「……はぁ、……はぁ、……っ、死ぬ。マジで死ぬ……」
美咲の身体に入った悠人は、這うような心地で彼女のアパートに帰り着いた。
会社から自宅までのわずかな距離。
悠人の身体なら鼻歌まじりに歩ける距離が、この肉体にとっては重労働だった。
膝は笑い、パンプスの中で足の指が悲鳴を上げている。
鍵を開け、玄関に倒れ込むようにして中に入る。
室内は、主の性格を映したように清潔で、どこか味気ない。
だが、今の悠人にはその静謐さが、自分を閉じ込める檻の静寂のように感じられた。
「……っ、暑い……っ、なんだよこれ、締め付けすぎだろ……!」
悠人は苛立ちに任せ、美咲が毎日丁寧に着こなしていたリクルートスーツのボタンを毟るように外した。
ジャケットを脱ぎ捨て、ブラウスのボタンを弾き飛ばした瞬間。
閉じ込められていた肉体の熱気と共に、「42歳の女性特有の、重く、湿った、濃厚な汗の臭い」がふわっと鼻腔を突いた。
「……っ、うぇ……! おばさんの、匂いだ……」
石鹸の残り香の奥に潜む、糖分を含んだような、生々しい「雌」の臭気。
悠人がこれまで散々、合コンやマッチングアプリで「中古車」と嘲笑ってきた、あの現実的な女の匂い。
それが今、自分の内側から溢れ出している事実に、強烈な吐き気が込み上げる。
しかし、真の地獄はここからだった。
「おい、これ、どうやって脱ぐんだよ……!」
美咲が身を守るように履いていたストッキング。
悠人はその窮屈さに耐えかね、爪を立てて強引に引きずり下ろした。
「バリバリッ」と鈍い音がして、繊細なデニールの生地が無惨に伝染していく。
美咲が大切に扱ってきたはずの衣類が、悠人の雑な所作によって一瞬でゴミへと変わる。
解放された太ももは、悠人の痩せぎすな脚とは違い、驚くほど白く、柔らかく、そして重い。
その質感を目の当たりにしながら、悠人はおぼつかない足取りで洗面台の鏡の前に立った。
「…………嘘だろ。これが、俺……?」
鏡の中にいたのは、自分が職場の背景としてしか認識していなかった、あの「お局」の裸体だった。
重力に抗いきれず下がり始めた豊かな胸。
ウエストのゴムが食い込んでいた跡が生々しい、柔らかく湿った腹部の肉。
指先で触れれば、どこまでも指が沈み込むような、締まりのない肉の弾力。
悠人は、震える手で自分の(美咲の)股間に触れた。
「……ない。……本当に、何もない……っ!」
そこにあるはずの「己の象徴」が消え、代わりに湿った、袋小路のような空虚さだけが指先に触れる。
男性としての自尊心、自分が「選ぶ側」であるという特権意識。
そのすべてが、この湿り気を帯びた肉の器に溶けて消えてしまったような、取り返しのつかない喪失感。
「はは……あはは……。最悪だ。マジで最悪だろこれ……」
悠人はその場にヘタリ込み、再び無様な「女の子座り」のまま、鏡の中の自分を睨みつけた。
だが、どん底の絶望の中で、彼の歪んだ自意識が鎌首をもたげる。
「……待てよ。この肉感……。おばさんだけど、エロさはある」
悠人は美咲の重い胸を、自分の(男の)手つきで下から乱暴に掴み上げた。
掌に伝わる、ずっしりとした女の質量。
「美咲。お前が地味だったのは、お前のセンスがクソだったからだ。俺が、この身体を最高にエロい熟女に仕立て直してやるよ。俺のテクニックで、男どもを跪かせてやる……」
鏡の中の「美咲」は、悠人の浅ましい野心を宿した瞳で、妖しく、そして壊れたように笑った。
その表情は、美咲が42年間一度も見せたことのない、下品で攻撃的な「女」の顔だった。

他人の身体とはいえ、見下した人物になった男の話です。
野心を持って磨けば光るものなんですかね?
個人的な見解としては、こんな精神だと無理でしょうねw
老若男女問わず人を見下す人間は、個人的に受け付けません。
老練なベテランはもちろん、無知な子供の無垢なひと言からも
色々なことに気付かされる、日々勉強の毎日です。
もちろん、立場上の上下関係はありますけどね。
私が関わった範囲での話ですが、常に人を見下すような人は
大概立場が変わる過程で淘汰されてますね。
そんな人達を反面教師に、日々精進していきたい。。。
こんな話を書いてる奴の台詞じゃないなwww
次回:2/24 21:00更新 過去作をリメイクして原型がほぼ消えそう。。。


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