「はぁ……」
深夜のオフィス街を、三浦彩花（みうら あやか）は肩を落としながら歩いていた。
27歳、広告代理店勤務。激務に追われる毎日。
今日も終電ギリギリまで働き、疲れ果てていた。
「また上司に詰められた……。男だったら、もっと楽に仕事できるのかな……」
そんな独り言を呟いたとき、不意に闇の中から声がした。
「じゃあ、試してみる？」
「……え？」
振り向くと、そこには黒いコートを羽織った不思議な雰囲気の男が立っていた。
「人生を交換しよう。君は男の人生を望んでいるみたいだし、僕は……女の子の人生を楽しみたい。」
「……は？」
冗談のつもりで、彩花は「いいわよ」と答えた。
その瞬間、視界が歪み、意識が途切れた。
「やった……！ 成功した！！」
ベッドから飛び起きた直樹（なおき）は、すぐに鏡の前へ向かった。
そこに映るのは、可愛らしい女の子の姿——三浦彩花そのものだった。
「うわぁ……想像以上に可愛い……！」
手を見つめ、頬を触る。
指は細く、肌はすべすべ。
髪を少し揺らすと、ふわっとツインテールが揺れた。
直樹は歓喜した。
「これが……女の子の体か……最高だな！」
昨夜、彼は確信していた。
『人生を交換できる』なんて話、本当にあるなら乗るしかない！
元々、直樹はロリータファッションに憧れていた。
でも、男として生きる以上、着る勇気もなかったし、周囲の目も気になった。
だけど今は？
もう、誰に遠慮する必要もない。
「よし、さっそく服を選ぼう！」
クローゼットを開けると、スーツやオフィスカジュアルな服ばかり。
直樹は少し眉をひそめた。
「全然可愛くない……！ こんなのダメだ！」
可愛い服を買いに行くしかない。
直樹は彩花の財布を手に取り、意気揚々と外へ飛び出した。
向かったのは、ずっと行きたかったロリータ服専門店。
入り口で一瞬緊張したものの、今の自分は可愛い女の子。
誰も不思議に思わない。
「いらっしゃいませ！」
店内にはふわふわのドレスが並び、まるでおとぎ話の世界。
「うわぁ……すごい……！」
夢見心地のまま店員に相談する。
「あの……初心者でも着やすいロリータ服ってありますか？」
「はい、こちらはいかがでしょう？」
店員が差し出したのは、赤と黒を基調としたゴシックロリータのドレス。
繊細なレース、リボン、フリル……完璧だった。
「これ、試着してみてもいいですか？」
「もちろんです！」
試着室に入り、着替える。
鏡を覗くと、そこには完璧なロリータ少女がいた。
「やばい……可愛すぎる……！」
感動しすぎて、涙が出そうになった。
「これください！！」
さらに、白×ピンクのクラシカルロリータ、夏向けのワンピースロリータなど、気に入った服を何着も購入。
満足感に浸りながら帰宅した。
家に帰るなり、直樹はさっそくファッションショーを始めた。
「じゃーん！ これが今日のコーデ！」
鏡の前でポーズを決め、スカートをふわりと持ち上げる。
「可愛い……！ やばい……！」
次々と服を着替え、スマホで自撮り。
楽しすぎて、時間が経つのを忘れた。
「もう戻らなくていいな……」
今の生活に、何の不満もなかった。
むしろ、男だったころよりずっと幸せだった。
一方、彩花は——。
「え、ちょっと待って、私ってこんなに筋力あったの！？」
朝、鏡を見て驚いた。
スーツを着た自分の姿。
短くなった髪。
完全に男の姿になっていた。
「まじか……交換って、こういうことだったのね……」
最初は戸惑いながらも、男の体の力強さに驚き、仕事が楽になるかもしれない と期待していた。
だが——。
「おい早瀬、お前最近どうした？ ミスばっかりだぞ！」
「す、すみません……」
男になっても仕事の厳しさは変わらなかった。
むしろ、男として期待されるプレッシャーが増え、彩花は疲弊していった。
数日後、彩花は直樹と再会した。
「直樹……お願い、もう元に戻りましょう……」
「え？ なんで？」
彩花が必死に訴える。
「私、男になれば楽になると思ったけど、結局仕事のストレスは変わらなかった。それに、男の体に慣れなくて大変なのよ！」
しかし、直樹は困ったように笑った。
「いや、俺は戻らなくていいや。むしろ、今の方が最高に楽しい。」
「え？」
直樹はフリルたっぷりのドレスを広げ、うっとりした表情で言った。
「だって、女の子になってロリータ服を着るのがこんなに楽しいなんて知らなかったんだもん。戻る理由、ないよ？」
「ちょ、ちょっと待って……！？」
「いやいや、大丈夫だって。男の体、全然問題ないでしょ？」
彩花は愕然とした。
「……本気なの？」
「うん、本気。」
直樹は微笑んだ。
「俺はもう、こっちの人生を生きることにしたから。」
それから数週間後——。
「よう、早瀬。最近落ち着いてきたな。」
「まあね……」
彩花は完全に男としての生活に馴染み始めていた。
一方、直樹はというと——。
「えへへ……今日のコーデも完璧！」
すっかりロリータファッションを満喫し、カフェでお茶を楽しむ毎日。
「元の生活に戻るつもりはないよ。俺は今が一番楽しいから。」
そして、彼は満面の笑みで言った。
「このまま女の子として生きていくよ。だから、よろしくね？ 彩花くん。」
彩花は遠い目をした。
「……マジかよ。」
こうして、二人の人生は大きく変わったのだった。
続きは後日、電子書籍にて。
ロリータファッションの沼にはまるのはかなり危険ですね。
女性でも相当細身にならないと着られないものが多々あります。
贅肉どころか筋肉落としてる人もいるくらいに。
今回の服はそんなに高いものでもないし、努力は不要ですが。
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