目覚めると、いつもとは違う風景が目に入った。
部屋の壁にはピンクのカーテン、机の上には小さな鏡とコスメの山。
「なんだこれ…?」起き上がろうとして、自分の腕を見て凍りついた。
華奢な白い腕。慌てて鏡を見ると、そこには憧れの先輩・沙月(さつき)の顔が映っていた。
「えっ!? 俺が…沙月先輩?」
パニックに陥っていると、机の上のスマホが振動した。
「ん…誰だ?」通知を見ると、LINEに「大丈夫? 昨日の飲み会楽しんでた?」という見覚えのないメッセージが表示されている。
「昨日の飲み会…?」
混乱していると、隣室から「沙月ー! 朝ご飯できたよー!」と女性の声が響いた。
「……どうすればいいんだ。」
—
目が覚めると、固い床の感触に気づいた。
いつものフカフカのベッドとはまるで違う。
周りを見回すと、古びた男物の部屋で、机には教科書や漫画が雑然と積まれている。
「ここ…どこ?」
ベッドサイドの鏡を手に取ると、映っていたのは沙月自身ではなく、学校の後輩・達也(たつや)の顔だった。
「は?」
その瞬間、ドアがノックされ、「達也、起きてるか?」という男の声が響いた。
どうやら父親らしいが、普段の優雅な朝とは違う慌ただしさを感じる。
「まさか、これ…夢じゃないよね?」
【彼の視点】
沙月の体のままリビングに向かうと、そこには沙月の母親らしき女性が立っていた。
彼女が微笑みながら言う。「今日は学校? それともオフ?」
「えっと…」動揺しながらも、適当に相槌を打って座る。
母親の手料理は見た目も美しく、味も完璧だった。
(先輩の生活って、こんなにキラキラしてるんだな…。)
しかし、その後の予定を確認しようとスマホを操作すると、「ミーティング」「レッスン」「撮影」などの予定がびっしり。
「……なんで、こんなに忙しいんだよ。」
学校では、同級生や後輩から挨拶をされ、人気者の沙月を演じ続けることに苦労する。
特に男子生徒の視線には居心地の悪さを感じた。
(俺が沙月先輩だったら、こんな注目を毎日浴びるんだな…。)
【彼女の視点】
達也の体のまま朝食を取るが、粗野な父親と弟の会話に圧倒される。
普段のエレガントな食卓とは真逆だった。
「今日は何時に帰るんだ?」父親に聞かれ、言葉を濁しつつ食事を終える。
達也の学校へ向かうが、男の体での歩き方や振る舞いに苦労する。
学校に着くと、達也の友人たちが馴れ馴れしく話しかけてくる。
「お前、昨日は結局あの話どうなったんだよ?」
「えっと、それは…」
話の内容がわからず適当に流そうとするが、彼らの会話についていけない。
(達也って、こういう日常を送っているんだ…。)
—
放課後、二人は学校裏の静かな場所で偶然出会う。
「先輩!?」「達也くん!?」
お互いの姿を見て、すぐに自分たちが入れ替わっていることに気づく。
「これ、どういうことなんだ?」
「私にもわからない。でも、どうやら今の私たちは…逆になってるみたい。」
二人は情報を共有し、それぞれの予定や行動を確認し合う。
「達也くん、私のスケジュールちゃんとこなしてよ。撮影とか適当なことされたら困るから。」
「先輩だって、俺の友達との関係ちゃんとやってくれよな。俺の評判落とされたら困るし。」
「そっちが先に問題起こすでしょ!」
「いや、そっちだろ!」
お互いの生活に踏み込む中で、徐々に自分たちの知らない相手の一面を知る。
—
【彼の視点】
沙月としての生活を送る中で、彼女がプレッシャーに苦しんでいることを知る。
彼女の部屋には、完成した笑顔の写真ばかりだが、日記には「疲れた」「逃げたい」といった弱音が書かれていた。
(先輩って、こんなに努力してたんだ…。)
【彼女の視点】
達也としての生活を送る中で、彼が家族や友人を大切にしていることを知る。
家計を支えるためにアルバイトをしていることや、友人の悩みに真剣に耳を傾けている姿に感動する。
(達也くんって、意外としっかりしてるのね…。)
—
再び二人が会い、これまでの経験を共有する。
「先輩、俺、正直言って先輩のこともっと軽い人だと思ってた。でも、全然違った。」
「私も、達也くんのことただの平凡な後輩だと思ってた。でも、あなたの生活を知って、見直したわ。」
二人はお互いの努力や苦労を理解し、成長を感じる。
「もしかして、この入れ替わりって、私たちがお互いを知るためだったのかもね。」
「そうかもしれませんね…。」
ある朝、二人は元の体に戻っていた。
学校で出会ったとき、軽く笑い合いながら挨拶を交わす。
「おはよう、先輩。」「おはよう、達也くん。」
二人の間には、新しい信頼と友情が芽生えていた。
憧れる人にもしなれたらどう思うんでしょうか?
理想を演じるなんて大変ですし、多分潰れる気がする。
憧れるような人がいれば、きっとその人は普段から努力してるんですよ。
私は何もしてませんが。憧れてくれる人もいませんが。
今日の17時くらいから電子書籍の販売開始です。
アマゾンなので、多分向こうの朝一からのイメージですかね?
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