
「……え?」
目を開けると、そこは見慣れた自分の部屋のはずだった。
だが、体の感覚がまるで違う。
まるで全身に薄い膜が張られたかのような、奇妙な浮遊感と、同時に感じられるずっしりとした重み。
指先を動かそうとすると、普段の自分のものとは比べ物にならないほど、太く、そしてどこか柔らかい指が視界に入った。
「なんか……重い……? 指が細い……って、ええええっ!?」
慌ててベッドから飛び起き、目の前にある姿見に飛びつく。
そこに立っていたのは、紛れもない、隣に住む谷口さん、40代の主婦、美穂さんだった。
栗色のショートヘア、優しげな目元、そして少しふくよかな体つき。
見間違いようもない。彼女の姿が、そこにいた。
「嘘だろ……なんで、俺が……谷口さんに……!?」
陽太は自分の顔に手を当てる。
すべすべとした肌の感触、そして頬の輪郭が普段より丸みを帯びているのがわかる。
動揺のあまり、息が荒くなる。
一方、谷口美穂は、彼女の家で目覚めていた。
「な、何これ!? 声が若い!? 腕が細い、いや違う……これ、陽太くんの体!?」
彼女もまた、自分の部屋の鏡の前に立っていた。
そこに映るのは、自分よりも遥かに若く、引き締まった男子高校生の体。
黒々とした短髪、少しつり上がった目元、そして、筋肉のついた腕。
「こんなに背が高かったの……? あ、私の服がだらしない……まさか……まさかね!?」
美穂は自分の頬をつねる。痛い。夢ではない。
陽太とおばさんが、何かの拍子で入れ替わってしまったのだ。
夜が明け、陽太(体は美穂)は、震える手で制服に袖を通そうとした。
美穂の体には普段の自分の学ランがどうしても大きすぎる。
ブカブカの学ランが、美穂の女性らしい体つきにはひどく不格好に感じられたが、鏡で見ても、周りには違和感なく映っているようだった。
「ボタンが……止めづらい……それに、このブカブカの学ラン……なんか、ソワソワする……」
陽太はため息をつきながら、何とか学ランを着こなし、学校へと向かった。
自宅を出た瞬間から、普段と変わらない日常の風景が広がる。
誰も陽太の見た目の変化に気づいている様子はない。
「(見た目は俺のまま扱われるんだよな……誰も気づかないんだ……)はぁ……」
教室に入ると、いつものように友達が陽気な声で話しかけてくる。
「よう、竹内! 昨日の課題やってきたか?」
「……う、うん、やったよ……(な、なんとか話合わせないと、バレたら大変なことになる!)」
陽太は声のトーンを普段の自分に合わせようと必死になったが、どうしても少し高くなってしまう。
友達は特に気にする様子もなく、陽太は内心で胸をなでおろした。
しかし、体育の時間には限界が来た。
準備運動の柔軟体操で、陽太は体の硬さに呻き声を上げた。
「次、二人一組で柔軟! 竹内、体かてーぞ!」
「す、すみません……あいたたた……! 無理です、これ以上は……」
足を開くのも一苦労、腕もろくに上がらない。
美穂の体で激しい運動をするのは至難の業だった。
少し走っただけで息切れがし、汗が止まらない。
(これ、マジでヤバい……息切れすごいし、汗が止まらないし、なにより、胸が揺れるのが……!)
走るたびに、ブカブカの体操服の中で感じる胸の膨らみが、大きく揺れ動くのが分かった。
その度に、陽太はまるで自分の体が他人のものになったような、奇妙な感覚に襲われた。
トイレの時間も地獄だった。
個室に入り、使い慣れない体に戸惑いながら、自分なりの手順を模索する。
排泄行為一つとっても、普段とは全く異なる感覚に、陽太は深い困惑と羞恥心を覚えた。
教室の窓にふと映った自分の姿、肩まで届く長い髪が動くたびにゾワッとする。
(うわ、髪……こんなに邪魔なんだ。動くたびに顔にかかるし、首にまとわりつくし……これ、どうやって整えるの? 美穂さんは毎日こんなことしてたのか……)
そして、何よりも気になったのは、学ランの中で感じる胸の膨らみだった。
(なんか……重い。これ、普通に動くだけでも気になる……女の人って、こんな状態で日常を過ごしてるの?……)
陽太は、美穂の体を通して、女性が日々感じているであろう不便さや、時に生じる不快感を、まざまざと体験していた。
しかし、周囲の誰も、彼の体の異変に気づく様子はなかった。
彼らは、目の前の「竹内陽太」を、いつもの彼として扱っていた。
一方その頃、美穂は高校生の体を持て余していた。
朝、目覚めてまず感じたのは、普段の自分の体とは比べ物にならないほどの身軽さだった。
美穂は自分の洋服棚を開け、普段自分が着ているワンピースやブラウスを引っ張り出した。
陽太の体に美穂の服は明らかに合わないが、夫や近所の人は何も言わない。
「まさか、陽太くんの体で私の服を着ることになるなんて……」
美穂は、陽太の体に自分のゆったりとしたワンピースやカーディガンを着用した。
陽太の引き締まった体には、どれも丈が短く、幅も狭い。
しかし、それはそれで、どこか新しい魅力を放っているように感じられた。
「ちょっと動くだけでこんなに体が軽いなんて……お掃除も洗濯も楽勝じゃない! これなら、高いところの埃も簡単に取れるわ!」
美穂は、陽太の体で家中を駆け回り、普段なら億劫に感じる家事をテキパキとこなした。
その素早い動きと、はつらつとした姿に、夫は驚きながらも褒めてくれた。
「最近、なんだか元気だね。何か良いことでもあったのかい?」
