「ロン!」
その瞬間、俺の視界は真っ暗になった。
友人の陽介が勝ち誇った顔で麻雀牌を叩きつける音が耳に残る。
「また負けたな、直人。で、どうする? 財布の中身は全部いただくけど。」
陽介の声にはわずかに酔いの気配が混じっていた。
俺たちは宅飲みの延長で、悪乗りして賭け麻雀を始めたのだ。
調子に乗って賭けを大きくしすぎた俺は、気づけば負け続け、財布の中身がほぼ空っぽになっていた。
「待てよ、冗談だろ。これじゃ家に帰れないぞ。」
「んー、じゃあ条件付きで服を返してやるよ。」
俺は怪訝そうな顔をする。
すると陽介は、隅に置いてあった袋を引っ張り出し、中から鮮やかなエメラルドグリーンのチャイナドレスを取り出した。
「これを着て、コンビニにお酒買い出し行ってこい。それが罰ゲームだ。」
「は? ふざけるなよ!」
「嫌ならこのままパンイチで帰る?」
他の友人たちも酒の勢いで陽介に同調し、大笑いしている。
反論しようとする俺だったが、体中が羞恥心で熱くなる一方で、逃げ道が見つからなかった。
「……わかったよ、やればいいんだろ!」
結局、俺はチャイナドレスを身につける羽目になった。
陽介たちはさらにウィッグやハイヒールを押し付け、仕上げに軽く化粧まで施してきた。
鏡の前に立つと、そこには見知らぬ女が立っていた。
俺だとわかるのは、この情けない表情くらいだ。
「おお、似合うじゃん!」
「歩き方も練習しておけよ!」
友人たちの声にイラッとしながらも、俺は何とか外に出る準備を整えた。
夜道に出ると、予想通りすれ違う人々の視線が痛い。
俺は足元のハイヒールに気を取られ、何度もよろけながらコンビニに向かった。
「いらっしゃいませー。」店員の声が妙に耳につき、俺は早足でお酒を買い、必要最低限の会話だけで店を出た。
しかし、ここで一つのアイデアが浮かぶ。
「……このままじゃ終われない。」
俺はお釣りを握りしめ、ドラッグストアへ向かった。
そしてファンデーションやリップ、アイシャドウを購入し、友人たちへの逆襲を企てた。
家に戻ると、俺は早速メイクを始めた。
不慣れな手つきながら、ネットで調べた動画を参考に、顔を仕上げていく。
思った以上に女らしくなった自分の姿に、複雑な気持ちが湧き上がる。
「これで奴らを驚かせてやる……!」
意気込んでリビングに戻ると、そこにはぐっすり寝ている陽介の姿があった。
「……おい、起きろよ。」
しかし何度声をかけても起きない。
仕方なく俺は椅子に座り、陽介が起きるのを待つことにした。
気づけば外は深夜になり、リビングの電気も消えていた。
俺はうとうとしながら、いつの間にか外の風にあたるため庭に出た。
「……寒いな。」
チャイナドレスと薄い羽織りだけでは夜風が冷たい。
俺は誰もいないことを確認し、庭のベンチに腰を下ろした。
しかしそのまま眠り込んでしまい、目が覚めたときには朝日が差し込んでいた。
「おいおい、なんでこんなところにいるんだよ!」
近所の人の声で目を覚ました俺は、女装のままで庭にいる自分の姿を思い出し、顔が真っ赤になる。
最終的に陽介たちは俺の逆襲を知り、爆笑しながら謝罪してきた。
しかし、女装したまま朝を迎えた屈辱は、簡単には消えなかった。
「もう二度と賭け麻雀なんかやらねぇ……!」
俺は心に誓った。
だが、チャイナドレスと化粧道具だけは、妙に丁寧に片付けている自分がいた。
賭け麻雀はダメですよ。
せめて10円/1000点くらいで。
財布を空にするのはさすがにね。。。
なんで友人がチャイナドレスやメイク道具を持ってたのか謎ですが
きっと罰ゲームと称して女装沼に引き込みたかったのでしょう。
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