
颯太は昔から、自分の顔が少しコンプレックスだった。
整いすぎている。
中学の頃は女子に間違われ、からかわれたこともあった。
だからこそ、VRMMO『リアルクロス・オンライン』で選んだのは、完璧な美少女アバター「ユウカ」だった。
中性的な自分とはまるで違う、華やかで可憐な姿。
その日も颯太は、ゲームの中でフレンドと共にダンジョン攻略に勤しんでいた。
だが、ログアウトしようとしたその瞬間、画面がフリーズし、目の前が真っ白になった。
「……ん、ここは……」
目を開けると、見慣れたはずの天井がやけに高く、視界の端に映る髪の毛が、長い。
体が軽い。
喉が違和感を覚える。
「……うそだろ……?」
鏡の前に立った颯太は、自分がゲームの中のアバター――ユウカの姿になっていることを理解した。
肌は透き通るように白く、栗色の髪は肩まであり、大きな瞳が鏡越しに自分を見返していた。
思わず胸元に手を当てると、柔らかい感触が返ってくる。
「う、うわっ……マジで……女の子になってる……?」
中性的だった自分の顔だから、ウィッグをかぶってメイクすれば似たような外見にはなれただろう。
でもこれは……完全に、女の子だ。
幸いなことに、颯太は一人暮らし。
大学のオンライン講義も、カメラを切っていれば問題ない。
声も、低めの声を出せばギリギリ男っぽく通る。
鏡の前で発声練習をして、何度も自分に言い聞かせた。
「私はユウカ……じゃなくて、颯太。男。元に戻るまで冷静に行こう」
外出は最低限。
通販で頼んだ大きめのフード付きパーカーに、マスクとサングラスを装備。
買い物はセルフレジのみ。
自分の姿に見惚れることも、少しだけあった。
けれど――
「……こんなに、足って細かったっけ……」
シャワーを浴びるとき、着替えるとき、寝る前にパジャマを着るとき。
どうしても、意識してしまう。
女性の体の感覚は、自分のものなのに、自分のものではない。
心がざわめく。
一週間が過ぎたころ、ゲーム運営からメールが届いた。
『一部ユーザーにおいて、アバター意識同期バグが発生しています。現在、修正パッチを配布中』
そのメールと同時に、颯太の体はゆっくりと熱を帯び、次の瞬間には元の男子の体に戻っていた。
鏡に映る、自分本来の姿。
どこかほっとする。
でも……少しだけ、物足りなさもあった。
興味本位で、もう一度ゲームにログインする。
すると、ログイン画面に新たな項目が増えていた。
『リアルモード(ベータ版):アバターの身体で現実世界に投影』
「これは……」
選択肢の下には、注意書きがあった。
『一定条件を満たしたユーザーにのみ使用可能。身体転送は意識同期技術を応用しています。責任は自己負担です』
颯太は、迷った。
でも、再び“ユウカ”として目を覚ましたとき、今度は落ち着いていた。
「……今度は、自分の意思で選んだんだ」
颯太は、日常では元の姿で過ごし、時々“ユウカ”の姿になることを選んだ。
女の子の身体で過ごす時間は、自分の中の新しい一面を知ることができたし、その感覚を否定する必要はないと気づいた。
誰にも言えない秘密。
でも、確かに今、自分の人生が少しだけ自由になったように感じる。
休日の午後、薄紫のシーツに包まれたベッドの上で、ユウカの姿の颯太は微笑む。
「現実がゲームを超えるなんて、思ってもなかったよな……」
手元の端末に浮かぶのは、新たに届いた通知。
『リアルモード正式実装決定!あなたの分身と、もう一人の“あなた”へ』
彼は小さく息をつき、画面を閉じた。
「さて、今日はどっちで過ごそうか」

VRが現実になったらなかなか楽しいかも?
ゴーグルかけてゲームとかしてるだけなのに
外すと性別変わってたらショッキングですけど。
というか気付かないモノなんですかね?
とりあえずモンハンとかの美少女アバターは
大概おっさんだと思ってる。
私も含めて。
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