「ちょっと、財布がない……?」驚きと焦りが一気に押し寄せる。
昨日使った覚えはあるし、ここに来るまでは確かに持っていたはずだ。
だが、今どこを探しても見つからない。
財布を探していた男性、圭一は、顔を真っ青にしてレジの前に立っていた。
彼が食事を終えたのは、小さな中華料理屋。
料理は美味しくて、気分良く食べ終わったのだが、まさか財布を忘れるとは思ってもみなかった。
「どうしましたか?」店員が不思議そうに首を傾げる。
レジの前でぐずぐずしている客は珍しい。
圭一は頭を下げ、申し訳なさそうに事情を話す。
「すみません、財布を家に忘れてしまったみたいで……。すぐに取りに帰ってきます!」
店員は少し困ったような顔をしながら、奥にいる店長に話しかけた。
やや険しい表情の店長が現れ、圭一をじっと見つめる。
「取りに帰るのもいいけど、保証はあるかい? 代わりに何か働いてくれるんなら許してあげるよ」
その提案に、圭一は思わず息をのんだ。「働く?」まさかこんな展開になるとは予想していなかったが、他に方法はない。
どうにかしてこの場を切り抜けなければならない。
「そ、そんなにお金はかからない料理だったし、何でもやりますから、お願いします!」
そう言いながら圭一は頭を下げた。
店長はニヤリと笑い、店の奥へと消えていく。
しばらくして戻ってきた店長が、圭一に差し出したのは、一着の黒いチャイナドレスだった。
「これを着て、店の前で呼び込みをしてくれ。それで勘弁してやるよ」
圭一はその要求に驚き、思わず言葉を失った。
しかし、どうすることもできない状況だ。
彼は、仕方なくそのチャイナドレスに袖を通した。
元々細身で華奢な体型の彼は、思いのほかドレスが似合ってしまっている。
さらに、店長が手早くメイクを施してくれたおかげで、鏡に映る自分の姿がまるで女性のように見えた。
「本当に大丈夫なのか……?」不安な気持ちを胸に抱えながらも、圭一は店の前に立ち、客の呼び込みを始めた。
「いらっしゃいませ! おいしい中華料理はいかがですか?」声は少し高めにして、できるだけ女性らしく見えるように工夫した。
すると、不思議なことに、通りすがりの人々は誰一人として彼が男だとは気づかない。
むしろ、次々と店に入ってくる客たちは、彼の姿を見て興味を持ったのか、店内はいつも以上に賑わっていた。
「信じられない……まさかこれが本当に効果的だとは」圭一は内心驚きつつも、次第に仕事に慣れていった。
人々の注目を浴びることは気恥ずかしかったが、思ったよりもスムーズに呼び込みの役割をこなしていった。
数時間後、店長が満足そうに微笑みながら彼に声をかけた。「よくやったな、今日のお客さんの数はいつもの倍だ。これでいいだろ?」
「は、はい! 本当に助かりました……!」圭一はようやく解放され、ドレスを脱ぎ、再び元の自分に戻った。
数日後、圭一は偶然にも再びその中華料理屋の近くを通りかかった。
気になって、店の様子を見に行くと、店の前には数人の客が集まり、何やら話しているのが聞こえた。
「この間、この店の前にすごく綺麗な女性がいたんだよ。チャイナドレスを着てて、思わず入っちゃったんだよね」
「え、マジで? そんな美人がいたの? 今度来たときも見られるかな?」
その話を聞いた瞬間、圭一は顔を真っ赤にしてその場を立ち去った。
まさか自分のことがまだ話題になっているとは思っていなかったのだ。
「まさかあの日の自分が、そんなに印象に残っていたなんて……」圭一は再び、自分がチャイナドレスを着て店の前に立っていた日のことを思い出し、少しの恥ずかしさと、不思議な達成感を感じていた。
それ以来、圭一はその店の前を通るたびに、少しだけ複雑な気持ちになるようになった。
噂は広がり続け、店も繁盛しているようだったが、もう二度と同じことを繰り返すつもりはなかった。
女性よりも綺麗とまでいくような人はなかなかいないと思いますが
背の高い女性くらいに自然に見える人はときどき見かけます。
そういう人って結構羨ましく見えますね。
声は訓練すれば女性の声を出すことは出来るみたいです。
なんか、地声のまま裏声を出すようなイメージで、喉仏を振動させないようにするのかな?
ちょっと練習してみましたが、飽き性なので5分で辞めましたw
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