
「お、おい……何だよこれ……!」
鏡に映る金髪に盛ったまつ毛、ピンク色のリップ。
くるくると巻かれた髪を指先でつまんで、俺――佐藤悠真(さとうゆうま)は絶句していた。
どう見ても、俺の顔じゃない。
目の前には、昨日までクラスの問題児とされていたギャル・一ノ瀬ルナの顔が映っている。
「いや、ちょ……ウチも困ってるっての!」
部屋の隅では、俺の身体――つまり元の悠真が、情けない声を上げてうずくまっていた。
眉間には深いしわ。
いつもの俺の真面目な顔が、やけに不釣り合いに感じる。
「な、なんで……俺たち、入れ替わって……」
「夢……じゃないよね、これ。うわ、声までルナじゃん……キモっ!」
「そっちの俺の声で言うなよ……!」
混乱の渦の中、俺たちはなんとか現状を整理した。
どうやら、昨日の帰り道、通学路の神社で変な石を拾って――二人でふざけて同時に「お互いのこと、ちょっとわかってみたいよな」と言ったのが原因らしい。
翌朝目覚めたら、まさかの入れ替わり。
「つーか、これ、マジで終わってる……学校行けるわけなくね?」
「でも……サボったらもっと怪しまれるだろうし……」
俺は震える指でルナのスマホを握り、カメラを起動して自分の姿を確認した。
短すぎるスカート。盛りすぎたネイル。
しかも、ルナって、ブラ……してないんじゃ?
「うわぁぁ……俺の、理性が……試される……!」
「ご、ごめん……ウチ、昨日風呂入ったときノーブラだったかも……」
「頼むからそういう情報は黙ってて……!」
登校初日、俺は生まれて初めてルーズソックスを履いた。
内心ガクガク震えていたけど、さすが地頭の良さが災いして(?)ルナの過去の言動や友人関係を素早く分析、観察して、最低限の受け答えはなんとかこなせた。
「ルナ、今日ちょい大人しくね?」
「ねー、なんかフツーに話通じるんだけど!」
「まじ、前のルナより良くない?」
「やば、天才かも~!」
クラスのギャルたちはむしろ俺に好意的だった。
ルナの中身が俺だとは思っていないらしい。
「ねぇルナ、今日のプリの件だけど~」
「ごめん、今日はちょっと先約あるからパスで~」
「あ、そっか! じゃまた明日ね~!」
あっさりと流してくれた。
これが“ギャルの軽さ”なのか。
一方で――放課後、入れ替わった俺の身体、つまりルナは、ノートを広げて静かに問題を解いていた。
「へぇ……まじめに勉強してるじゃん」
「だって、悠真ってば、頭いいじゃん? なんかさ、字見たら意味が入ってくるって感じでさー、めっちゃラク!」
「それは、地味にショックだな……」
「えへ。てかウチ、マジで今までバカだったな~って思った。世界が違って見えるもん」
数日後――
「ルナ、最近雰囲気変わったよね。前より……洗練されてるっていうか」
生徒会長の倉田先輩にそう言われたとき、俺は心の中でガッツポーズを決めていた。
勉強は完璧、発言はスマート。
地頭と観察力を活かして、ギャルとしての俺は学年でも注目の的になっていた。
SNSでも「最近のルナ、女神じゃね?」「ギャル界の才女」みたいなタグが付き始める。
フォロワーは爆増。
元の俺では味わえなかった“人気者”の快感。
(……もう、戻らなくてもいいんじゃないか)
そんな感情が、ちらりとよぎった。
一方――
ルナの方はと言えば、俺の身体で受ける周囲の信頼感にすっかり味をしめていた。
「ねえねえ、悠真ってさぁ、こんなに周りに頼られてたんだね~」
「そうだよ。俺がどんだけ地味な努力してきたと思ってるんだ……」
「でも、なんかそれってすごい。カッコいい。てか……モテるっぽい?」
「え、なにそれ。俺モテたことなんてないぞ」
「いやいや、今日も女子からチョコもらっちゃったもんね~! しかも二人!」
「お、おい……!」
「でもさ、悠真って、マジで女心わかんないよね?」
「そりゃ男だからな……」
「うん。だからウチがやってるうちに、ちょっとリア充しても……いっかな?」
「……好きにしろよ」
一か月が過ぎた。
俺たちは、完全に“新しい自分”に馴染んでいた。
ルナは勉強面でも成績上昇中、元の俺のクラスでは男女問わず人気者。
しかも、生徒会の副会長まで打診されていた。
今までのギャル姿からは想像もできないキャリアコース。
一方、俺も――いや、ルナの身体の俺は、女子に囲まれながらも、一目置かれる存在になっていた。
ギャルの装いに、知性と冷静さが加わると、どうやら“カリスマ”になるらしい。
「なんかさ……これって、理想的な人生なんじゃね?」
ある日、放課後に神社でルナと顔を合わせて、俺はそうつぶやいた。
「ウチも……ちょっとそう思ってた。悠真の身体、マジでチート」
「お前もな。お前の見た目に、俺の頭突っ込んだら……まさに最強ギャルだよ」
「じゃあさ……このまま、入れ替わったままでいく?」
「……アリだな」
お互いに微笑みあったそのとき、風がふっと吹いた。
ポケットの中の石がかすかに震えた気がした――
後日。
「ルナってさ、ほんと最近すごいよな~! まさか推薦来るとは」
「え~? ま、そゆの、興味ないし~」
と言いつつ、俺は内心にやけていた。
まさか有名大学からオファーが来るとは。
(地味でまじめなだけじゃ得られなかった、もうひとつの自分)
一方ルナも、俺の身体で模試全国50位を叩き出し、女子生徒たちの相談に乗る姿が“イケメンすぎる”と噂に。
「ウチさ、この身体で、もっと勉強して、もっと人の気持ちわかるようになりたいって思ったんだよね」
それは、今までのルナからは考えられなかった言葉。
入れ替わりがもたらしたのは、ただの“変化”ではなかった。
元の自分に足りなかったもの。
それぞれが、もう一人の自分になって知った“可能性”。
――もしかしたら、これが本当の“自分探し”なのかもしれない。

とりあえず今ルーズソックスなんて履いてるんですかね?
それは兎も角、個性って一つだけじゃなかなか微妙。
何かのNo.1は一人しかなれないですからね。
でも2つ以上の特技を組み合わせれば、割とオリジナリティが出るみたいです。
真面目ながり勉×ギャルのノリとか
ギャル×知性とか良くないですか?
私も何か特技とか欲しいんですが。。。天から何も貰えてないです。。。
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