いた。
学校の門が見えてきた。
心臓の鼓動がさらに早くなるのを感じる。
いつも通りに見えるはずなのに、今日は全く違う。
僕は知らない誰かの皮を被ったような感覚で、まるで別人になった気分だ。
校門をくぐると、すれ違う生徒たちの視線が気になって仕方がなかった。
「バレてる? 見抜かれてる?」頭の中でそんな疑念が渦巻く。
「おはよう、美咲ちゃん!」元気な声が耳に飛び込んできた。
姉の親友、真奈だ。彼女は僕にとっても顔見知りだが、今日は彼女の視線が怖い。
「お、おはよう…」できるだけ姉の声色を真似て返事をするが、どうしてもぎこちなくなってしまう。
「なんか元気ないね。昨日、あんなに話してたのに…もしかして、風邪でもひいた?」真奈は心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
彼女の目はまるで本物の姉を探るように鋭い。
「ううん、大丈夫。ただ…ちょっと眠いだけ。」そう言って、何とか笑顔を作る。
「そう?でも、あまり無理しないでね。」そう言いながらも、真奈の目はどこか疑わしげだった。
彼女には何か違和感を感じ取られたかもしれない。
教室に入ると、いつもの席に座るが、周りの視線が気になって仕方がなかった。
ノートを広げて、何とか普通を装うが、手は震えている。
教科書の文字が頭に入らない。
周りの生徒たちが僕をどう思っているのか、そのことばかりが頭を占めている。
授業が始まると、さらに緊張が高まった。
先生の質問に答えなければならない瞬間が来た時、姉の知識で答えられるのか、そして声のトーンを間違えずに話せるのか、そんなことが頭を過ぎる。
昼休みになると、真奈が再び僕の元にやって来た。
彼女はニコニコしながらも、その目には何か疑問を抱えているような表情が見え隠れしていた。
「ねえ、昨日の話、覚えてる?」彼女は小さな声で問いかける。
その質問に、僕の心臓はまたもや跳ね上がった。
「昨日の話…?」僕は必死に思い出そうとするが、もちろん姉が昨日何を話したのかなんて知る由もない。
「もしかして、本当に風邪かな? あんなに盛り上がってたのに、すっかり忘れちゃってるなんて…」
「ご、ごめんね。なんかぼーっとしちゃってて…」曖昧な答えを返すしかなかった。
その後も、彼女との会話はまるで試験のように感じた。
何か言葉を間違えれば、すぐにでも正体がバレてしまうのではないかという恐怖が、僕の中に渦巻いていた。
放課後、ようやく学校から解放される時が来た。
朝とは違う意味で心臓がドキドキしている。
無事に一日を乗り切れたことに安堵しつつも、明日からどうするのか、そんな不安が再び頭をもたげた。
家に帰ると、姉が待っていた。彼女はニヤニヤしながら僕の顔を見つめていた。
「どうだった? 一日中、私の代わりに過ごす気分は?」彼女のその言葉に、僕は少し怒りを感じた。
「二度とこんなことはごめんだよ!」そう言いながらも、どこかホッとした自分がいた。
姉の頼みを聞いたのは今回限りで済ませたいと思いつつも、もし次があったら…その時はどうするか、僕はまだ答えを見つけられないでいた。
これも、薄い本で見たことがあったネタを少し借りてますが
姉の代わりに学校に行った弟は、自分の学校どうするんでしょうか?
というか親が流石に気付くんじゃないか?と。
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