
社会人女性として働く織田香夜は、同僚との付き合いには後ろ向きだった。
だが彼女の正体は、元々は男性だった青年ーー春日悠真。
彼は男である自分が男性を好きだということに悩み続け、誰にも言えないまま、心の中でずっと「本当の自分」になりたいと願っていた。
そしてある日、不思議なことが起きた。
目覚めると、自分は「織田香夜」という女性の身体になっていた。
それも、ただの偶然ではない。
香夜は、悠真が学生時代に通っていた予備校で出会った知り合いの女性だった。
大人になってから偶然再会し、何気ない会話を交わした相手。
しかし、彼女もまた、別の悩みを抱えていた。
「男だったら、もっと出世できたのに……」
彼女はバリバリのキャリア志向で、男性社会の壁に何度もぶつかっていた。
ふとしたきっかけで二人は同じ夜、満月の下でそれぞれ『異なる性別になりたい』と強く願った。
目覚めたときには、身体が入れ替わっていた。
悠真は女性・香夜の身体を得て、香夜は悠真の身体を得た。
最初は混乱と恐怖。
だが、香夜として生活していくうちに、悠真は徐々に女性の身体を受け入れていった。
――悠真視点――
鏡の中に映るのは、自分ではない誰か。
細くて、肌が白くて、柔らかそうな髪が肩に落ちる。
「……これが、女の身体……」
最初は歩くだけで違和感があった。
胸が揺れる、視界が低い、手足の力の入り方が違う。
そして何より、周囲の男性から向けられる視線に戸惑った。
「まるで、品定めされてるみたいだ……」
でも、ある日。鏡に向かってメイクをしてみた。
口紅、チーク、アイライン。
香夜の部屋にあったメイク道具に手を伸ばし、手探りで顔を彩る。
「……意外と、似合ってるかも……?」
少しずつ、「香夜」という存在が自分の中に馴染んでいくのを感じた。
――香夜視点――
目覚めた瞬間、重たい身体に驚いた。声が低い。手が大きい。胸がない。
「な、なにこれ……!?」
悠真の部屋にあったスマホで顔を確認すると、そこに映っていたのは知らない男性の顔。
否、悠真の顔。
慌ててシャワーを浴びるが、洗う手順すら分からない。
ヒゲが気になる。髪もベタつく。
「男って、こんなに雑でいいの……?」
会社へ出社すると、今までの自分にはなかった『声の通りやすさ』や『威圧感』に気づく。
部下の反応もまるで違う。
「……これが、男の社会か」
戸惑いながらも、香夜は徐々に『男』としての振る舞いを学んでいった。
ネクタイの締め方、髪型、立ち方、姿勢。
悠真が日常的にこなしていたであろうことを、一つ一つ自分の中に取り込んでいく。
「悪くないかも。少なくとも、発言が遮られることはない」
だが同時に、女性のときに感じていた『柔らかいつながり』がないことに寂しさも覚えた。
――悠真の恋愛――
新しい職場で出会ったのは、企画部のエース・片桐尚人(かたぎりなおと)だった。仕事ぶりはクールで無駄がなく、見た目は派手ではないが整っていて、声が心地よい。
「織田さん、資料ありがとう。君、丁寧な仕事するんだね」
その言葉に心が跳ねた。まるで初恋のような感覚。
片桐は香夜(中身は悠真)のことを気に入り、食事に誘ってくるようになる。
最初は戸惑いがあった。
「男としての自分が、男に惹かれること」には慣れていたが、「女として男に口説かれること」は別次元だった。
けれど、片桐の優しさ、距離感、真剣さに触れるうちに、心が徐々に傾いていく。
「君って、時々ふと、遠くを見るような目をするよね。何かあった?」
「……えっと、少し前の自分と比べて、色んなことが変わった気がして」
一緒に過ごすうち、手を繋ぐこと、寄り添って歩くことが自然になった。
ある夜、告白された。
「好きだ。付き合ってくれないか」
その瞬間、香夜としての悠真は強く思った。
「この人なら、全部を受け止めてくれる気がする」
それからの恋は、穏やかで優しく、時には熱く深いものになっていった。
キスを交わし、抱きしめ合い、心も身体も、女性として愛される悦びを知った。
――共鳴――
やがて二人は再会し、お互いの経験を語り合う。
「私、もう元に戻らなくてもいいかもしれない」
「俺も……。香夜として生きて、好きな人とちゃんと向き合いたい」
悠真は、真剣に自分に向き合ってくれる片桐と交際を続け、やがてプロポーズされる。
「君が、君でいてくれるならそれでいい。男でも女でも、君が好きだ」
涙を流しながら、彼は頷いた。
香夜の姿のまま、彼、いや、彼女は微笑んだ。
「この人生でもう構わない。私は、私として生きていく」
そして、幸せな未来へと歩き出した。
異なる願いが交差し、ふたりの人生は思わぬ形で動き始めた。
だけど、たどり着いた答えはきっと本物。
これは、『自分らしさ』を手に入れたふたりの物語。

同性愛と性別を変えたいってのは別物なんですよね。
男性で、男が好き=女性になりたいではないわけです。
女装してる=男が好き、愛されたいという人ばかりでもないです。
みんなバラバラなんで、固執した考えは多分危険です。
と、自分の行動に言い訳を付けてみます。
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