
目を覚ました瞬間、光一は何かがおかしいと直感した。
布団の感触は変わらない。
部屋の天井も、自分の家のそれと違いはない。
けれど――身体が、妙だ。
「……ん?」
寝返りを打った時、胸にふわりとした重みを感じた。
起き上がって布団をめくると、そこにあったのは自分の身体ではない。
白いセーラーの襟。細く白い腕。違和感だらけの柔らかな髪の感触。
「……え? なにこれ……」
鏡を覗き込むと、そこに映っていたのは朝倉紗耶の顔だった。
光一は混乱しながらも冷静に部屋を見回した。
ここは見覚えのない部屋だった。
小物や文具が整然と並べられた机、壁にかけられたアイドルのポスター、香水の匂い――間違いない、ここは女の子の部屋だ。
「夢じゃないよな……?」
ぺちん、と頬を叩く。痛い。
「はぁ!? マジで!? なんで俺、朝倉に……!? てか、なんで制服が……!」
制服のスカートをつまみ上げてみる。
見慣れたズボンじゃない。 寒い。 恥ずかしい。
「うわああ……このまま学校行けってか……? 無理だろ……」
それでも、カレンダーを見ると今日は平日。
下手に休めば彼女の生活に支障が出る。
仕方なく髪を整え、カバンを手にして家を出た。
学校に着くと、周囲の視線が刺さる。
「朝倉さーん」「おはよう、紗耶ちゃん」 あいさつの嵐に光一は半笑いで返すことしかできなかった。
「こ、こんな人気者って大変だな……」
そして自分の姿――村瀬光一の体を探す。
その姿は昇降口の隅に立っていた。
自分の体が、妙にきょどきょどしている。
「村瀬くん……?」
声をかけると、自分の顔がギョッとした。
「君も……まさか……」
頷き合う二人。
「信じられないけど……入れ替わってる、よね」
昼休み、人気のない図書室で向かい合った二人は、静かに現状の確認を始めた。
「何が原因だと思う?」
「昨日の掃除の時間、旧校舎に行ったよね? あのとき拾った変なペンダント……あれ、机の中に入れたままなんだ」
思い出す、昨日の午後。
掃除場所に指定された旧校舎の理科室。
誰も近づかない埃まみれの教室の片隅、なぜか同時に見つけた、古びたペンダント。
『あの子みたいに、もっと自由になれたら……』
『あいつみたいに、少しでいいから目立ちたい……』
光一と紗耶、それぞれが相手に憧れていた。
そして――同時に心の中でそう願っていた。
日々を過ごす中で、光一は紗耶の抱えるプレッシャーに気づいていく。
笑顔を絶やさず、誰にでも優しく、頼られ続ける重み。
一方で紗耶は、光一の静かな日常に安堵を感じていた。
無理して笑わなくていい。
誰も期待してこない。
でも、どこか寂しい。
そんなある日、クラスメイトに告白される“紗耶”=光一。
「……ごめん、今は人を好きになる余裕ないから」
断りながらも、心は波打っていた。
(俺が……本当に紗耶として生きていけたら、どうなってたんだろう……)
入れ替わって1週間が過ぎた頃、二人は再び旧校舎を訪れた。
「……戻る方法、分からないね」
「うん……でも、ちょっと寂しいかも」
その言葉に、光一はどきりとする。
「私、気づいちゃった。村瀬くんって、優しいんだね。前より好きになった」
「……朝倉さん……俺も、君のこと……」
風が吹いた。
床に置かれたペンダントが、ふっと光を放つ。
舞い上がる埃の中、二人の体が光に包まれて――元に戻っていた。
その日、秋の夕暮れ。
セーラー服を着た紗耶が、校庭の落ち葉の中に立っていた。
その横に、光一。
「やっぱり、君のセーラー服、僕には似合わなかったよ」
「ううん。ちゃんと、守ってくれた。……ありがとう」
二人はそっと手を繋いだ。
そして始まる、新しい日常。
互いを知った二人は、もう他人ではない。
恋の予感が、秋の風に溶けていく――。

目立ってる人が一人になりたいと思うことはあるかもですが
地味で目立たないところにいようとする人が目立ちたいとは思わないかも?
男のままの意識で男に告白されるのはきついだろうね。
相手からは女子に見えるわけだけど。
そうでもない人もそれなりにいるかな?
私は嫌な気はしませんが、女性にもてたい。。。
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