おじさんの体を熟女化していく女性
「……う、ううん……」
頭を割るような鈍痛とともに、悠人は目を覚ました。
昨夜の記憶は断片的だ。プロジェクトの打ち上げ。
酒。そして、階段の踊り場で、スマホを弄りながらフラフラと歩いていた新人女子社員の美咲と激突した衝撃。
「……飲みすぎたか……。腰が痛ぇな……」
呻きながら、悠人は身体を起こそうとした。
しかし、その瞬間に違和感に襲われる。
いつもならズシリと重いはずの身体が、驚くほど軽い。
それ以上に、視界が高い……いや、低いのか?
這い出すようにして辿り着いた洗面所。
その鏡に映っていたものを見て、悠人の喉から、聞いたこともないような甲高い悲鳴が漏れた。
「え……嘘、だろ……?」
鏡の中にいたのは、自分ではない。
寝癖のついたセミロングの髪、陶器のように白い肌、そして、昨日まで「最近の若手は……」と苦々しく思っていた、あの美咲の顔だった。
パニックになりながら自分の身体――今は美咲の身体――を触る。
細い指、膨らみ始めた胸、柔らかな曲線。
「俺が……美咲に? なんで、どうして……!」
その時、足元に転がっていたスマホが震えた。
表示されている名前は「悠人(自分自身)」。
震える指で通話ボタンを押すと、受話器の向こうから、聞き慣れたはずの自分の「低くて少し枯れた声」が聞こえてきた。
『……ふふ、あはははは! 凄ぉい! 本当に代わっちゃってる!』
声の主は、間違いなく美咲だった。
しかし、その口調はいつもの投げやりな態度ではなく、狂喜に満ちている。
「美咲……ちゃん、なのか? お前、俺の身体で何を……」
『何をって、決まってるじゃない。悠人さん、あなたのこの身体、最高に“素材”がいいわよ。ちょっとお腹は出てるけど、肩幅はあるし、何より顔立ちが整ってる。しっかり手入れすれば、私好みの最高の人形になれそう』
「人……形……?」
悠人は戦慄した。
美咲が自分の身体を心配している様子は微塵もない。
それどころか、おもちゃを手に入れた子供のような残酷な無邪気さが電話越しに伝わってくる。
『悠人さん、聞いて。あなたの部屋、見たけど……最低ね。スキンケア用品一つないし、枕カバーはオヤジ臭いし。でも安心して。今日から私が、この肉体を徹底的に“管理”してあげるから』
「ふざけるな! 今すぐ戻る方法を考えろ! 俺は今日、大事な会議が……」
『会議? そんなの、適当に腹痛で休ませたわよ。それより大変なのは、あなたのこの不潔な肌よ。今、全力で毛穴の掃除をしてるんだから、邪魔しないで』
美咲は、悠人の身体を「自分自身」として扱う気などさらさらないようだった。
彼女にとって、悠人の肉体は、自らの趣味を投影するための「器」に過ぎないのだ。
「……返せ。俺の身体を、返せ……!」
『やだ。だって、そっちの身体も楽しいでしょ? 若くて、綺麗で、男の人たちが勝手にチヤホヤしてくれる。悠人さんはそっちで、私の代わりに“女の子”を演じてればいいのよ。あ、でも美咲の身体で変なことしないでね。私、その身体に飽きたら、また戻るかもしれないし』
一方的な宣言と共に、電話は切れた。
悠人は、美咲の細い指を震わせながら、鏡の中の自分を見つめ返した。
美咲の身体は、悠人の不摂生な生活のせいで少しクマが浮き、肌も荒れ始めていた。
彼女が自分の身体を「自堕落」に扱ってきたツケが、今、悠人の中に重くのしかかっている。
「これから……どうなるんだ……」
悠人の絶望を他所に、窓の外からは朝の眩しい光が差し込んでいた。
悠人の肉体の中で、美咲という悪魔が、その「素材」をどう料理しようかと舌なめずりしているのも知らずに。
入れ替わりから三日が過ぎた。
悠人のマンションの洗面所では、美咲(中身)が鼻歌を歌いながら、悠人の「かつての身体」を鏡の前で検分していた。
「……よし。まずはこの、不潔な無精髭と剛毛をなんとかしなきゃね」
美咲の手には、ドラッグストアで買い込んだ強力な除毛クリームと、高価な家庭用脱毛器が握られている。
彼女は悠人の給料で、まず真っ先に自分の「器」を磨き上げることに決めたのだ。
「うわ……脚の毛も濃い。これじゃあストッキングなんて夢のまた夢じゃない」
迷いなくクリームを塗りたくり、数分後。
ヘラで一気にこそぎ落とすと、そこには悠人が見たこともないような、白く滑らかな「中年男性の肌」が現れた。
美咲はさらに、悠人が一生縁がないと思っていた高級フェイスパックをその顔に貼り付ける。
「悠人さん、感謝してよね。三ヶ月後には、抱きしめたくなるようなスベスベおじさんにしてあげるから」
鏡の中の悠人は、パックで真っ白な顔をしながら、美咲の冷徹な審美眼によって「改造」されるのを待つだけの、物言わぬ人形でしかなかった。
一方その頃、悠人(中身)は、美咲の身体でオフィスにいた。
一歩廊下を歩くだけで、周囲の空気が変わるのを肌で感じていた。
(……なんだ、この視線は)
すれ違う男性社員たちの目が、無意識に自分の胸元や、タイトスカートから伸びる脚を舐めるように動く。
悠人自身もかつて、無意識に女性社員に対してやっていたかもしれない視線。
それがこれほどまでに「暴力」として、肌を刺すような不快感を伴うものだとは知らなかった。
「おはよう、美咲ちゃん。今日も可愛いね」
係長の佐々木が、わざわざデスクまでやってきて肩に手を置いた。
悠人はゾッと背筋が凍るのを感じたが、同時にある考えが頭をよぎる。
(待てよ……今の俺は美咲なんだ。こいつ、美咲に下心があるのは明白だ)
悠人は、美咲の甘ったるい声を精一杯作り、小首を傾げて佐々木を見上げた。
「あ、佐々木係長……。実は、この資料のまとめ方が分からなくて……。係長にお願いできたら、私、すごく助かるんですけど……」
美咲の潤んだ瞳で見つめると、佐々木は鼻の下を伸ばし、二つ返事で引き受けた。
「いいよいいよ、僕がやっといてあげるから。美咲ちゃんはゆっくりコーヒーでも飲んでなよ」
(……チョロすぎる)
悠人は、美咲の細い唇で冷ややかな笑みを浮かべた。
本来なら自分がやるべき面倒な事務作業が、ただ「女の武器」を少し振るっただけで他人の手に渡っていく。
「視線の暴力」は不快だが、その代償として得られる「特権」は、社会人としてのプライドを容易に麻痺させるほど甘美だった。

私の職場は男性が多いので、多少は女性に甘くもなります。
でも、私の周りは私以上にしっかりしてますからね。
特に体力勝負なところもないので、男女差はあまり関係ないです。
そのうち抜かされそうで怖い。。。
というか上に立つ女性は何人もいます。。。


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