古びた店の棚で見つけたその着物は、ひときわ目を引いた。
朱色を基調とした生地には、繊細な花模様が描かれ、金糸が光を反射して淡く輝いている。
古いものだが、まるで昨日仕立てられたかのように艶やかだ。
「綺麗だな……。」そう呟いた悠斗の耳に、店の奥から叔父の声が飛んできた。
「それに目を付けたか。曰く付きの着物だぞ。」
「曰く付き?」
「持ち主に不思議な出来事を起こすって話だ。興味があるなら持っていくか?」
曰く付きなど信じていなかったが、不思議な魅力に惹かれ、悠斗はその着物を借りることにした。
その夜、部屋で着物を広げて眺めていると、どうしても袖を通したくなった。
「男が着るものじゃないけど……まぁ、試しに。」悠斗は軽い気持ちで着物を身に纏った。
しかし、袖を通した瞬間、視界が暗転する。
耳をつんざくような風の音とともに、全身が吸い込まれるような感覚に襲われた。
気づけば、見知らぬ部屋に立っていた。
「ここ、どこだ?」和風の調度品に囲まれた空間。
障子の向こうには庭が広がり、遠くに見える建物はどれも古めかしい。
まるで時代劇の世界だ。
そして目の前の鏡を見て、悠斗は息を呑んだ。
「え……誰だこれ。」鏡に映っていたのは自分ではなく、長い黒髪を持つ若い女性だった。
細い指がその頬に触れる。間違いない、これは「自分の体」だ。
その時、頭の中に声が響いた。
「……ようやく誰か来てくれたのね。」
悠斗は驚きのあまり声を上げた。
「誰だ!? どこにいるんだ!」
「私の名は紗奈。この着物の持ち主よ。」
「紗奈……? じゃあ、今の俺はお前の体ってことか?」
「そう。あなたが着物を纏ったことで、私の時代へ引き寄せられたの。」
紗奈は江戸時代末期に生きた女性で、家柄に縛られた人生を送り、幼馴染の清次郎と結ばれることなくこの世を去ったという。
彼女の未練が着物に宿り、現代にまでその魂を縛り付けているのだ。
「お願い、私の代わりに清次郎様に会って、想いを伝えてほしいの。」
悠斗は紗奈としての生活を始めることになった。
最初はその立ち振る舞いに戸惑ったものの、紗奈の記憶が次第に頭に流れ込んでくるおかげで、ぎこちないながらも日々を過ごしていた。
ある日、紗奈の幼馴染である清次郎が屋敷を訪れた。
彼は紗奈に向かって真剣な眼差しでこう言った。
「紗奈、この着物を纏った君はまるで天女のようだ。僕は君を想う気持ちを抑えられない。」
悠斗の胸の奥で、紗奈の感情が溢れる。
紗奈としての言葉が自然と口をついて出た。「清次郎様……。」
その一言に込められた切ない想いが清次郎の心を揺さぶったのか、彼は決意を口にした。
「僕は君を連れ出す。家柄やしきたりなんて関係ない。君が望む未来を一緒に作ろう。」
紗奈の記憶と悠斗の理性が交錯する中、彼は紗奈として清次郎の手を取り、二人で新たな道を切り開こうとした。
だが、運命は非情だった。
追っ手に追い詰められた清次郎と紗奈(悠斗)は、最後の瞬間を迎える。
清次郎が悠斗を庇い、刀を握ったまま立ちふさがった。
「紗奈、僕が守る。君だけは……。」
「清次郎様! ダメだ!」
悠斗の叫びも虚しく、清次郎は倒れた。
その瞬間、悠斗は紗奈の体から抜け出し、現代へと戻される。
目が覚めた時、彼は自分の部屋にいた。手元にはあの着物が残されている。
それを見つめながら、彼は呟いた。「紗奈……君の想いは清次郎様に届いたよね。俺ができたのはそれだけだけど……。」
着物の中に紛れていた古びた手紙には、こう記されていた。
「ありがとう。私の代わりに愛を伝えてくれて。」
悠斗はその手紙をそっと胸に抱え、再び着物に袖を通すことはなかった。
着物ではあっても、昔の人がする格好ではないですね。
それとも傾奇者とかはこんな格好してたんでしょうか?
胸元開いてハイヒール履いてネックレスして。。。
流石にいないな。
ここまで短いと歩きやすさは問題なし。
あとは袖が何かを薙ぎ倒さないよう注意が必要です♪
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