
春のやわらかな日差しが、校門の前に立つひとりの少女を照らしていた。
彼女の名前は桜井美優。
中学三年生。
病弱な体質で、幼い頃から通院と投薬が日常だった。
副作用でふっくらとした体型になってしまい、自分に自信を持てないまま学校生活を送っていた。
そして今日も――
「お、桜井。今日も丸っこいな。転がったら止まらなそうだな」
背後から声をかけてきたのは、クラスメートの佐藤大地。
健康そのものの男子で、口は悪いが成績も運動も優秀。
けれど、美優にとっては毎日が地獄だった。
「……やめてよ……」
小さな声で言い返しても、彼は笑うばかり。
「いや、別に悪気はないって。褒め言葉だよ、ふわふわしてて癒やされるってさ」
「……っ」
美優は俯いてその場を離れた。
どうして自分ばかりがこんな目に遭うのか。
なぜ、普通の体で生まれなかったのか。
帰り道、公園のベンチで一人座っていると、背後から声がかかった。
「おやおや、どうしたの、そんな顔して」
振り返ると、少し年配の、どこか不思議な雰囲気を持つおばさんが立っていた。
どこかの民俗資料館にでもいそうな、変わった着物姿。
「……え? あ、なんでも……」
「なんでもない顔じゃないね。話してごらん。楽になるかもしれないよ」
その優しい声に、美優は堰を切ったように自分の悩みを語った。
病弱で、薬の副作用で太って、男子にからかわれて、自分が嫌いで――
おばさんはゆっくりと頷きながら話を聞き、最後にふふっと笑った。
「それなら、ちょっと面白い方法を試してみようかね。人生、見方を変えると面白いものだよ」
美優は意味が分からず、ただ曖昧に頷いた。
そして、次の日。
登校中、美優は再び大地と出くわす。
「よう、桜井。今日はさらに丸くなったんじゃね?」
「……やめてってば……」
そのとき――
「ちょっとごめんよ、ちょっとだけ」
昨日のおばさんが、突然現れた。
「えっ……!?」
「おや、君がその意地悪な男子かい?」
大地が眉をひそめた。
「な、誰だよ、ババア」
「ババアとは失礼な。まあ、いいや。さあ、ちょっとじっとしてな」
おばさんは懐から不思議な杖のようなものを取り出し、二人の間にかざした。
次の瞬間、世界がぐるりと回転するような感覚がして――
視界が一気に低くなり、足元が重くなった。
美優は、見下ろすと自分の丸い体が目の前に立っているのを見て、絶句した。
「え……これ……大地くん……?」
「は!? な、なんだよこれ、なんでお前の声が聞こえるんだよ!?」
二人はしばらく混乱したが、すぐに真実に気づく。
首から下が、完全に入れ替わってしまっていた。
おばさんはにっこり笑い、「ちょっとの間、このままでいなさい。きっと、見えるものが変わるからさ」と言い残し、姿を消した。
二人は慌てて近くの公衆トイレに駆け込み、服を交換することにした。
「おい、これマジかよ、無理だって……」
大地が自分の学ランをそのまま着ようとしたが――
「うぐっ……入らねぇ……! 腕がパツパツだし、ボタン閉まらねぇ……!」
ズボンもウエストが明らかにきつく、動くたびに布が悲鳴をあげていた。
一方、美優は大地の制服を脱ぎ、自分の女子制服に袖を通した。
「……うん、ちょっと胸のあたりが浮くけど、スカートのウエストはぴったり。ごまかせそう」
鏡を見ると、そこには健康的な男子の姿。
けれど、確かに自分の目が、そこにあった。
「……体が……軽い……息するのも楽……」
涙が出そうだった。
「なあ、早く戻してもらおうぜ。変なババアどこ行ったんだよ……」
大地は必死に周囲を探したが、おばさんの姿はどこにもない。
その夜、自宅に戻った美優は、男子の身体で過ごすために髪を結び直し、スカート姿で鏡の前に立った。
「……意外と、似合ってる……かも?」
翌日から、二人はそれぞれの体で学校生活を始めた。
美優(大地の体)は、自分の制服で女子として振る舞い続けた。
声は低くなったが、口数を減らし、表情や仕草で誤魔化すことで、何とか違和感を抑えていた。
「桜井、今日ちょっと雰囲気違うな? なんか……すっきりしてる?」
「う、うん。ちょっと……体調が良くなってきて」
そんな言い訳が通じるくらいには、見た目は自然だった。
一方、大地(美優の体)は男子として振る舞おうとしたが、体の重さに戸惑い、動くたびに汗をかき、息切れがひどかった。
「うわ……階段キツ……。なんだよこれ、普通のことがこんなに大変なのか……」
学ランはパツパツで、ボタンは上まで閉まらず、ズボンのファスナーは無理やり引き上げた状態。
「俺、こんなに……桜井をバカにしてたのか……」
クラスの男子に「最近太った?」と囁かれるたびに、心が折れそうになった。
美優は大地の体での生活に、戸惑いながらも前向きになっていた。
「……体が元気だと、気持ちも前向きになるんだね……」
時折、パンツの中がもぞもぞして困ることもあったが、彼女はそれをうまく隠していた。
そして、ある日、鏡に映る自分の姿を見ながら、大地(美優の体)は決意した。
「……俺、元の体に戻ったら、ちゃんと謝る。桜井に……いや、美優に。そんで……この体、ちゃんと痩せさせて、健康にして……返す」
そうして、大地は食生活の改善と適度な運動を始めた。
美優の体で、もう一度自分を、そして彼女を理解するために。

私も小さい頃は薬漬けになって、かなりむくんでました。
健康になった後も落ちなかったので、関係なかったかもですが。
健康って何より大事ですよね。
不健康な生活をしながらひしひしと感じます。
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