
「もうちょっと、角度を…違う、そうじゃないんだよ」
カメラのファインダー越しに、俺はモデルの綾瀬 美咲(あやせ みさき)に指示を出す。
彼女はプロのモデルではないが、今回の撮影ではクライアントの意向で「自然体の魅力を引き出す」ことが求められていた。
しかし、どうにもポーズがしっくりこない。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
美咲が少し不機嫌そうに言う。
彼女の瞳には明らかに苛立ちの色が浮かんでいる。
「いや、だからさ…もう少しリラックスして、肩の力を抜いて」
「抜いてるつもりだけど」
彼女の肩は確かに力が入っていないように見えるが、どうも理想の雰囲気とは違う。
イメージしているのは、もう少し儚げで、それでいて柔らかい雰囲気だ。
「くそ…」俺はカメラを下ろし、髪をかき上げた。
「こういうポーズにしてくれたらいいんだよ!」
そう言って自分でポーズを取ろうとした瞬間——
眩しい光が走った。
次の瞬間、俺は違和感を覚えた。
視界が低く、体が軽い。
そして何より…目の前に俺自身が立っている。
「え?」
俺は——いや、美咲の体になった俺は、目の前の“俺”を見つめた。
「…なにこれ?」
“俺”がそう呟く声は、確かに美咲のものだった。
俺たちは入れ替わってしまったのだ。
「嘘でしょ…? なんで…?」
美咲(俺の体)が自分の手を見つめ、顔を触る。
その動きは完全に俺の癖そのものだった。
「そんなこと言われても、俺だってわけがわからないよ!」
俺は自分の——つまり美咲の手をじっと見つめる。
指が細く、爪には綺麗にネイルが塗られていた。
「と、とにかく落ち着こう…」美咲が俺の声で言う。
「撮影はどうするの?」
「そんなこと言ってる場合か?!」
「だって、もう撮影の時間が…!」
俺たちは顔を見合わせた。確かに、撮影は途中だった。
しかも、カメラマンがいないと進まない。
「……しょうがない。私が撮る」
「は?」
美咲(俺の体)がカメラを構えた。
「カメラの使い方は知ってる。だから、あなたがモデルをやって」
「ちょ、ちょっと待て!?」
言い争っている時間はなかった。俺は半ば強引にポーズを取ることになった。
美咲(俺の体)は、慣れた手つきでシャッターを切り始めた。
「うーん、なんか違うな…」
俺はモデルとして立たされ、ぎこちなくポーズを取る。
「もっと表情を柔らかく! そう、それで腕を…違う、こう!」
「うるさいな!」
「ねえ、今のセリフ、私がさっき言ったやつだよ?」
俺はぐっと言葉を飲み込む。
確かに、美咲の立場になって初めて気づくことがある。
ポーズを指示される側は、思ったよりも大変なのだ。
「ほら、もうちょっと肩の力を抜いて!」
「抜いてるつもりだけど!」
俺たちはさっきとまるで逆の立場になり、言い争いながら撮影を続けた。
撮影が一段落した頃、美咲(俺の体)がカメラを下ろした。
「…ねえ、気づいたことある?」
「……まあな」
俺は、モデルって思ったより大変なんだな、と実感していた。
カメラマンが求める“理想”と、モデルができる“現実”には意外とズレがあるのだ。
「私もね、カメラマンってすごいって思った」
美咲は静かに言った。
「さっき、あなたの体でシャッターを切ってみて、初めて分かった。撮影する側も、すごく頭を使ってるんだって」
「……そりゃあな。カメラマンは、ただシャッターを押すだけじゃない。どうやったら被写体が一番輝くか、常に考えてる」
美咲は俺の言葉に小さく頷いた。
「お互い、ちょっと理解できたかな?」
「ああ」
俺たちは顔を見合わせ、少し笑った。その瞬間——
また、眩しい光が走った。
気がつくと、俺は自分の体に戻っていた。
「戻った…?」
美咲も自分の体を確認し、ほっとしたような表情を浮かべた。
「なんだったんだろう…?」
「わからないけど…まあ、いい経験になったかな」
俺たちは顔を見合わせると、少し照れくさそうに笑った。
「じゃあ、撮影の続きしよっか?」
「おう。今度はちゃんとイメージ伝えるからな」
「私も、もっと柔軟にやってみる」
入れ替わりは突然だったが、俺たちの関係に少し変化をもたらした。
カメラのレンズ越しに見る美咲は、さっきよりも自然な笑顔を浮かべていた——。
続きは後日、電子書籍にて。

撮る方も大変ですが、撮られる方も客観視出来ないので
中々上手くいかないものですね。
割と大げさな感じでやっても丁度いいくらいになるかと。
JOJO立ちなんかやってみると楽しいと思います。
私は無理でした。
コメント