
「やっぱり、こういうのは…変かな?」
純白のドレスを着て、恥ずかしそうに鏡の前で身じろぎするユウは、どう見ても“本物の花嫁”だった。
柔らかく巻かれた茶髪のウィッグに、大きなリボンとレースのヴェール。
華奢な首元を彩るのは繊細なチョーカーネックレスで、胸元には大胆にフリルがあしらわれている。
そんな彼の隣で、黒いタキシードをばっちり着こなしたレイは腕を組み、うっすらと笑った。
「ぜんっぜん変じゃない。むしろ、完璧すぎて惚れ直しそう。」
「や、やめてよ……っ!」
顔を赤らめて俯くユウを見て、カメラマンの杏子は思わず頬を押さえた。
「……なにこれ、最高じゃん……」
きっかけは、大学の映像制作ゼミでの「ジェンダー表現」をテーマにした課題だった。
ユウとレイは同じ班で、いつもは軽口を叩き合うだけの仲だったが、今回の課題を機に、急速に距離を縮めていた。
「男女逆転の結婚式とかどう?」
と提案したのはレイだった。
「ユウなら、絶対似合うし。私もちょっと、やってみたいし」
レイは普段からボーイッシュな服装を好む女子で、身長も高く、整った顔立ちに加え、スーツ姿が妙にサマになる。
「えぇ!? お、俺が女役!?」
「正確には“女装花嫁”役。いけるっしょ?」
「…………い、一日だけなら……」
それが始まりだった。
撮影当日。
杏子はメイク担当兼カメラマンとして呼ばれ、レイの部屋にセットを組んだ。
ユウはレイの用意したドレスと下着を前に、顔を真っ赤にしていた。
「えっ、これ全部……着るの?」
「当たり前でしょ。手伝うから」
「いや、でも……」
躊躇うユウの背中に、レイが優しく手を添える。
「私だってスーツ着るんだから。ユウもちゃんと“花嫁”になってくれなきゃ」
それでも恥ずかしがって固まっているユウに、杏子が口を挟んだ。
「いいじゃん、ユウくん。私、女装男子見るのめっちゃ好きだし」
「そんなの理由になってないから!!」
着替えが終わり、メイクに入る。
「目、閉じて。ちょっとまつ毛、上げるよ」
杏子の手がそっとまぶたに触れ、ビューラーが軽くまつ毛を引き上げる。
「……緊張してる?」
「そりゃするよ、こんなの……」
でも、鏡に映る自分の顔が、どんどん“花嫁”らしくなっていくのを見るのは、くすぐったいような、不思議な気持ちだった。
レイも横でメイクされながら、ちらちらとユウを見ていた。
「……ユウ、めっちゃ綺麗」
「見ないでってば……っ」
杏子はニヤニヤしながらカメラを手に取る。
「よーし、撮るよー!はい、こっち見てー!」
撮影は本格的に開始された。
レイは祭壇の前で、タキシード姿でキリッと立っている。
杏子が小さなスピーカーから結婚行進曲を流し始めた。
ユウは白いブーケを抱きしめながら、カメラに見守られつつヴァージンロードを歩く。
「……うわ、本当に歩くのか……これ、緊張する……」
ドレスの裾を軽く持ち上げながら歩みを進めるユウの腕には、男女逆転した“両親”がいた。
左手にいるのは父親役——つまり母親役のタカシで、普段は体育会系の男友達が今日だけはロングドレスを着て、ばっちり巻き髪ウィッグとハイヒールを履いていた。
「……ユウ、まっすぐ前見てなさいよ、母さんがついてるから」
「ちょ、タカシ! キャラ作りすぎ!」
「今日は“母親”なの。はい、堂々と歩く!」
右手には母親役——つまり父親役のミホが、肩幅を強調するスーツとガチガチに固めたショートウィッグ姿で腕を組んでいる。
「我が息子よ、立派に成長したな」
「なんでそっちは時代劇風なんだよ……!」
ふたりの“親”に挟まれて、ユウは緊張と照れ笑いを浮かべながらも、しっかりとヴァージンロードを歩いた。
祭壇の前で待っていたレイは、笑いをこらえながらも、どこか誇らしげだった。
「それでは、誓いのキスの準備を〜!」
杏子が半分冗談交じりに言うと、二人は顔を見合わせ、真っ赤になった。
「す、するの? 振りだけ?」
「振り、ってことにしとこ?」
顔を近づける。
視線が絡まり、ドキドキが止まらない。
ほんの数センチの距離まで迫ったとき——
「……はいストップー!ごちそうさまです!!」
杏子がシャッターを切りながら叫んだ。
「もうちょっとで誓っちゃうところだったじゃん!」
「杏子!! 変なとこ撮らないで!」
その日の夜。
ゼミのメンバー数人が集まり、披露宴風のパーティーが開かれた。
ドレスコードは“男女逆転”。
つまり、男子は全員ドレス姿で、女子はスーツやタキシードを着用しての参加だ。
「……これ、階段どうやって登るの……」
ヒロトはレースのドレスにパンプスを履き、苦労しながら教室の壇上に登る。
「スーツって思ったより窮屈……てか、ネクタイってこうやって結ぶのか……」
女子たちも慣れない装いに四苦八苦しつつ、なんとか披露宴セットの教室に集合。
会場には手作りのケーキやスナックが並び、BGMには定番の結婚ソングが流れる。
杏子がマイクを持って司会を始める。
「それでは、逆転カップルのおふたりに入場していただきましょう!花嫁役ユウくん、花婿役レイちゃん、どうぞ〜!」
二人は再び手を取り合い、笑顔で入場した。
ゼミ仲間たちから「おぉ〜!」と歓声があがる。
「それではおふたり、ケーキ入刀の儀を!」
二人は照れながら、ケーキにナイフを入れる。
その後は、乾杯、ファーストバイト(もちろん逆でレイがケーキを食べさせられる)など、お約束のイベントが続く。
「これ……一日で終わるのもったいないよね」
「うん。こんな楽しいの、初めてかも」
皆が男女逆転スタイルで笑い合う中、ユウとレイの目には、確かに“新しい自分”が見えていた。
その後、二人は「女装男子×男装女子」カップルとして、大学内でもちょっとした有名人になった。
服を交換するだけでなく、お互いのメイクをしあったり、SNSに写真を上げたり。
杏子は「次は動画も撮ろう!」と張り切り、学園祭での発表も決定した。
それは「ただの撮影」から始まった、小さな革命だった。
そして、二人の“逆転した”恋は、これからも続いていく——。

最近はほぼ男女入れ替わりだったので
そろそろ女装ネタで上げてみました。
でもウェディングドレスネタは2本になっちゃった。
私は流石に写真撮っただけで、ヴァージンロードは歩いていないな。
隣にタキシードの女子もおらず、ソロで撮影です♪
後日談
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