新宿の雑踏は、今日も変わらず人々のエネルギーで満ち溢れていた。
その喧騒の中を、広告代理店に勤めるしがないサラリーマン、山田太郎は足早に通り過ぎていく。
彼はごく普通の三十代半ばの男性で、特に目立った特徴もなく、良く言えば「堅実」、悪く言えば「地味」な人生を送っていた。
今日も仕事の疲れを引きずり、早く家に帰って缶ビールをプシュッと開けることだけを考えていた。
その時だった。彼の視界の端に、まるでこの雑踏とは別の次元から現れたかのような、鮮烈な「色」が飛び込んできた。
彼は思わず足を止め、視線を向けた。
そこに立っていたのは、真紅のチャイナドレスに身を包んだ、息をのむほど美しい女性だった。
東洋的な切れ長の瞳はミステリアスな輝きを放ち、艶やかな黒髪は風になびくたびに異国の香りを運んでくるかのようだった。
彼女は、手にした扇子をゆっくりと動かしながら、通りの人々に向けて、優しい笑顔を振りまいている。
太郎は、まるで映画のワンシーンを切り取ったかのように、その女性から目を離すことができなかった。
彼女の傍らには、「薬膳茶と運命の漢方薬 麗華堂」と書かれた、どこか怪しげだが目を引く看板が立てられている。
太郎は普段ならこんな店には近づかない。
しかし、その女性の圧倒的な存在感に、彼の理性は完全に麻痺していた。
女性は、吸い寄せられるように立ち尽くす太郎に気づくと、ふわりと微笑みかけた。
その微笑みは、彼の心臓を直接掴まれたかのような衝撃を与えた
「あら、お客様。何かお悩みでいらっしゃいますか？」
流暢な日本語の中に、ほんのりとした異国のアクセントが混じる。
その声は、甘く、魅惑的で、太郎の心をさらにかき乱した。
「い、いえ、別に…」
太郎はしどろもどろになりながらも、彼女の魅力から逃れることができない。
「ふふ、そんなことはございませんわ。わたくしには、お客様のお顔に、深い『迷い』が見て取れます。」
麗華と名乗るその女性は、太郎の手をそっと取り、その手のひらを優しく撫でた。
ひんやりとした指先が、太郎の火照った肌に心地よい。
「お客様の運命は、今、まさに転換期にございます。わたくしの薬膳茶は、お客様の心と体を癒し、そして、この『運命の漢方薬』は、お客様の人生を、全く新しい方向へと導くでしょう。」
彼女の瞳は、吸い込まれるような深さで太郎を見つめていた。
まるで、彼の心の奥底まで見透かされているかのような錯覚に陥る。
「さあ、こちらへ。店の中で、ゆっくりお話ししましょう。」
麗華は、しなやかな指で店の奥へと誘った。
太郎は、まるで夢遊病者のように、彼女の後について店の中へと足を踏み入れた。
彼の人生が、この瞬間から大きく変わるとは、この時の太郎は知る由もなかった。
店の中は、外の喧騒が嘘のように静かで、白檀のような独特の香りが漂っていた。
壁には中国風の絵画が飾られ、棚には色とりどりの薬草や瓶が並んでいる。
麗華は、太郎を奥の席に案内すると、自身は奥の部屋へと消えていった。
太郎は、どこか現実感のない空間に、ぼんやりと座っていた。
すると、麗華が優雅な足取りで戻ってきた。
手には、湯気の立つ美しい茶器と、小さな小瓶を持っている。
彼女は再び太郎の前に座ると、にっこりと微笑んだ。
「まずは、心を落ち着かせる薬膳茶をどうぞ。そして…こちらが、お客様の『運命の漢方薬』です。」
麗華は、小瓶を太郎の前に置いた。
中には、黒くて小さな粒がいくつか入っている。
何の薬なのか、どんな効果があるのか、太郎には全く想像がつかない。
しかし、麗華の神秘的な魅力に引き込まれた太郎は、疑うこともなくその小瓶を手に取った。
「これは…何を、どうすれば？」
「この薬は、ただ飲むだけではございません。お客様が、最も強く『変わりたい』と願った時に、その願いを込めて飲むのです。」
麗華の言葉は、まるで魔法の呪文のようだった。
太郎は、日々の生活で感じていた漠然とした不満や、もっと刺激的な人生を送りたいという願望が、一気に心の中で膨れ上がるのを感じた。
「変わりたい…俺は、もっと…」
彼の心の中で、具体的なイメージはなくても、とにかく今の自分ではない「何か」になりたいという強い衝動が渦巻いていた。
麗華は、その様子を満足そうに見ていた。
「さあ、どうぞ。今が、その時です。」
彼女の促しに、太郎は迷わず小瓶の蓋を開け、中の粒を手のひらに出した。
そして、薬膳茶でそれを一気に飲み込んだ。
苦味やえぐみはほとんどなく、するりと喉を通っていく。
薬が体の中に入っていく感覚はなかったが、なぜか体がじんわりと温かくなるのを感じた。
そして、不思議な倦怠感が襲ってきた。
「あら、もう効果が…さすがですわ。」
麗華が意味深な笑みを浮かべるのを最後に、太郎の意識はゆっくりと闇の中へと沈んでいった。
なんか、昔の推理小説とかだと中国人って出せないらしいですね。
東洋の神秘とかで不可能を可能にしてしまうので
推理が成り立たなくなるそうで。
フィクションのお話を書くときは、ネタにしやすいです。
中国の情勢はどうなんですかね？
個人単位だと全員が悪い人だとは思っていませんが
国となると。。。あんまし悪口は書けないな。。。
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