雨上がりの午後、日差しが反射する石畳の道を直人はぶらついていた 。
会社帰りの疲れを癒すつもりで寄り道した街道には、どこか懐かしい空気が漂っている。
そんな中、ふと視界に飛び込んできたのは白い着物に身を包んだ女性だった。
その女性は、肩から背中にかけて綺麗なラインを描き、静かに歩いていた。
髪は夜会巻きに整えられ、花飾りが揺れている。
彼女はまるで、時代から切り取られたような存在感だった。
「すみません。」
思わず声をかけた直人は、振り返った彼女の顔を見て息を呑む。
きりっとした目元と、ほんのり色づいた頬。
その表情には優雅さと少しの寂しさが宿っていた。
「はい、何でしょうか?」
静かな声で答える彼女に、直人は勢いで話しかけた。
「お一人ですか? あまりにもお綺麗だったので、つい……」
女性は少し驚いた表情を浮かべた後、微笑んだ。
「お褒めいただいてありがとうございます。少し散歩をしていただけですが……」
直人はそこから話を広げた。
着物についてや、その日の天気、そしてどこか寂しそうな彼女の様子を気遣うように振る舞う。
彼女も適当に話を合わせてくれたが、どこか噛み合わない感じがした。
そのまま話が続き、直人は大胆にも「よかったら家でゆっくりお茶でも」と誘ってみた。
彼女――悠花と名乗った――は一瞬迷ったように見えたが、結局うなずいた。
悠花の住む家は古風な日本家屋だった。
木の香りが漂い、着物の彼女によく似合う空間だ。
直人は心の中で小さくガッツポーズをした。「これなら、この後の展開もスムーズにいけそうだな」と勝手に期待を膨らませたのだ。
しかし、悠花は急に真剣な顔つきになり、こう言った。
「ところで、あなた、私の着物……着てみたいと思いませんか?」
唐突な提案に直人は目を見開いた。
「えっ? いや、そんなことは……」
「嘘です。それならこんなに目で追いませんよ。」
悠花は意味深な笑みを浮かべた。
「でも……男性には着付けも難しいでしょう。それに、あなたの体型では私の着物を着るのは難しいと思います。」
そう言いながら、悠花はスッと手を伸ばし、直人の肩に触れた。
「だから、簡単にしてあげますね。」
次の瞬間、直人は強烈なめまいに襲われた。
目を開けた時、直人は思わず息を飲んだ。
鏡に映っているのは悠花の姿だった。
整った顔立ち、しなやかな腕、そして真っ白な着物。
「な、何だこれ!? 俺、悠花さんになってる!」
声も悠花そのものだ。
動揺する直人に向かって、悠花は――いや、直人の体に入った悠花は涼しい顔で微笑んでいた。
「驚きますよね。でもこれが一番手っ取り早いんです。どうぞ、その身体で着物を楽しんでください。」
「楽しむって……悠花さん、俺の体で何をするつもりなんだ?」
「そうですね、少し動きやすくなったので、外の世界を満喫しようと思います。」
悠花は直人の服を着込み、さっさと家を出て行ってしまった。
悠花が去った後、直人は一人取り残された。
慣れない身体に戸惑いながらも、彼女が言った「着物を楽しんで」という言葉が気にかかった。
着物姿のまま、そっと歩き回る。
鏡に映る自分――いや、悠花――は美しい。
歩くたびに裾が揺れ、帯が体に優しく沿っている感覚が心地よい。
直人は次第に、自分が女性の身体にいることを受け入れ始めていた。
しかし、悠花が戻ってくる気配はない。
時間が過ぎるほど、彼の焦りが募る。
「まさか、俺の体で何か変なことをしてるんじゃ……?」
夜になると、彼は着物を脱ごうとした。
しかし、うまくいかない。
帯の締め方も分からず、余計に混乱してしまう。
結局、そのまま畳に座り込んでしまった。
夜が更け、ようやく悠花が戻ってきた。
直人の体で、何かを達成したような満足げな顔をしている。
「お帰りなさい……俺の体で一体何をしてたんだ?」
「ちょっと、普段できないことを満喫させてもらいました。お互い様ですよね?」
悠花はさらりと言い放ち、再び直人の肩に手を置いた。
次の瞬間、再び身体が元に戻る感覚に襲われた。
元の体に戻った直人は、文句を言いたい気持ちを抑えつつ、悠花に問いただした。
「どうしてこんなことをしたんだ?」
悠花は静かに答えた。
「あなたも、私の着物を着たいと思っていた。それなら、直接着せるより、私の体で味わった方が早いでしょう? あなたの表情を見れば、楽しんでいたのは分かります。」
直人は否定しようとしたが、言葉が出てこなかった。
確かに、美しい着物姿で過ごした時間は不思議と楽しかったのだ。
「また会いたいと思ったら、この街に来てください。」
悠花は微笑み、再び石畳の道を歩いていった。
その後、直人は何度もその街を訪れたが、悠花に会うことは二度となかった。
大分寒くなってきたので、着物着て歩くのはそろそろきついかも?
と、思いつついざ着て歩くと割と気にならないです。私は。
草履に慣れずにそっと歩くこと、着物の裾が引っかかる
あとは着崩れないようにと色々考えていて
暑い寒いを考える余裕がないとも言えます。
正月なんて、割ともうすぐって感覚なので、今のうちに練習をしては?
男が振袖着て浅草寺を歩いていたら、普通に女性から声かけられました。
海外の人も物珍しそうに声かけてくれます♪
まあ、私は浅草まで行かないですが。
都内のどこかには多分行くと思います。
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