「おい、悠也。またこんなところで何してんだよ。」
放課後の校舎裏。
夕日が差し込む中、悠也はクラスメイトの健吾に声をかけられた。
「いや、別に。なんとなく散歩してただけだよ。」悠也はそう言って笑ったが、目線は奥にある池へと向けられていた。
学校の敷地の片隅にある小さな池。
雑草が生い茂り、普段は誰も近づかない場所だった。
「またあの噂の池か? お前、ホント物好きだよな。」健吾は呆れたように肩をすくめると、手を振って去っていった。
悠也がこの池に惹かれる理由は明確ではなかった。
ただ、幼い頃から何となくこの場所に不思議な親近感を覚えていた。
それに、最近この池について聞いた奇妙な噂が気になっていたのだ。
「この池に映った自分の影が消えたら、何かが起きる。」
誰が言い出したのかもわからない噂だが、悠也はその話を聞いた時、妙に胸がざわついた。
「影が消える、か…。」
悠也は池のほとりにしゃがみ込み、水面を覗き込んだ。
薄暗く濁った水面に自分の顔が映る。
その顔が揺れる波間に沈み込んでいくように見えるたび、心臓がドキリとした。
「…あれ?」
ふと、水面に映る自分の顔が揺らぎ、まるで違う人の顔になったように見えた。
「なんだ、これ…」
その瞬間、池の水がまるで吸い込むように渦を巻き、悠也はそのまま前のめりに池へ落ちてしまった。
「うわっ!」
全身が冷たい水に包まれる感覚に目を覚ますと、悠也は池の中で仰向けになっていた。
慌てて起き上がろうとするが、妙に体が重い。
「…ん? なんだ、この感覚…。」
自分の体を見下ろした悠也は、驚愕に凍り付いた。
目の前には自分の体ではなく、見慣れないスカートと華奢な腕。
「え? これ…俺?」
手鏡を取り出し、水面を覗き込むとそこに映ったのは、クラスメイトの穂乃花の顔だった。
穂乃花はいつもの帰り道、なんとなく池の方に引き寄せられるように足を向けていた。
あの池には子どもの頃から強い興味を抱いていた。
周囲の草木が無造作に生え、学校の中でも自然がそのまま残されているような空間。
「なんでだろう。ここに来ると、落ち着くんだよね。」
そんなことをつぶやきながら池を見下ろしていると、急に水面が揺れ、目の前が真っ暗になった。
次に目を覚ましたとき、自分が男子の制服を着ていることに気づいた。
「えっ、何これ…!?」
目の前には池があり、そこに映るのはクラスメイトの悠也の顔。
混乱と恐怖で頭が真っ白になりながらも、穂乃花は必死に冷静を保とうとした。
翌日、2人は学校の裏庭でこっそりと会話を交わした。
「これ、本当に夢じゃないよな…。」
悠也(穂乃花の体)がそう呟くと、穂乃花(悠也の体)はうなずいた。
「昨日の夜、ずっと何が起きたのか考えてたけど…どうしてこうなったのか、全然わからない。」
「でも、このままじゃまずいだろ。どうやって元に戻るんだよ…。」
「それに、悠也くん…私の体で変なことしてないでしょうね?」
穂乃花が鋭く睨むと、悠也は慌てて手を振った。
「してない、してない! ていうか、お前だって俺の体で勝手に何かしてないだろうな?」
「してないわよ!」
2人はお互いに疑いの目を向けながらも、現状をどうにかするため協力することを決意した。
数日が経つうちに、2人はお互いの立場で生活することに徐々に慣れていった。
悠也は穂乃花の生活を通じて、彼女が表面上は完璧な優等生でありながら、実は周囲からの期待に押しつぶされそうになっていることを知る。
「穂乃花、お前って意外と無理してたんだな…。」
一方で、穂乃花は悠也の体を通じて、彼が普段からクラスの仲間たちの輪の中で気を遣っていることや、実は孤独を感じている一面を知る。
「悠也くんって、いつも楽しそうにしてるけど、内心では大変だったんだね…。」
お互いの立場を理解する中で、2人は次第に相手への尊敬と友情、そして少しの愛情を抱くようになっていく。
再び池を訪れた2人は、偶然見つけた古い石碑に気づく。
それには「心を映す水鏡」と刻まれており、池が心の迷いを映し出し、入れ替わりを引き起こす力を持つと書かれていた。
「心を映す…つまり、俺たちはお互いを理解する必要があったってことか。」
「そうかもね。でも、今なら…元に戻れる気がする。」
2人は池の水面に顔を映し、静かに目を閉じた。
その瞬間、光が差し込み、2人は元の体に戻る。
放課後、再び校舎裏で会った2人は、ぎこちなくも微笑み合った。
「また、池に落ちることにならないように気をつけろよ。」
「悠也くんこそね。」
それぞれの立場を知り、少しだけ大人になった2人の物語は、こうして幕を閉じた。
とりあえず入れ替わって元に戻る場合は
なんとなくお互いを理解するか
原因が分かってて元に戻すか
いつの間にか元に戻るか、辺りですかね?
そろそろまったり系の話が多くなってきたので
元に戻らない話かダーク系な話をぼちぼち増やしましょうかね?
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