朝の穏やかな日差しの中、僕はベッドの上で伸びをした。
今日も特に予定のない土曜日だ。
「さて、着替えるか…」
そう呟きながらクローゼットを開けた瞬間、異変に気付いた。
「…あれ?なんで空っぽなんだ?」
いつもきっちりと並べているズボンが、一本もない。
Tシャツやシャツはそのままなのに、下半身用の衣類だけがきれいさっぱり消えている。
代わりに、小さな紙がポケットに押し込まれていた。
> 「全部借りたよ~♡ お姉ちゃんより」
手書きのメモを握りしめ、僕は固まった。
「……は?」
意味が分からないまさか冗談だろうと思い、部屋を見回したが、どこにもズボンらしきものはない。
これは姉の仕業に違いない。
姉の部屋に向かうと、予想通り扉には鍵がかかっていた。ドアを叩くが、返事はない。
「おい、姉ちゃん!ふざけんな!」
何度呼びかけても反応はなく、しばらくしてようやく気付いた。
「まさか…出かけたのか?」
姉のいたずらに怒りがこみ上げる中、ふと時計を見る。
午前10時。
出かけるにはちょうどいい時間帯だが、肝心のズボンがない以上、外に出ることもできない。
「くそっ…どうすりゃいいんだ…」
選択肢を整理する。部屋の中にあるのはTシャツとパンツだけ。
これでは外に出られるわけがない。
そうして思わず目を向けたのが、姉のクローゼットだった。
「いやいや、冗談だろ…」
姉のクローゼットの中には、華やかなスカートやパーカー、ワンピースが整然と並んでいる。
普段は絶対に触れない領域だ。しかし、このままでは何も始まらない。
「……仕方ない。」
震える手でパーカーとスカートを手に取り、急いで着替える。
パーカーは意外とゆったりしていて抵抗が少なかったが、スカートを履いた瞬間、全身に嫌な感覚が走った。
「…うわ、スースーする…」
鏡に映る自分を見て、思わず絶句した。
「誰だこれ…」
そこには見慣れない「女の子らしい自分」がいた。
恥ずかしさを必死で飲み込みながら、僕は玄関を飛び出した。
外に出た瞬間、風がスカートの裾を揺らし、脚元にひんやりとした感覚が広がる。
歩くたびにヒールの音がコツコツと響き、普段のスニーカーとは全く違う感触だ。
「これ…本当に大丈夫か…?」
不安に苛まれながらも駅前を目指して早足で進む。
しかし、すれ違う人々の視線がやたらと気になる。
小さな子供が僕を指差し、母親に何かを囁いているのが見えた。
「うわ、絶対バレてる…」
顔を伏せて歩いていると、近所の井戸端会議中のおばさんたちと目が合ってしまった。
「あら、可愛い子ねえ。」
「あの子、どこの娘さんかしら?」
耳元で聞こえるその声に、胸がざわつく。
羞恥心と焦りで顔が真っ赤になるのを感じた。
駅前のカフェに着くと、ガラス越しに見覚えのある姿を見つけた。
僕のズボンを詰めたバッグを持つ姉だ。
周囲に人がいることを忘れ、大声で呼びかける。
「おい、姉ちゃん!」
姉が驚いたように振り返り、僕を見るなり吹き出した。
「あんた、その格好どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないだろ!全部お前のせいだ!」
店内の注目が集まる中、姉がケラケラと笑いながら言った。
「でも似合ってるじゃん。そのスカート、意外と可愛いね。」
「ふざけるな!」
怒りを抑えきれず、姉のバッグに手を伸ばすが、姉は意地悪く後ろに引っ込める。
「ま、ま、落ち着いてよ。ちょっと遊びたかっただけだから。」
僕がさらに問い詰めると、姉の表情がふと曇った。
「…ごめんね。でも、最近あんた全然私と話してくれないじゃん。」
「え…?」
急な告白に言葉を失う。
確かに最近、学校や部活に忙しく、家族とゆっくり話す時間なんて取っていなかった。
「だからさ、こうやってでも構ってほしかったの。」
姉の言葉に、胸が締め付けられる思いがした。
僕は深呼吸をして怒りを抑え、言葉を選びながら答えた。
「…悪かったよ。でも、次からは普通に言ってくれ。
こんな変な格好、二度としたくないんだから。」
姉は少し笑いながら頷いた。
「うん。分かった。でも、その格好、本当に似合ってたよ。」
「絶対にもうやらない!」
家に帰る途中、スカートの裾が風で揺れる感覚を思い出し、複雑な気持ちになった。
「似合ってた…ってことはないだろ。」
姉との距離が少し縮まった気がした一方で、自分の新しい一面を見せつけられたようで、なんとも言えない気分だ。
ズボンが無くてもスカート穿いてという発想にはならないと思う。
私の服も男女同じくらいの比率になってますし
女性物のズボンは無いので、スカートとズボンも半々ですね。
こういうことされて目覚める人が増えてほしい。
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