喫茶店の扉を開けた瞬間、カランとベルの音が鳴った。
仕事帰りに一息つこうと立ち寄っただけのはずが、こんなことになるなんて予想もしていなかった。
「すみません、少しお時間いいですか?」
声をかけてきたのは、柔らかい笑みを浮かべた一人の女性だった。
テーブルに置かれたペンダントが目に入り、不思議と目が離せなくなる。
「急に申し訳ないんですが、ちょっとだけ遊びに付き合ってくれませんか?」
断る理由もなく、彼女の言葉にうなずく。次の瞬間、僕の視界は真っ暗になった。
目を覚ますと、妙な感覚が全身を包んでいた。
見慣れない細い指、柔らかな腕、胸元の違和感。
視線を下に向けると、そこには自分の体ではない、明らかに女性の体があった。
「ありがとう。これで少しの間、自由に動けるわ。」
さっきの女性が僕の体で立ち上がり、悪びれることもなく喫茶店を後にする。
「お、おい!ちょっと待て!」
追いかけようとするが、足が震えて立ち上がれない。
この状況をどう受け止めればいいのか分からなかった。
家に帰る途中、偶然友人の翔太に出くわしたのは最悪だった。
「おい、なんだその格好!っていうか、お前どうしたんだ?」
彼の視線が僕の腕や胸元に注がれる。隠そうとしたが遅すぎた。
「これ、説明すると長いんだけど…」
仕方なく、喫茶店で起こった出来事を話した。
翔太は最初こそ呆れた顔をしていたが、真剣に話す僕の様子に嘘ではないと悟ったようだった。
「そんなバカな話があるかよ…でもお前、そういう冗談を言うタイプじゃないしな。」
「信じてくれるのか?」
「ああ。で、どうすんだ?このままじゃヤバいだろ。」
翔太の提案で、とりあえず化粧をして目立たないようにすることにした。
慣れない手つきで化粧を始めるが、鏡の中の自分を見てため息をつく。
「やっぱり無理だ。俺にこんなことできるわけがない。」
翔太が仕方なさそうにブラシを手に取り、少しずつメイクを施していく。
「こういうのは慣れだよ。ほら、意外といけるだろ?」
鏡に映った顔は完全に女性だった。
僕はため息をつきながらも、これで何とか外を歩けるかもしれないと思った。
翌日、あの女性がまた喫茶店に現れた。
「どう、慣れた?」
笑顔を浮かべる彼女に、僕は怒りをぶつけた。
「お前、いい加減にしろ!俺の体を返せ!」
彼女は肩をすくめると、気まぐれな口調で答えた。
「1週間だけよ。ちょっとあなたの体を借りるだけ。ちゃんと返すから安心して。」
「1週間って…そんな簡単な話じゃないだろ!」
「大丈夫よ。むしろこの期間、少しは楽しんでみたら?」
その言葉に、僕は呆れて言葉を失った。
家に帰ると、鏡に映る自分の姿をじっと見つめた。
完全に女性になってしまった自分の姿に、改めて現実を突きつけられる。
「1週間か…どうやって乗り切ればいいんだ。」
スカーフで首元を隠しながら、小さなため息をついた。
翔太からは「とりあえず乗り切れよ」と励まされたが、不安は尽きなかった。
この1週間、どうやって過ごせばいいのか。
元に戻れる日は本当に来るのだろうか――そんな考えが頭をよぎる。
新しい日常が始まる中で、僕は自分自身と向き合うしかなかった。
首から下だけ交換されても、今の時期なら厚着でごまかせそうですね。
ボディラインが出る服とか着たらアウトですが。
ショートカットな写真だと、 顔のラインが隠せないので
どうも男っぽくなりますね。
というか男なんですが。
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