「少し目を離した隙に、これだもんね。」
声の主は彼女、七海だった。
ピンクのパーカーを手に取り、無邪気に笑っている。
俺はその視線から逃げるように、そっぽを向いた。
「……その、なんとなく、着てみただけだよ。」
七海の部屋に泊まりに来たのは、なんてことない週末の一日だった。
だが、部屋に彼女がいなくなった隙に俺はどうしても好奇心を抑えきれず、彼女のクローゼットを覗いてしまった。
視界に飛び込んできたのは、淡い色合いのカジュアルな服たち。
なんとなく気になったパーカーを手に取り、袖を通した。
それが見つかるとは、思っていなかった。
「似合ってるよ、正直言うと。」七海はそう言うと、俺をじっくりと眺めた。
「でも、どうせならこれも着たら?」
そう言って差し出されたのは、ロングスカートだった。
「え、スカート!?いや、それはさすがに……」
「大丈夫、ロングスカートだから目立たないよ。それに、ちょっと試してみるだけでしょ?」
七海の言葉に逆らえず、俺はしぶしぶスカートに足を通した。
ふわっとした布地が脚に触れる感触が新鮮で、妙に落ち着かない。
「うん、いい感じ。でも……もう少し完成させたいな。」
彼女はそう言うと、俺の手を引いてドレッサーの前に座らせた。
メイクの最中、俺の心臓は高鳴りっぱなしだった。
七海の指が顔に触れるたび、距離の近さに気まずさと興奮が交互に襲ってくる。
「目を閉じて……はい、これで最後。」
「これで、って何が?」
七海が鏡を俺に向けると、そこには見知らぬ「女性」が映っていた。
短い髪型が柔らかなメイクと相まって、中性的な雰囲気を醸し出している。
「どう?意外とイケてるんじゃない?」
俺は鏡越しに自分を見つめ返した。
確かに、悪くない。むしろ、似合っている気すらする。
でも、それ以上に気になるのは――。
「なんか、これ……俺じゃないみたいだ。」
「それが面白いんじゃない。せっかくだし、このまま夜を過ごしてみる?」
夕飯もその姿のまま、七海と一緒に取った。
普通に会話を交わしているのに、スカートの裾が気になって仕方がない。
「なぁ、これ本当に変じゃないよな?」
「全然。むしろ自然すぎて、びっくりしてるくらい。」
七海は微笑みながら言う。その言葉に安心する反面、妙に意識してしまう自分がいた。
夜が更けるにつれ、彼女の視線がやけに気になり始めた。
俺のことをどう思っているのか、今何を考えているのか――。
「ねぇ、今日だけでいいから、このままの君でいてくれる?」
七海の声が静かな部屋に響いた。
その言葉に俺は、ただ頷くしかなかった。
朝になって鏡を覗くと、昨日の自分がそこにはいなかった。
七海が笑顔でそばに立ち、「もう一回やる?」と聞いてきたとき、俺の中で何かが変わり始めている気がした――。
女装したまま相手の女性と一晩過ごすってどんな気分なんですかね?
男女で過ごすはずなのに、相手も女性の格好をしている。
とりあえず違和感は強そうな気がします。
うちでやったときも男っぽくないとか言われちゃいましたね。
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