美咲は、華やかな衣装と柔らかなメイクで多くのファンを魅了する人気コスプレイヤーだ。
今日はファンとの撮影会が行われる日で、スタジオの雰囲気は彼女の登場を待ちわびる緊張感で満たされていた。
しかし、そんな中、美咲は深刻な表情で彼女の友人であり幼馴染でもある直人に電話をかけていた。
「ねえ、直人…ちょっと、助けてほしいことがあるんだけど」
直人は突然の電話に戸惑いながらも、彼女の声に緊張が含まれていることを感じ取った。「何かあったのか?」
美咲はため息をつきながら言った。「実は今日、撮影会があるんだけど、急に具合が悪くなっちゃって…。どうしても外せないイベントなのに、私が出られないとファンに失望させちゃうかもしれないの」
直人は心配そうに眉をひそめた。「でも、どうすればいいんだ?俺にはそんな…」
「いや、だからこそお願いしたいのよ」美咲は意を決したように言った。「直人、今日だけ私になってくれない?」
直人は驚きのあまり言葉を失った。「俺が…美咲になる?」
「そう、直人なら私のことよく知ってるし、身長や体型も似てるから、少し変装すればバレないかもしれないって思って…」
「いやいや、ちょっと待てよ!」直人は慌てて手を振った。「俺が女装なんてできるわけないし、第一、そんな大胆なことなんて…」
美咲は困ったように笑みを浮かべた。「お願い、今日だけでいいから…。どうしてもみんなをがっかりさせたくないの」
その一言に、直人は心を揺さぶられた。
彼女の真剣な思いが伝わり、断ることができなくなってしまった。
ずっと近くで見てきた幼馴染だからこそ、彼女がどれほどの努力を重ねてここまできたのかを知っている。
「分かったよ、美咲。俺、やってみる。でも…うまくいく自信はないぞ」
美咲の顔がぱっと明るくなった。「ありがとう、直人!絶対にうまくいくよ、私が手伝うから!」
直人は美咲の部屋に案内され、彼女が準備してくれたコスプレ衣装に目を見開いた。
目の前には、華やかな緑色のチャイナドレス、そして黒いタイツが丁寧に用意されている。
「これ…俺が着るのか?」
美咲はニヤリと笑ってうなずいた。「そうよ。それを着て、私の代わりに撮影会に出てもらうんだから、完璧に仕上げないとね!」
直人は苦笑しながらも、なんとか覚悟を決めて服に手を伸ばした。
衣装に袖を通すと、思った以上に柔らかくフィットする生地の感触が新鮮で、少し居心地が悪いと感じつつも興味が湧いた。
「なんか…思ってたよりも気持ち悪くないかも」
美咲は化粧道具を取り出し、微笑みながら彼に近づいた。「それはよかった。でも、まだまだこれからよ。メイクとウィッグも必要だから、じっとしててね」
直人は緊張しながらも彼女に従い、化粧を施されていく感触に不思議な感覚を覚えた。
口紅を塗られたときには少し顔が赤くなってしまったが、美咲は優しく励ましながら彼を仕上げていった。
直人は鏡の中に映る姿に息を呑んだ。
そこに映っているのは、まさしく「美咲」そのものだった。
華やかな緑のチャイナドレスに身を包み、艶やかな黒髪がウィッグで丁寧に整えられている。
自分の顔をベースにしているはずなのに、見慣れた面影はほとんど消え、まるでまったくの別人に見えた。
「どう?かなりイケてるでしょ?」美咲が嬉しそうに言った。
直人は複雑な表情を浮かべながら、鏡越しに美咲の顔を見た。「いや、正直、びっくりしてる…まさかここまで変わるなんて思わなかった」
「だから、プロのコスプレイヤーの腕を侮っちゃダメよ」と美咲は自信たっぷりに笑った。「大丈夫、誰も君だって気づかないわ」
直人は少し不安げに目を伏せたが、美咲の自信に背中を押されるように頷いた。「わかった、やってみるよ」
撮影会場に到着した直人は、周囲の視線にさらされると一気に緊張が高まった。
彼は深呼吸し、心の中で自分に言い聞かせた。「俺は今、美咲だ…誰にも気づかれるわけがない」
美咲が事前に説明してくれたポーズや表情を必死に思い出しながら、カメラの前に立つ。
ファンからの「美咲ちゃん、可愛い!」という声が飛び交い、彼は自然と笑顔を作った。
「ありがとうございます…今日は皆さんに楽しんでいただけるように頑張りますね」
その言葉が自分の口から出てくるのが不思議な感覚だった。
普段の彼とは全く異なる口調に、なんだかくすぐったいような気持ちになる。
「ちょっと恥ずかしいけど…こうやって皆が喜んでくれるのは、悪くないかも」と直人は心の中で呟いた。
ファンとの交流タイムに突入すると、直人はさらに緊張が増した。
美咲のファンたちはとても親しみやすく、「美咲ちゃん、今日もかわいい!」と褒めてくれたり、握手を求めたりと、熱烈な愛情を表現してくれた。
「ありがとう…本当に嬉しいわ」と、彼はできるだけ自然な笑顔で応えたが、その裏では冷や汗が止まらなかった。
しかし、しばらくすると少しずつ楽しさが勝ってきた。
ファンの声援やキラキラとした瞳に包まれることで、彼はまるで別の自分になったような気分になっていた。
「こうやって美咲は毎回、みんなを笑顔にしてきたんだな…」
撮影会が終わり、控室に戻った直人は、満ち足りた表情で息をついた。
美咲の代わりを務めるのは大変だったが、同時に大きな充実感も感じていた。そんな彼の姿を見て、美咲が微笑んだ。
「どうだった?初めてのコスプレ体験は」
直人は少し照れくさそうに頬をかいた。「最初は恥ずかしかったけど、みんなが喜んでくれると、なんか楽しくなってきてさ…こんな気持ちになるなんて思ってもみなかった」
美咲は優しくうなずいた。「でしょ?私がこの仕事を続けているのも、そうやってファンのみんなが喜んでくれるからなの。今日の君の姿を見て、ファンたちもきっと大満足だったと思うよ」
直人は少し照れながら、でも誇らしげに笑みを返した。「でも、これで美咲の大変さも少し分かった気がするよ。見た目だけじゃなくて、ちゃんとした『美咲』を演じるって、思った以上に大変だった」
「そう思ってくれるだけで、私は嬉しいよ」と美咲はほほえんだ。「それに、直人が代わりに出てくれたおかげで、私は無事に休むことができたしね」
その日の体験を通じて、直人は美咲に対する見方が少し変わった。
彼女がどれだけの努力を重ね、ファンとの絆を築いているのか、そしてその一瞬一瞬がどれほど大切なのかを理解したのだ。
「美咲、今日は本当にいい経験をさせてもらったよ。ありがとう」
「こちらこそ、助けてくれてありがとうね。これで私も安心して休めたよ」
互いに感謝を伝え合った後、美咲は小さく微笑んで言った。「また困ったことがあったら、お願いしてもいいかな?」
直人は冗談めかして笑いながら答えた。「まあ…たまになら、考えておくよ。でも次はもっとしっかり教えてくれよな」
こうして、美咲と直人は新たな約束を交わし、絆を深めたのだった。
いや、さすがにここまでのメイクは特殊メイクな気がします。
あと、声でばれますね。
頑張って女声だしても、本人とは違いますから。
声帯模写でも出来るんでしょうか?
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