
「朝起きたら、なんか世界が違って見える……」
寝起きのぼんやりした頭で鏡を見て、光(ひかる)は叫びそうになった。
「は? なにこれ……俺、光莉(ひかり)になってる!?」
鏡に映るのは、見慣れた妹の顔。
そして制服もスカートになっている。
胸元にわずかに膨らみがあるのも、どう考えても自分の体じゃない。
そのとき、隣の部屋から悲鳴が上がった。
「うっそ!? ちょ、なにこれ!? お兄ちゃんの体!? 鏡割れるかと思ったんだけど!」
慌てて部屋を飛び出すと、そこには明らかに自分の顔をした誰かが、スウェット姿で仁王立ちしていた。
「……光莉?」
「うん、私。そっちは?」
「俺、光……ていうか、なんで体が入れ替わってんの!?」
「知らないよ! 朝起きたらこれだったんだもん! 夢じゃないよね、これ……」
二人はしばし見つめ合い、そして同時に言った。
「……面白そうじゃない?」
■1時間後:朝の支度
光は妹の制服に着替えながら、ふとした違和感を覚えていた。
スカートの感触、胸の重み、髪を結う感覚。
「うわぁ……女子って、こんな面倒なの毎日やってんのか」
「うん。お兄ちゃんの方が楽だったー。てか、男子の体ってなんか重いし、声低いし、座るとき足開きそうになるんだけど」
「それ俺の癖じゃん……」
制服姿で並んだ二人は、完全に兄妹が逆転していた。
だが、顔も似ている上に仕草もすぐに真似できる二人なので、親もまったく気づかず送り出してしまう。
■学校にて:光莉(中身:光)
女子校に転校したわけではないが、光にとって女子として登校するのは初めてだった。
廊下ですれ違う男子の視線が異様に気になる。
「ちょっと待って、みんな俺のこと見すぎじゃない?」
「おはよー光莉ちゃん! 今日もかわいいね!」
「ひゃっ、あ、ありがとう……」
顔が勝手に熱くなる。男子に褒められてドキッとしてしまった自分に驚く。
「俺、何やってんだ……落ち着け、これは光莉の役なんだから……」
教室では女子グループに囲まれ、昼休みはスイーツの話題で盛り上がる。
「光莉ちゃんって、最近ちょっと雰囲気変わったよね〜。
なんか、落ち着いてるっていうか」
「そ、そうかな? うん……ちょっと大人になったってことで」
「キャー、それっぽいー!」
まさか中身が兄になってるとは誰も思うはずもなかった。
■学校にて:光(中身:光莉)
一方、光莉の方は男子としての学校生活にやや興奮していた。
「おー、男子って廊下走っても怒られないんだ! 楽っ!」
「おい光、今日はなんかテンション高いな?」
「そう? いつもと違う感じ? なんか、自由って感じ!」
男友達との距離感にも戸惑いつつも、「男の会話」に慣れてくると、逆に気楽さを感じるようになっていた。
しかし、男子トイレの壁の薄さには困惑した。
「え、こんなに音漏れるの? 無理無理無理……」
体育ではバスケの授業。
いつもなら見学側だった光莉だが、兄の体で動くと自然にボールが扱えて驚いた。
「へー、お兄ちゃんって、こんなに運動できたんだ。……ちょっと楽しいかも」
■放課後:二人再会
学校帰り、駅前のカフェで落ち合った二人はお互いの体験を交換した。
「ねぇ、正直に言って、ちょっと楽しかったでしょ?」
「……まぁ、最初は戸惑ったけど、女子の世界って案外面白いんだなって思った」
「私も! 男子って適当だけど、それが逆にラクだなーって思ったし」
「てかさ、明日も入れ替わってるままだったら……どうする?」
「……もうちょっと続けてみる?」
にやりと笑い合う二人。
兄妹の秘密の“役割交換”は、予想外にスリリングで、新しい自分を発見する旅でもあった。
■その夜:自室にて
「不思議だよな。体が違うだけで、見える世界がこんなに変わるなんてさ」
ベッドに寝転びながら光はつぶやく。
妹の体に宿った自分の心は、今日一日でずいぶん柔らかくなった気がした。
「……でも、もしこのまま戻らなかったら、どうなるんだろうな」
その問いに、答える声はなかった。
ただ、窓の外で静かに夜が更けていった。

双子の男女だと二卵性双生児なんでしょうが
性別違ってても、結構顔って似てる場合ありますよね。
ウィッグで髪型交換して、服も交換すれば
案外誤魔化せる組み合わせはあるかもしれない?
一卵性はそっくりだけど性別も同じだし面白くはないな。
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