
夏祭りの夜。
賑わいのピークを過ぎ、屋台の灯りが一つ、また一つと消えていく。
境内を埋め尽くしていた人波も、今では潮が引くように細くなっていた。
悠斗は、金魚すくいで手に入れた数匹の金魚が入った紙袋をぶら下げながら、ひとり帰り道を歩いていた。
遠くから微かに響く太鼓の音だけが、祭りの余韻を留めている。
一緒に来ていた友達とは、射的の屋台のあたりで別れてしまった。
大勢の人混みをかき分けて探し出すのも億劫で、そのまま一人で帰ることにしたのだ。
祭りの喧騒が残る大通りから、彼は一本、路地裏へと足を踏み入れた。
夜風は肌を心地よく撫で、昼間の暑さが嘘のようだ。
しかし、人通りはほとんどなく、街灯の下にも誰もいない。
彼のスニーカーが地面を叩く音だけが、やけに大きく響いた。
そのとき、不意に背後から声がかけられた。
「ねえ、君——ちょっと試してみない?」
悠斗が反射的に振り向くと、そこにはいつの間にか道端に小さな机を出した男が座っていた。
男はフードを深く被り、顔は影に隠れてよく見えない。
古びた布の上には、木でできた奇妙な小箱が置かれ、そこから淡い、青白い光が漏れていた。
まるでファンタジー映画の小道具のようだ。
「……え?」悠斗は訝しんだ。占い師か、何か怪しいセールスだろうか。
「面白い体験さ。ほんの一晩でいい。誰かと体を交換してみないか?」
男の声は低く、抑揚がない。
冗談としか思えない言葉に、悠斗は苦笑する。
早く立ち去ろうと足を進めかけた、そのときだった。
ちょうど彼の横を通りかかったのは、近所に住む美代さんだった。
「あら、悠斗くんじゃない。ひとりで帰るの?」
美代は、悠斗の母親とも親しく、昔から何かと世話を焼いてくれる、お節介だけれど明るい近所のおばさんだ。
鮮やかな紺地の浴衣に身を包み、買い物袋を下げているところを見ると、彼女も祭りの帰りらしい。
そんな美代さんに向かって、男が口を開いた。
「ちょうど二人いるじゃないか。試してみるといい」
言うが早いか、机の上の小箱の光が一気に強くなり、悠斗の視界は白に包まれた。
全身を妙な圧力が通り抜け、金魚すくいの袋を握る手が、重力から解き放たれたようにすとんと軽くなった。
周囲の空気の感触、浴衣の布が肌に触れる感覚、足が地面を踏みしめる重さ——すべてが違っていた。
「……え?」
「ちょ、ちょっと待って! これ!?」
視線を下ろした悠斗は、そこで息を呑み、言葉を失った。
そこに映るのは、見慣れない細い腕と、華奢な手。
着ている浴衣の胸元には、明らかに自分のものとは違うふくらみがあり、腰回りのラインも女性特有の丸みを帯びている。
鏡がなくても、全身の違和感が教えてくれる。
自分の体は、もう自分のものではなかった。
「……っ、なに、これ……!」
悠斗の声が裏返った。
耳に届いたのは、自分のものではない甲高く、震えた女子の声だ。
慌てて両手で口を押さえる。
隣から、悪戯が成功したような笑い声が聞こえてきた。
「これ……まさか、本当に入れ替わっちゃったの?」
声の主は、美代さん。
だが、視線の先にいるのは制服の学ラン姿をした美代さんの姿だ。
彼女が悠斗の体を手に入れている。
頭がぐらぐらするほどの混乱。
足元がふらつき、浴衣の袖が風に揺れる。
彼は思わずそばにあった電柱に手をついた。
「ちょっと、待って……これ、夢ですよね? だって俺……」
「いやぁ、夢なら相当リアルよ。こっちなんて、膝も腰も軽くてびっくりだわ。本当に夢みたい」
美代さんは、悠斗の体で腕を曲げ伸ばししながら、無邪気に笑った。
その明るさが、悠斗の恐怖を一層煽る。
悠斗は、浴衣の袖口から覗く白く、どこか丸みを帯びた腕を凝視した。
(これ……俺のじゃない。女の人の体だ……!)
