
文化祭を二週間後に控えた高校二年の悠人(ゆうと)は、憂鬱な気分で帰り道を歩いていた。
「なんで俺が女装喫茶のリーダーなんだよ……」
小さなため息と共に、商店街の裏手にある古びた神社の前で立ち止まる。
夕暮れの陽射しが鳥居を赤く染めていた。
気まぐれに境内へと足を踏み入れた悠人は、ぽつりと祈るように呟いた。
「誰か代わってくれよ……女装なんかもうイヤだ……」
その声に応えるように、どこからか笑い声が聞こえた。
「……本当に、代わってもいいのかい?」
振り向くと、狐のお面をつけた少女が立っていた。
白い着物に金の飾り紐、足元には白足袋。
「な、なに? コスプレか?」
少女はくすくすと笑うと、面を外した。
透き通るような白い肌、金色の瞳。
そしてその笑顔は、どこか人間離れした神々しさを湛えていた。
「私は、ここの守り狐。名前は玉藻(たまも)。君の願い、聞こえたよ」
「……え、マジで神様?」
「うん。でも、代わってほしいと願っているのは君だけじゃない。あの子も、君のことを見ていた」
玉藻が指差した先には、悠人のクラスメイト・佐伯理緒(さえき りお)の姿があった。
彼女は成績優秀で美術部の副部長。
静かで物腰柔らかく、男子の中でも密かに人気がある。
「彼女……が?」
「そう。彼女の願いは『もっと自由になりたい』だった。そして君の姿が、その願いを叶える鍵になる」
「なにそれ……意味がわかんない……」
「じゃあ、試してみようか。二人の体、交換して」
「は? ちょっ、待てよ! 冗談だろ!?」
玉藻が手をかざすと、世界がぐにゃりと歪み、悠人の意識は暗転した。
目を開けると、見慣れない天井があった。
いや、それだけじゃない。
「え……!? な、なにこれ……!」
胸元に触れると、柔らかい感触。
鏡を見れば、そこには理緒の顔が映っていた。
——入れ替わってる!?
一方の理緒も、悠人の部屋で目を覚ましていた。
「ふふ……成功した」
彼女は鏡の前で自分の新しい姿を確かめる。
制服のズボン、無造作な短髪。
動かすたびに違和感があるものの、それが不思議と心地よかった。
「これで、誰にも何も言われずに、好きに生きられる……」
理緒には、ずっと隠していた思いがあった。
女性としての役割を押しつけられることへの違和感。
着たい服、やりたいこと、それがいつも制限される日々。
——でも、悠人くんなら。きっとこの姿でも、上手くやってくれる。
翌日、学校ではちぐはぐな二人が話題になった。
「理緒ちゃん、なんか今日……違くない?」
「悠人、急におしとやかに……」
誰も本当のことには気づかない。
放課後、二人は再び神社に集まった。
「おい、理緒……ってか、俺の体返せよ!」
理緒は困ったように笑う。
「ごめん。でも、少しだけ……このままでいたいの」
「ふざけんなよ! 俺、女子の制服とか、もう限界……!」
その時、玉藻が現れた。
「ふたりとも、どうする? もう一度戻すことも、できるけど……」
沈黙の中、理緒が言った。
「じゃあ、あと三日だけ。文化祭が終わったら、ちゃんと戻るから」
悠人はしぶしぶ頷いた。
「絶対だぞ……」
——そして、文化祭当日。
理緒(悠人の体)は、見事な着物姿で女装喫茶に立っていた。
はにかむ笑顔、立ち居振る舞い、そのすべてが自然だった。
「……流石に代わりくらいはこなさないとね……」
一方の悠人(理緒の体)は、校内のライブステージでギターを演奏していた。
——練習しといて良かった…
文化祭の夜、二人は神社で再会した。
「……楽しかった。けど、やっぱり元に戻らなきゃね」
玉藻は静かに頷いた。
「よく頑張ったね、ふたりとも」
再び手をかざし、光がふわりと舞う。
目を開けたとき、悠人は自分の体に戻っていた。
「……ああ、帰ってきた……」
隣には、元に戻った理緒がいた。
「ありがとう、悠人くん。あなたが私の姿で頑張ってくれたおかげで、少しだけ、自分を許せた気がする」
悠人は照れくさそうに笑った。
「まぁ……理緒の体でいろいろ経験したしな。悪くなかったよ」
空を見上げると、玉藻の姿はもうなかった。ただ、風がやさしく吹いていた。

普通女装喫茶なら、メイド服な気が。。。
いや、それが普通かは分かりませんが。。。
着物はなかなかないかも?割烹着とかかな?
まあ、着物は男性が着ても着心地に違和感ないし
女装のとっかかりにしても良いかも?
女性になってたら女装喫茶じゃなくなってるけどな。
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