年始の静かな昼下がり。
悠真は久しぶりに祖父母の家を訪れていた。
広い座敷には、少し古びた家具や写真が並んでいる。
その中で、一際目を引いたのが紅い着物だった。
「悠真、この着物、覚えてる?」祖母の静香が懐かしそうに微笑む。
「うーん、見覚えないけど……綺麗だね。ばあさんが若い頃に着てたの?」
「そうよ。この着物にはね、少し不思議な話があるの。」
「不思議な話?」悠真が首を傾げると、静香はゆっくりと語り始めた。
「昔、この着物を手に取った人は、自分ではない誰かになったような気分になると言われているのよ。実際にそうなったって話もあったりしてね。」
「まさか。そんなの迷信でしょ。」
悠真は軽い気持ちでその着物を手に取った。
すると、不思議な温かさが指先から広がり、次の瞬間――。
鏡に映る自分の姿を見て、悠真は驚きのあまり声を失った。
そこには祖母の若い頃そっくりの女性が立っていたのだ。
「な、なんだこれ……!」
視線を下ろすと、艶やかな紅い着物が自分の体にぴったりと合っている。
肌の感触も、髪の長さも、自分のものとは全く違う。
「どうしたの、悠真?」背後から祖母の声がした。
振り向くと、そこには普段通りの祖母が立っている。
彼女は全く驚いた様子もなく微笑んでいた。
「えっと……ばあさん、これどうなってるの?」
「ふふっ、だから言ったでしょ。この着物には少し不思議な力があるって。」
悠真は混乱しながらも、祖母に導かれるまま居間に戻った。
しかし、動きや視界がいつもと違う。
柔らかな着物の袖や、長い髪が揺れるたびに現実感が薄れていくようだった。
その日の午後、祖母に頼まれた買い物のために外に出ることになった。
「これでスーパーに行ってきて。」
「いやいや、この姿で外に出るのは無理だよ!」
「大丈夫よ、誰も悠真だなんて気づかないわ。」
渋々ながらも悠真は祖母の若い頃の姿で外出することに。
商店街を歩いていると、周囲の視線が気になり落ち着かない。
「すごい美人だな……。」
「どこの人だろう?」
聞こえてくるささやき声に、悠真は頬が熱くなる。
自分が女性の姿をしていることを改めて実感し、戸惑いを隠せなかった。
買い物を終えて家に戻ると、祖母が微笑みながら迎えてくれた。
「どうだった?外の世界は。」
「……正直、変な気分だったよ。でも、なんだかみんな親切だった。」
「それはあなたが、私の若い頃の姿をしているからかもね。」
その夜、悠真は一日を振り返りながら祖母と話をしていた。
「ねぇ、ばあさん。この姿になって、少しだけばあさんの気持ちが分かった気がする。」
「それは良かったわ。この着物はね、ただの服じゃないの。自分と違う視点を持つきっかけをくれるものなの。」
「でも、なんでばあさんがこれを俺に?」
「あなたには、他人の立場を考える優しさがあると思ってたからよ。」
悠真は静香の言葉に深く頷いた。
悠真が着物を脱ぐと、元の自分の姿に戻っていた。
祖母は少し寂しそうに微笑みながら言った。
「また着物を手にしたくなったら、いつでも言ってね。」
「うん……ありがとう、ばあさん。」
この不思議な体験は、悠真の心に深く刻まれた。
祖母と自分のつながり、そして自分自身の新たな一面を知るきっかけとなったのだった。
祖父や祖母の若い頃なんて、写真でも見ないとわからないですよね。
私は色々あって見たことないですけど。
やっぱり父や母に似てるんですかね?
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