「そ、そうかしら……うふふ。陽太くんの体って、こんなに動くのが楽しいなんて知らなかったわ!」
夫は首を傾げたが、深く追求はしなかった。
美穂は内心で冷や汗をかきながらも、陽太の声色を真似て、なんとかごまかすことができた。
ふと、鏡の前に立って自分の姿を見ると、違和感とともに新たな発見があった。
「うわ……髪、短い……シャンプーもドライヤーもめちゃくちゃ楽じゃない! なんで男の子ってこんなに効率的なの……!」
くしゃくしゃと髪をいじって、その爽快感に美穂は思わずにやけた。
これまで当たり前のように感じていた自分の長い髪の毛が、今となってはひどく手間のかかるもののように思われた。
「……それにしても、胸筋すごい。腕もがっしりしてて……お腹も引き締まってるし……すごいわ、若い男の子って……」
鏡の前で腕を曲げたり胸を張ってみたりして、自分の変わった体に驚いていた。
普段、夫の体を目にすることはあっても、ここまでじっくりと男性の体を観察する機会はなかった。
陽太の体に宿ったことで、美穂は男性の肉体が持つ力強さや、そのしなやかさに、純粋な驚きとある種の魅力を感じていた。
「これはこれでちょっと楽しいかも……私、今まで知らなかったわ、こんな感覚……」
美穂は陽太の体を通して、男性として生きることの新たな喜びを発見し始めていた。
夫も近所の人も、目の前の「谷口美穂」が、いつもと変わらない美穂だと信じていた。
週末、二人は人目を避けて、美穂の家の裏にある小さな物置で再会した。
埃の匂いがする薄暗い空間は、二人だけの秘密の場所にふさわしかった。
「こっそり入るなんて……ちょっとドキドキしますね。まるで秘密のデートみたい」
陽太は、美穂の口調を真似しながら、少し照れたように言った。
「うん……誰にも見られたくないしね。それにしても、陽太くん、その学ラン、ブカブカね。私の体には合わないでしょう?」
美穂は、陽太の着ている学ランを見て、眉をひそめた。
美穂の体は、本来の陽太の体よりも一回り細い。
物置の片隅に並んで腰を下ろし、静かに風が吹く。
沈黙が二人を包み込む。
「なあ……美穂さん、俺の体に、慣れた?」
陽太が、美穂の本来の体を指して尋ねた。
「……うん、でもまだ不思議よ。たとえば……こうやって腕に触れてみると、」
美穂が陽太の(つまり本来の彼の)腕にそっと触れる。
彼女の指先が、彼の引き締まった二の腕を優しくなぞる。
その感触に、陽太の心臓がわずかに跳ねた。
「こんなに熱くて、強いのに、どこか頼れる感じがするのよね。……なんだかくすぐったいわ」
美穂は、陽太の逞しい腕を自分のもののように感じながら、その力強さに魅せられていた。
陽太は自分の体、つまり美穂の体、の手を見下ろす。
美穂の指先は、自分のものよりも細く、しなやかだ。
「俺も……この手、細いのに柔らかくて、しかも敏感なんだ。少し何かに触れるだけで……すぐに感じ取る」
陽太は、美穂の指先の繊細さに驚いていた。
自分の体では感じ取れなかった微細な感覚が、美穂の体を通して鮮明に伝わってくる。
美穂が、陽太の頬に触れる。
その手は、ひんやりと冷たかった。
「……よく頑張ってるわね、この顔で。あなたの中身がいるって分かってるのに、こうして触れると……少し、不思議な感じがするの。あなたの純粋な心が、この顔の奥にあるって思うと……」
美穂の指が、陽太(中身は美穂)の顔の輪郭をゆっくりと辿る。
美穂の温かい手のひらが、陽太の頬にそっと触れた時、陽太の体にゾクッとした感覚が走った。
「俺も……美穂さんの手、こんなに優しい感触だなんて知らなかった」
陽太は鏡に映る自分の胸元を見ながら、ため息をついた。
「最初は戸惑ったけど……いろんな感覚が新鮮すぎて……改めて、女の人ってすごいなって思った。こんなに柔らかくて、温かくて……」
陽太の言葉には、純粋な驚きと、これまでにない敬意が込められていた。
美穂の体を通して、彼は女性の身体が持つ奥深さと神秘性に触れているようだった。
「ふふ、私も同じ。あなたの体を通して、若さって力なんだなって思った。なんだか……ちょっと羨ましくもあるわ。こんなに力強くて、動きやすいなんて」
美穂は、陽太の筋肉が張った体を自らのものとして感じながら、その活力に魅了されていた。
お互い、しばし言葉を失って見つめ合う。
二人の間には、これまで以上に深く、そして複雑な理解が生まれていた。
「このままでも……悪くないかもな」 陽太がぽつりと言った。
それは、この奇妙な状況に対する諦めではなく、新しい発見と、相手への不思議な親密さが混じった、本音だった。
「……ええ。ちょっとだけ、そう思ってしまったわ。こんなに自由になれるなんて……」 美穂の言葉にも、同じような感情が込められていた。
そして、二人の間に新たな理解が生まれた瞬間だった。
それは、単なる体の交換を超えた、魂の触れ合いとも呼べるような、奇妙で危険な領域への第一歩だった。

元の写真の服をAIで学ランに変えてみましたw
異性の体で今まで通り過ごすとか
傍から見る分には楽しそうですが
絶対大変だろうね。
PC作業だけならいけるかもしれませんが
そんな仕事もなかなかないです。。。
その後、段々親密に。。。
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