胸の重み、腰の丸み。
全身を覆う異物感に、呼吸が浅くなる。
「どうしよう……学校……家族……バレたら……!」
「落ち着いて。大きさはそんなに変わってないし、服を交換すればなんとかなるでしょ?」
美代さんは、自分の体(悠斗の体)を上から下まで見つめ、さらりと言う。
たしかに、悠斗は背が低めで、美代さんも小柄な方だったため、身長差はわずかだ。
遠目には誤魔化せそうだった。
「……でも、声とか……」
「声は……まあ、夏風邪ひいたってことにすればいいじゃない。あるいは、変声期の途中で喉をやられたとか」
そう言って、美代さんは悠斗の体でまた笑った。
自分の体で美代さんの顔が笑っているのが、酷く奇妙で、ぞっとする。
だが、悠斗に選択肢はなかった。
このままでは家に帰れない。
誰に説明しても信じてもらえないだろう。
仕方なく、二人は人目につかない路地の奥で服を取り替えることにした。
美代の体で、浴衣を脱ぎ、学ランに着替える。
ボタンを留める指先が震える。
胸の膨らみを押さえ込むように布がきつく閉じられ、なんとか「少年」に見える格好ができあがる。
一方、美代さんは、悠斗の体に浴衣を羽織り、帯を適当に締めた。
鏡がないので完璧な変装かはわからない。
しかし、遠目にはそれぞれ「元の姿」に見えなくもない。
「ほら、案外なんとかなるでしょ?」
「……本当に、これでバレないんですかね……」
「大丈夫大丈夫。あのおじさんの言い方だと、しばらくすれば戻るってことなんでしょ」
その根拠のない楽観的な言葉に、悠斗はただ頷くしかなかった。
それぞれの服を着替え終え、ぎこちない姿のまま家路につく。
街灯の下に映る自分の影さえ、見慣れない曲線を描いていて息苦しい。
「じゃあ……一応、ここで解散ね。明日どうするかは、また連絡手段を決めて相談しましょう」
「は、はい……」
美代さんは悠斗の体で軽く手を振り、夜の道へ消えていった。
悠斗は、浴衣姿の「自分の体」が見えなくなるまで見送った後、深くため息をつく。
(落ち着け……落ち着け……きっとすぐ戻る……)
震える足で家に帰る。
玄関の戸を開けると、母親の声が聞こえた。
「おかえりなさい。ずいぶん遅かったじゃない。友達と一緒じゃなかったの?」
「……う、うん」
返事をした瞬間、母がこちらをじっと見た。
心臓が跳ねる。
声の高さ、仕草、浴衣を着たまま学ランを着ているという不自然さ……どれも普段の自分とは違うはずだ。
「風邪でもひいたの? 声、変よ?」
「あ……ちょっと喉が痛くて。」
とっさにごまかすと、母は「そう」とあっさり流した。胸をなで下ろす。
しかし、問題はまだある。
脱衣所に入ると、鏡が待っていた。
学ランを脱ぎ、肌着姿になった瞬間、悠斗は再び息が詰まる。
そこに立っているのは、どう見ても曲線的な女性の体。
肩の丸み、胸の膨らみ、腰の曲線、そして肌のきめ細かさ……。
「うわ……っ、やっぱり……」
湯船につかると、肌の感覚まで別物で、自分が自分でないような感覚に襲われる。
(明日、学校……どうするんだ俺……)
眠りにつくまで、胸の重みが邪魔をし、寝返りを打つたびに不安が募った。

体格が同じくらいでも、男女の違いは分かりますよね?多分。
とはいえ、上手く誤魔化せればスリルある体験が出来るかも?
ある意味男性なのに男装、女性なのに女装しなければならない。
まだ暑いから無理ですね。冬ならワンチャンありかも?
上着着てたら案外ブラに詰め物しててもバレないですよ?
人前で服脱ぐこともないですからね。
知り合いとばったり会ってそのまま飲みに行ったときは焦ったわ。。。

おまけ:熟女の体で無理やり着た学ラン
こんな感じのイメージですが、これ一発でばれますね。。。
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