
目を開けた瞬間、青空が視界いっぱいに広がった。
……いや、それだけじゃない。身体が……軽い?
「え?」
透き通るような声が喉から出た。
自分の声じゃない。
慌てて手を見下ろすと、細くて白い腕、そして可愛らしいネイルが施された指先が視界に入った。
信じられない。
地面に反射した自分の姿を見ると、そこには制服姿の女の子が座っていた。
茶色の髪、青い瞳、制服のスカートから覗く破れたタイツ。
まるで、どこかの漫画から飛び出したような美少女。
「これ……まさか……」
混乱の中、後ろから声がした。
「な、なんで俺がスカート履いてるんだよ……!?」
振り返ると、そこには自分――いや、元の自分の体に入った女の子が立っていた。
彼女は自分の身体を触りながら、半泣きになっていた。
「う、うそでしょ……!? どういうことなの……っ」
二人の名前は、優斗(ゆうと)と紗季(さき)。
同じクラスで席も近いけれど、特別仲が良いわけではなかった。
話すのはせいぜい授業で当てられたときくらい。
でも紗季には、誰にも言えない想いがあった。
優斗のことが、ずっと気になっていたのだ。
近づきたいけれど、どうしていいかわからない。
そんな時、図書室で偶然見つけた古びた洋書。
その中に『心を通じ合わせるには、心そのものを入れ替えよ』と書かれていた言葉。
その瞬間、なぜか……本当に入れ替わってしまったのだ。
「……とにかく、今日一日だけ我慢して過ごそう。きっと元に戻るから」
優斗――今は紗季の体の中にいる――は、落ち着いた口調で言った。
一方、元の優斗の体に入った紗季は、内心でガッツポーズをしていた。
だって、これで優斗とたくさん話せる。
「え、ええ……でも……」
不安そうな表情を見せながらも、彼女は心の奥で喜んでいた。
「……心配しなくていい。俺がちゃんとカバーするから。紗季のこと……守るから」
その言葉に、紗季の瞳が揺れた。嬉しさが胸に広がっていく。
数日後。
「……あのさ、紗季。今のままで、少し……どこか出かけてみない?」
入れ替わったままの優斗が言った。
「え? デートってこと?」
冗談めかして返したけれど、心臓がドキドキしていた。
「いや、そういうわけじゃ……でも、せっかくだし、お互いのこともっと知るために、ね」
その提案を受け、二人は街の外れにあるカフェに行くことにした。
紗季の体で優斗が、優斗の体で紗季が、並んで歩く。
おかしな光景のはずなのに、どこか自然だった。
カフェでの時間は、穏やかで心地よかった。
二人は好きな音楽、映画、将来の夢について語り合い、笑い合った。
「ねえ、もし元に戻っても……この関係、続けてくれる?」
カフェの帰り道、紗季がぽつりと呟いた。
「もちろん。むしろ、もっと知りたいって思った」
夕焼けの中、二人の影が並んで伸びていた。
一週間後。
二人は再び図書室に集まった。
「まだ……戻らないね」
紗季がぽつりと呟く。
「……ああ。でも……悪くなかった」
「え?」
「君になって……色々見えたんだ。今まで知らなかった君のこと。……紗季って、強いんだな」
優斗の言葉に、紗季は驚いた顔をしたあと、ゆっくり微笑んだ。
「私も……優斗のこと、もっと近くで見たくて、入れ替わったんだ」
「えっ……?」
「ごめん、あの本、私が見せたの。少しだけズルした。でもね……嬉しかった。優斗が優しくて、ちゃんと私のこと見てくれて」
優斗は呆然としながらも、どこか納得したようにうなずいた。
「じゃあ、これ……君の仕掛けたデートだったのか」
「うん。でも、後悔してない。……君が好きだから」
その瞬間、光が二人を包んだ。
目を開けると、優斗は自分の体に戻っていた。
そして目の前には、紗季がいた。
頬を赤らめながら、こちらを見つめている。
「……おかえり」
「ただいま」
その言葉に、二人は自然と笑い合った。
空は変わらず青く、世界は少しだけ優しくなっていた。

制服じゃなくてただのワンピースですけどね。
気になる男子のことを知りたいからと
体を入れ替えようなんて思う女子はいるんでしょうか?
あと、そういうこと出来るなら、主導権握った方がうまく行きそう。
実際は出来ないし、どうなんてしょうね?
コメント