
「ねぇ、もう一杯どう?」
カラン、とグラスの中の氷が揺れる音が耳に心地よく響いた。
バーのカウンターに腰掛けながら、俺——和也(かずや)は目の前にいる女性から差し出されたグラスを見つめていた。
「いや、ちょっと飲みすぎたかも……」
「えー、まだ早いって。せっかく楽しくなってきたところなんだから、付き合ってよ」
そう言って微笑む彼女の名は玲奈(れな)。
長い髪にゆるくカールをかけ、白いブラウスに青いスカートを合わせた姿がよく似合っている。
髪にはいくつものヘアピンがキラキラと光っていた。
俺がこのバーにたまたま寄ったのがつい1時間前。
最初は軽く飲むだけのつもりだったが、隣に座っていた玲奈に話しかけられ、意外なほど会話が弾んだ。
「和也くん、なんか疲れてる感じするよね」
「まぁ、仕事が色々あってな」
「ふぅん。ストレス溜まってるのかなぁ……」
玲奈は俺の目を覗き込むようにして、意味ありげに笑う。
その仕草が妙に色っぽくて、つい目を奪われてしまう。
「ねぇ、もう少し付き合ってくれるよね?」
「……まぁ、あと一杯だけなら」
俺がそう答えると、玲奈は嬉しそうに微笑み、隣のバーテンダーに合図を送った。
ほどなくして、新しいカクテルが目の前に置かれる。
「じゃあ、乾杯」
「乾杯」
玲奈とグラスを合わせ、一口飲む。
甘くてすっきりした味が喉を通る感覚。——だが、それと同時に、頭がぼんやりとし始めた。
「……なんだ、これ……」
視界が霞む。意識が遠のく。
——まずい。
「ふふ、やっと効いてきたかな?」
玲奈の顔が笑っているのが見えた気がした。
「……おい……これ……」
——完全に意識が落ちた。
目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。
ふかふかのベッドの感触が背中に広がっている。
……体が重い。
「ん……?」
ぼんやりとした頭を振りながら起き上がる。
手をついた瞬間、自分の体が妙に細いことに気づいた。
視線を下に落とすと——
「!?!?」
そこには、スラリとした白い脚が見えた。
履いているのは白いタイツ。
——スカート?
「え? なんで……」
慌てて部屋の隅にある姿見の前に立つ。
鏡に映ったのは、昨日バーで隣にいた——玲奈の姿だった。
「は……? なんで……」
鏡の中の自分は玲奈そのもの。
柔らかなブラウンの髪、整った顔立ち、大きな瞳。
白いブラウスに青いスカート。
「嘘……だろ……?」
すると、部屋のドアが開いた。
「おはよう、和也くん」
そこにいたのは、俺の——和也の体をした玲奈だった。
「やぁっと起きたね。よく眠れた?」
「お前……何をした……」
玲奈(俺)はゆっくりと笑った。
「んー? ちょっと、君の体を借りただけ」
「何を——どういうことだ!?」
「単純なことだよ。私、少し飽きてたの。今の生活にね。だから、別の人生を歩んでみたくなったってわけ」
玲奈は椅子に腰を下ろし、足を組む。
その姿はまるで自分自身を見ているようで、背筋が寒くなる。
「……だからって、俺と体を入れ替えたのか?」
「うん、そうだよ。あ、でもそんなに怒らないで。これから君には私の代わりに働いてもらうんだから」
「働く?」
玲奈は立ち上がり、俺に近づく。
鏡に映る玲奈(俺)の顔がニヤリと笑う。
「君の体は、もう私のもの。だから、元に戻して欲しいなら——しばらく私の仕事を手伝ってもらおうかな」
「ふざけんな!」
「ふふ、ふざけてなんかないよ?」
玲奈は俺の顎をそっと持ち上げ、至近距離で目を覗き込んできた。
「お願いね、玲奈さん?」
——これが悪夢の始まりだった。
それから数日。
俺は玲奈としての生活を強いられていた。
玲奈の部屋で起きて、玲奈の服を着て、玲奈の代わりにカフェで働く。
「玲奈さん、今日も可愛いですね!」
「玲奈ちゃん、こっちお願い!」
「玲奈ちゃん、昨日の映画、どうだった?」
周囲から玲奈として接されることに慣れる暇もなく、俺は毎日振り回された。
最初は戸惑い、逃げ出そうともした。
だが——逃げることはできない。
玲奈(俺)が言った。
「もし逃げたら、君の体——傷つけるかもしれないよ?」
「……くそ……」
だから俺は、玲奈としての日常を受け入れるしかなかった。
可愛い服を着て、メイクをして、笑顔を振りまく。
カフェの常連客からは「玲奈ちゃん、最近雰囲気変わったね」と言われることも増えた。
「和也くん……早く終わらせたい?」
玲奈(俺)が耳元でささやく。
「やめて……元に戻してくれ……」
「ふふ、それは君次第だよ」
玲奈の笑みが恐ろしく思えた。
——俺はこのまま、玲奈として生きるしかないのか?
——果たして、和也は玲奈の呪縛から逃れることができるのか——
続きは電子書籍にて

私からしたらこういうのご褒美になっちゃいます♪
カフェで働く用の服じゃないですが
エプロン着たらまあいけるかな?
最近はこういう服もアクセサリーもしなくなったな。
一応アクセサリーはお気に入りだけ取ってありますが
子供にいたずらされると危険でつけられないし。
服は売ってしまってもよいかも?
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