女装ギタリストの文化祭【女装、ギター】

高校生の拓也は、ギターを愛する普通の男子高校生だった。

彼の毎日は、授業が終わると音楽室に直行し、ギターをかき鳴らすことだった。

彼の指先は、自由に弦の上を滑り、心の中の感情が音となって響いていた。

クラスメートの誰もが彼のギターの腕前を知っていたが、彼を誘うバンドは一つもなかった。

みんな、彼が独りでギターを楽しんでいると思っていたのだ。

ある日、放課後の静かな音楽室に、拓也のギターの音が響いていた。

彼の演奏は、次第にエネルギーを帯び、音楽室の壁を震わせるようだった。

その音色に惹かれたのは、クラスメートの美咲だった。

美咲は、クラスの中心的存在であり、いくつもの活動をリードしてきた。

彼女は、文化祭でガールズバンドを結成しようと計画していたが、どうしてもギタリストが見つからなかった。

拓也の演奏を聞いた瞬間、彼しかいないと思った。

「拓也君、ちょっといい？」

美咲は、演奏を終えたばかりの拓也に声をかけた。

彼女の声に驚いた拓也は、ギターを持ったまま振り返った。「あ、美咲さん、何か用かな？」

美咲は微笑みながら、彼に近づいた。「実は、お願いがあるの。私たちのガールズバンドにギターを弾いてほしいんだけど、どうかな？」

「ガールズバンド？」拓也は、戸惑いの表情を浮かべた。「でも、俺は男だし…」

美咲は、少し顔を赤らめて言った。「そうなんだけど…それを気にしないでほしいの。ただ…拓也君には、女装してもらう必要があるんだ。」

「女装…？」拓也の心は一瞬止まり、その言葉が意味するところを理解するのに時間がかかった。「それって、冗談だよね？」

美咲は真剣な表情で首を振った。「冗談じゃないの。私たちのバンドはガールズバンドで、見た目が大事なの。でも、拓也君のギターがどうしても必要なの。」

その言葉を聞いて、拓也の心の中で葛藤が始まった。

彼は音楽を愛していたが、女装するというアイデアには抵抗を感じていた。

しかし、美咲の真剣な目を見ていると、どうしても断りきれなかった。

「…わかった。やってみるよ。」拓也は、しぶしぶながらも了承した。

美咲の顔は一瞬にして明るくなった。「ありがとう、拓也君！絶対に後悔させないから。」

次の日、美咲は彼に学校の制服を持ってきた。

それは、彼女自身が中学時代に着ていた制服で、彼のサイズにぴったりだった。

拓也は鏡の前で制服を試着し、自分の姿を見つめた。

彼は、自分がどう見えるかを気にしながら、スカートの裾を整え、ウィッグを被った。

「…これでいいのかな？」拓也は、少し恥ずかしそうに言った。

美咲は彼の姿を見て、満足そうにうなずいた。「完璧よ、拓也君。これなら誰も疑わないわ。」

練習が始まると、拓也は次第にその恥ずかしさを忘れていった。

ギターを手に取ると、彼は再び音楽に没頭することができた。

バンドメンバーも、彼の技術に感嘆し、次第に一体感が生まれていった。

ある日の練習後、美咲は拓也に話しかけた。「拓也君、本当にありがとう。あなたのおかげで、バンドが完成したわ。」

拓也は微笑んで返事をした。「俺も楽しいよ。みんなと一緒に演奏できて、最高だ。」

だが、その言葉の裏には、彼の心の中に芽生えた違和感があった。彼は自分自身に問いかけるようになった。「俺は、このままでいいのだろうか？」

文化祭が近づくにつれ、緊張感は増していった。

拓也は、次第に女装に慣れていく自分に驚いていた。同時に、音楽への情熱もますます高まっていった。

ついに文化祭当日がやってきた。

ステージに立った拓也は、観客の視線を一身に浴びながら、ギターを構えた。

バンドの演奏が始まると、彼は完全に音楽の世界に入り込み、周囲のことを忘れていた。

観客は大歓声を上げ、その反応に胸を熱くした。

演奏が終わると、観客からの拍手が鳴り止まなかった。

拓也は、バンドメンバーたちと一緒にステージから降りた後、深い達成感を感じていた。

「すごかったよ、拓也君！」美咲は、彼に近づいて喜びを爆発させた。「あなたのおかげで、大成功だったわ！」

拓也は微笑んだが、その笑顔の中には複雑な感情が混じっていた。「ありがとう、美咲。でも、俺が本当に女の子だったら…どう思う？」

美咲は一瞬驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。「拓也君は、拓也君よ。性別なんて関係ないわ。あなたのギターが、私たちにとって一番大事なことなんだから。」

その言葉に、拓也は心が少し軽くなるのを感じた。

彼は再びギターを手に取り、その感触を確かめた。

彼の心の中には、音楽への新たな情熱が生まれていた。

それからの日々、拓也はギターを弾くたびに、文化祭のステージで感じた興奮を思い出した。

彼は、ガールズバンドでの経験が自分にとって特別なものだったことを確信していた。

そして、その経験を通じて、彼は自分自身と向き合い、新たな一歩を踏み出す勇気を得たのだった。