春の終わり、桜の花が散り、夜風がほんのり涼しさを運ぶ頃。
神社の裏手にある古びた邸宅では、毎年のように着物を纏った人々が集う小さな宴が開かれていた。
その宴の中に、一際目を引く女性がいた。
淡い桃色の着物に鮮やかな花柄を散らし、妖艶な笑みを浮かべる女性。
年齢は四十を超えているだろうが、その美貌は並の若者を凌ぐほどだった。
彼女の名は 桜子。
裕福な旧家の未亡人として知られており、財産も権力も手にしていたが、世間からは”謎めいた女”と囁かれていた。
その夜、桜子は、ひとりの若い男をじっと見つめていた。
端正な顔立ちに引き締まった身体、着物姿でも隠しきれない若さと活力に満ちた青年―― 翔太 だった。
「なんだか、視線を感じるな……」
翔太は何気なく辺りを見回す。
視線の主と目が合った瞬間、彼は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
桜子の目はただの好奇心ではなく、何か得体の知れない”欲望”を秘めているように見えたのだ。
桜子はゆっくりと微笑み、翔太に手招きをする。
「ふふ……いらっしゃいな。お話でもしましょう」
抗いがたい力に導かれるように、翔太は桜子のもとへ歩み寄った。
「あなた、名前は?」
「翔太です」
桜子はゆっくりと盃に酒を注ぎ、翔太に勧めた。
その手は滑らかで、白く美しい。しかし、どこか冷たい。
「お若いのに着物がよく似合うわねぇ……。さぞかし女の子にモテるんでしょう?」
「あ、はは……どうですかね。まぁ、普通ですよ」
気さくに笑う翔太だったが、桜子の視線は決して逸れることなく、じっと彼を観察していた。
「ねぇ、翔太君。あなた、自由って何だと思う?」
「自由……?」
「そう。あなたのその若い身体なら、どんな夢だって叶うわ。力も、愛も、富も――」
「……なんですか、それ」
冗談めかして笑おうとしたが、桜子の目は真剣だった。
そして彼女は囁く。
「――私と、身体を取り替えない?」
「えっ?」
「私のお金と、あなたの人生。合わせるとどれだけ幸せか、試してみるのも面白いと思わない?」
冗談だと思いたかった。
だが、桜子の瞳には冗談など微塵もなかった。
「は、はは……冗談ですよね? そんなこと、できるわけ――」
言い終わる前に、桜子は手をかざし、何かを呟いた。
その瞬間、翔太の意識は暗転した。
「ん……?」
翔太はゆっくりと目を開けた。障子から差し込む朝の光が眩しい。
しかし、どこか様子がおかしい。
「あれ……?」
起き上がろうとした瞬間、異変に気付いた。
自分の手ではない。
細くて白く、妙に滑らかな手。そして――胸元の重み。
「なんだ……これ?」
慌てて鏡を探し、部屋の隅に置かれた古い姿見に映った姿を見た瞬間、翔太は絶句した。
「……う、嘘だろ……」
鏡に映っていたのは、桜子――昨夜の女性そのものだった。
声も、顔も、身体も、完全に彼女になっている。
「なんで、こんなこと……っ!」
彼は叫ぼうとしたが、かすれた女の声しか出ない。
慌てて立ち上がるも、足元がふらつき、まともに歩けない。
桜子の身体は美しいが、若い男の身体とは違い、重心も感覚も全く異なるのだ。
その時、部屋の外から若い男の声が聞こえてきた。
「おはよう、桜子さん」
翔太――いや、桜子になった男は戸を開け、鏡越しに自分の本来の身体を見下ろして微笑んだ。
「よく眠れたかしら、翔太君?」
「おいっ! 俺の身体を返せ!」
「落ち着きなさいな、桜子――いえ、翔太君」
彼――桜子の魂が入った翔太の身体は、にやりと笑った。
「あなたの若い身体、素晴らしいわねぇ。力も湧いてくるし、何より自由だわ」
「ふざけるな! こんなこと、許されると思うなよ!」
「ふふ……私はね、ずっとこの日を待っていたの。莫大な資産を手にしながらも、この老いた身体では自由に生きることができなかった。けれど――」
翔太は、自分の身体を持った桜子が愉快そうに拳を握りしめるのを見て、言葉を失った。
「これで、好き放題に生きられるわ」
「お前っ……」
桜子――翔太の姿は笑いながら言う。
「あなたは、私の身体でひっそりと生きるしかないのよ。この着物がよく似合う、年増の未亡人としてね」
翔太は怒りと絶望に打ち震えながら、桜子の身体の感覚に馴染めないまま立ち尽くすしかなかった。
それから数日が過ぎた。
桜子になった翔太は、まともに歩くこともできず、着物の帯に苦しみ、世間からは「桜子夫人」として扱われる日々を送ることになった。
一方で、翔太の身体を手に入れた桜子は、隠していた資産を使い、若い男として贅沢な生活を満喫していた。
完全に歳取った身体だけ押し付けられてますね。
歳を取ることは悪いことではないと思いますが、それは経験や知識が付随するからで
歳だけ取ってもしょうがないんですよね。
年末年始にお参りに行くと、多分着物の人もたくさんいますが
こんな人に捕まらないように注意してください。
逆に年寄りなら若返るチャンスかも?財産は盗られそうですが。。。
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