「永遠鏡の前に立った私は、幼い頃に感じたあの高揚感を思い出していた。
ふわふわのドレス、レースのリボン、そしてヘッドドレス。
全てが完璧で、まるで過去にタイムスリップしたかのように感じられる。
「もう30歳なのに、こんな格好……普通じゃないよね?」
自分自身に問いかけるが、答えはわかっている。
それでも、やめられない。
ロリータファッションは、私の中で特別な存在だった。
子供の頃から憧れていたロリータの世界。
その頃、私には勇気がなくて手を出せなかったけれど、大人になった今、その憧れを形にすることができるようになった。
ドレスの裾を軽く持ち上げ、ゆっくりと一歩前に進んだ。
ふわりと広がるスカートが、まるで空気に溶け込むように柔らかく揺れる。
私は、その瞬間だけでも、自分が特別な存在であると感じられるのだ。
「お母さん、どうしていつもそんな服を着てるの?」
ふと、娘の声が頭の中に響いた。
その質問は、数ヶ月前に聞かれたものだ。
娘がロリータファッションに興味を持ち始め、私に対してそう問いかけたのだ。
「私が子供の頃、着たいと思ってた服なんだよ。」
そう答えた私の声は、少し震えていた。
あの頃は、家庭の事情や周囲の目が気になって、ロリータなんて夢のまた夢だった。
自分の思いを抑え込んで、普通の服を着続けていた。
「お母さんも着てみたら?」
娘の無邪気な言葉に背中を押される形で、久しぶりにロリータドレスを取り出した。
それが始まりだった。
「これでいいんだよ、私にはこれが必要なの。」
鏡の前で自分に言い聞かせる。
確かに、周りの目を気にしすぎることもある。
でも、このファッションを通じて、私は自分自身を表現しているのだ。
年齢なんて関係ない。自分が何を着たいか、それが重要だ。
「ねえ、どう思う?」
家に遊びに来た親友の沙織に問いかけると、彼女は少し驚いた表情を見せた。
「うーん、相変わらずすごい格好ね。でも、あなたらしいって思うよ。」
「そうかな?」
「うん。いつも自分を抑えてたけど、この服を着るときのあなたは本当に楽しそう。昔のあなたを思い出すわ。」
沙織は微笑みながら、私のドレスのレースを指で軽くなぞった。彼女とは長い付き合いで、お互いのことをよく理解している。
「ありがとう、沙織。あなたがいてくれてよかった。」
沙織の言葉に心が軽くなり、再び自分を肯定することができた。
それでも、時折心の中で葛藤する自分がいる。
年齢に対する不安、周囲からの目線、そして「大人らしさ」という社会的な期待。
そのすべてが、私をロリータファッションから引き離そうとする。
「大人になったら、こんな夢みたいなことはできないんじゃないか?」
いつも頭の片隅にその疑念が浮かぶ。
それでも、私の心の中にある「自分らしさ」を手放すことはできない。
ドレスを着ることで、私はただの「大人」ではなく、特別な存在になれる。
子供の頃からずっと夢見ていた、あのキラキラとした世界に足を踏み入れることができるのだ。
「自分のために生きる、それでいいんだよ。」
そう自分に言い聞かせるたび、少しずつ不安が消えていく。
「お母さん、今日はどんなドレス着てるの?」
その声に振り返ると、娘が楽しそうに私を見ていた。
彼女もまた、少しずつロリータファッションに興味を持ち始めていたのだ。
「今日は、春らしい柄のドレスを着てみたよ。どう?似合うかな?」
「うん!すごくかわいいよ!私も大きくなったら、こんな服着たいな。」
娘の笑顔に、私は少し涙ぐみそうになった。
自分が夢見ていたものを、次の世代へと伝えることができる喜びがそこにあった。
「もちろん、一緒に着ようね。」
そう約束して、私たちは一緒にドレスを選んだ。
まるで夢のような瞬間が、現実になっていた。
夕方の光が差し込む部屋で、私は再び鏡の前に立った。
今日もまた、ロリータドレスを身にまとい、心が満たされていくのを感じている。
年齢や周囲の目を気にすることなく、自分らしさを大切に生きること。
それが私にとっての幸せなのだ。
「ロリータファッションは、永遠に私の一部なんだ。」
そう心の中で呟き、私は微笑んだ。
実際、こういう服を着るときって自分の年齢とか考えちゃいますね。
でも、60歳前後でも着ている人はいますし、好きなら気にしなくてもいいのかと。
多分、こういう服を着たいと思う人は、自分は普通じゃないと考えると思います。
でも、本当に普通じゃない人はその遥か斜め上を行っていますので
アブノーマル界の中では下っ端です。目立ちません。
だから安心していいと思います。
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