
「……ん?」
朝、目を覚ました瞬間、違和感が全身を包んだ。
視界の端にふわりと揺れる袖が映り、妙な重さを感じる胸元に戸惑う。
反射的に自分の手を見下ろすと、指先が細く白い。
「は……?」
低めの声が出ると思ったのに、聞こえたのは澄んだ女性の声だった。
慌てて跳ね起き、近くにあった鏡を覗き込む。
そこに映っていたのは、着物に身を包んだ少女――涼の友人、咲だった。
「ちょっ、な、なんで俺が咲になってんの!?」
鏡の前でパニックに陥る涼(中身は咲)。
その頃、同じように驚いていたのが咲(中身は涼)だった。
公園のベンチで向かい合い、二人は混乱のまま状況整理を試みる。
「つまり、俺たち、入れ替わったってことか?」
涼(中身は咲)がぎこちなく着物の袖を持ち上げながら言うと、咲(中身は涼)は神妙に頷いた。
「ええ……。朝起きたらこの状態で、鏡を見てびっくりしたわ」
「そりゃ、俺だってびっくりしたよ! てか、この格好、落ち着かねえ……」
派手な着物は美しいが、動くたびに袖が邪魔になるし、襟元の締めつけも普段の服とは違う。
涼(中身は咲)は苦戦しながらも何とか座っていた。
一方、咲(中身は涼)は涼のラフな服装に違和感を覚えていた。
「あなたって、こんなにアクセサリーつけるのね……。それに、このズボン、すごく動きやすいけれど、少し落ち着かないわ」
「ははっ、咲がそんなこと言うの新鮮だな」
「だって……」
咲(中身は涼)は、自分の(涼の)手を見つめた。
「これが、あなたの生き方なのね。私は、着物が好きだからこそお淑やかにしていたけれど……あなたは、着飾ることで自分を表現していたのね」
「まあ、そういうことかな」
涼(中身は咲)は苦笑いしながら、着物の裾を直した。
入れ替わったまま迎えた休日。
「なあ、咲」
「なに?」
「せっかく入れ替わったんだからさ、俺でも似合う着物の着こなしを考えてみたくね?」
「え?」
「いや、だって今の俺、めちゃくちゃお淑やかじゃん。でも、咲が俺になった今、俺らしくする方法もあるんじゃね?」
咲(中身は涼)は少し考え込んだあと、口を開いた。
「確かに……。あなたのように、着物でも自分らしさを表現できる方法があるかもしれないわね」
二人は着物屋に向かい、いろいろなコーディネートを試してみることにした。
まず、咲(中身は涼)は帯の結び方を変え、少しラフで動きやすいスタイルを提案した。
さらに、洋服の要素を取り入れ、髪飾りも大胆なものに変更。
「お、なんか俺でもカッコよく見える気がする」
涼(中身は咲)が鏡を覗き込みながら呟くと、咲(中身は涼)も微笑んだ。
「意外と似合っているわね。でも、あなたは普段から目立つのが好きだから、少し華やかにしすぎたかも?」
「いやいや、ちょうどいいって! これなら俺でも着物楽しめるかも」
翌日、二人はそれぞれのアレンジを施した服装で街を歩いた。
「おー、なんかちょっと注目されてる気がするな」
咲(中身は涼)が得意げに言うと、涼(中身は咲)は苦笑した。
「ええ。でも、それだけ目を引くということは、自分をしっかり表現できている証拠ね」
「お、珍しく俺に賛成?」
「まあ、あなたがこんなに着物を楽しんでくれるとは思わなかったから」
咲(中身は涼)は、涼の派手なスタイルを改めて見直していた。
「今まで、私は伝統的な着物の着こなししか知らなかったけれど……こういう自由な着こなし方も素敵ね」
「おっ、それって俺のセンスを認めたってこと?」
「……そういうことにしておくわ」
二人は笑い合い、まるで新しい自分を見つけたような気分だった。
その夜、ふと二人の体が軽くなる感覚がした。
「……え?」
気がつくと、涼は自分の身体に戻っていた。咲も同じく、元の姿だった。
「戻った……?」
「みたいだな」
二人は顔を見合わせる。
「……楽しかったな」
涼がぽつりと言うと、咲は驚いた顔をした。
「え?」
「着物、案外悪くなかったっていうか。派手に着るのもアリかもって思えた」
「……ふふ、じゃあ今度、正式な場でも試してみる?」
「うーん、それはまた今度な!」
二人は笑い合い、まるで新しい自分を見つけたような気分で、並んで歩き始めた。
――伝統も革新も、自分らしく着こなすことが大切なのだ。

着崩すのが嫌いな人もいますが
これはこれで結構好き。
でも、元がしっかりしてないとだらしなく崩れるだけだけど。
そもそもこれ着物じゃないけどね。
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